作戦開始
「よし」
限られた時間。
少ない材料。
それでも、夜明け前には形にできた。
「なんとか、一発」
はっきり言って不安は大きい。
ブランクがあるし、道具も間に合わせ。
だからと言って試し打ちという訳にもいかない。
六式の弾倉に作った弾薬を込めて特製のホルスターに下げる。
これで準備は整った。
「あとは、時間が来るのを待つばかり、か」
プラムはどうしているだろうか。
まだ、迷っているんだろうか。
「…………」
本当に、これがプラムにとって最善の選択なんだろうか?
「……僕が迷ってどうするんだ」
決めたじゃないか。
プラムを、居るべき場所に帰すんだって。
「そのためなら」
そのためなら、どんな、犠牲だって。
「やめよう」
僕は工具と材料の片づけを始める。
技師は難しく考えるものだけど、衛士は単純に物事を捉えるべきだ。
すべては今日の作戦が上手くいくかどうか。
失敗は、許されない。
「ここが」
俺たちが足を踏み入れたのは、首都から少し離れた場所にある遺跡だった。
この中に、城へと通じる秘密の通路があるらしい。
「そうさ。もともとは首都になんかあった時用の非常手段だったみたいだぜ」
「なにか、とは?」
「そりゃ隣国の侵略とか、都市規模の大災害とかだろ。ま、その前に国政は内側の奴に喰いつぶされて、あげくこの通路は逃げるためじゃなくて外からの侵入に使われるんだから、世の中ってのはなにがあるか分からねえもんだ」
言いつつも、各々が地下を進むための明かりを準備する。
シュウと姫様はランタンを、俺は、胸のペンダントを。
そして。
「おい、なんだ、それは」
「カッケーだろ?」
一人、頭にヘルメットを着けて、そこに護符を一枚貼り付けている。
「ふざけているのか」
「まさか。これなら両手が空くから効率的なんだよ。むしろ、こっから先の時代はこれがスタンダードになるね」
胸を張って、そんな屁理屈を言う。
「お前こそ、そんな時代遅れのものぶら下げてるくせによく言うぜ」
「これは」
一瞬だけ言い淀む。
「……今はこれしか持ち合わせがないんだ。仕方ないだろう」
かろうじて、それだけ言えた。
「…………」
行軍は速やかに、静かに行われた。
誰も、一言も発しない。
「…………」
俺は手から鎖で下げられているペンダントを見つめた。
先ほどは、反射的に、これを大切なものだと言いそうになった。
このペンダントは、姫様に頂いたものだ。
……三年前に。
つまり、これを俺に贈った時、すでに姫様は偽物とすり替わっていた。
それだけじゃない。これまでの八年間、俺があの人を守り続けた日々は、全て偽物だったというのか。
それに、俺の胸に灯るこの感情は何だ?
怒りではない。
そんな簡単な一言では決して語れない。もっと複雑で、手の施しようのない……。
「ついたぜ」
はっと我に返る。
「ここだ。この上に出れば、もう敵の本拠地って訳さ。準備はいいかい?」
「無論だ」
頭を黒衣の騎士に切り替える。
ここから先、感情は不要。
任務を遂行し、姫様を元の御姿に戻す。
「よし。じゃあ、行きますか」
言った本人に気負った感じは無い、むしろ緊張感に欠けるくらいの一言。
俺も、これまでの経験から多少は冷静でいられている。
問題は残りの二人だ。
シュウと姫様、二人の様子はどこかぎこちない。
それは、何に起因するものか。
(今は、問うまい)
俺が姫様を守れば済む話だ。
「こっから先は、隠密かつ迅速にな」
その手が、出口を押し開いた。
「死ぬんじゃねーぞ」
「ああ、お前もな」
そして、三人と一人に分かれる。
作戦、開始だ。




