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ハロー1216  作者: エル
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もう二度と会えぬあなたへ 2

「私の記憶はそこで途切れている。残念ながら、ここから先のことは、私には分からない」

「そう、ですか」

 そんな気はしていた。先生たちがどうなったのか、僕には分からないようになっているんだって。

「この私が君に話せるのはこのくらいのことだ。その子の正体、君たちの敵、あの日に起きたこと。その程度」

「十分です。本当に知りたいことは知ることが出来ました」

 ここから先、僕はどうするべきか。

 その未来は、思い描けた。

「そうか、ならよかった。私も、潔く消えることが出来るよ」

「……恐ろしくは、無いんですか?」

 消えてしまうその瞬間が。

「気にする必要は無いよ。私には、恐怖の感情がないんだ」

「え?」

「恐怖だけじゃない、私はたくさんの欠落を抱えている。抜け落ちている記憶もそう、多くの感情もそう、そして、私は、新たに何かを記憶することも、思考することもできないんだ」

 そんな、そんなのは。

「私はね、やっぱり君の知る先生ではないんだよ。同じ記憶を持っているだけの物だ。会話はできても、新たには、なにも生み出せない。彼女が知らなかったことは永遠に窺い知れない。そういう、存在なんだ」

 あまりにも残酷ではないだろうか。

 先生は、同じ記憶を持ったコピーだと言った。ここまでの会話も、まるで先生と話しているのと同じだった。なのに、欠落や自分が偽物であることを自覚してるなんて。

「そんなに、悲しまないでくれ」

 先生は、困った顔をした。

「私が選んだことなんだ」

「ずるい、ですよ」

 そう選んで決めたのは先生でも、ここにいる先生が選んだことじゃない。

 なのに、なんで。

「役目を全うして消える。それはね、幸福なことなんだよ」

「それは、魔道人形にとってのですか」

「いいや、全ての心ある存在にとってさ。君も、その時が来たら分かるよ。さて」

 先生は、あの日と同じ笑みを浮かべた。

 僕らにとって二度目の、別れは、近い。

「私にはもう一つだけ役割があるんだ。ねえ、シュウジ」


「君はまだ、技師になりたいかい?」


 目を瞑って、自分に問う。

 答えは、簡単に出た。


「僕は、ずっとあそこに居たかったんです」

 あの幸福な場所。先生が居て、師匠が居て、仲間がいる。

 遠く、叶わなくなってなお輝く、その日々。

「技師になろうと思ったのは、そんな日々を守りたかったからです」

 僕も技師になれば、あの輪に加われると思った。

「随分、遠回りしました」

 けれど、守りたい日々の形は変わり、今度は戦って勝ち取らなければならなくなった。

 そして僕には、そっちの才能は、少しはあるみたいだ。

「先生、僕は衛士になります」

 それが、答えだ。

 色んなことの。

「そうか」

 先生は、薄く笑った。

 僕の、好きだった笑みだ。

「なら、君にプレゼントがある」

 先生の首が乗っている台座から、何かがせりあがってくる。

 それは、一つのトランクケースだった。

「1215からの贈り物だ。君が衛士になると決めたのなら、渡そうと思っていたらしい」

 僕は前に出て、それを開ける、中に入っていたのは、一丁の拳銃。

「君のための作られた専用の装備だ。名は『六式』」

 先生が、僕のために。

「そしておめでとう。君は、これで晴れて卒業だ。彼女に代わって、祝福させて貰おう」

「先生」

 六式を持つ手が震える。

 どうしても、聞きたいことがあった。

「先生は、僕のことを、どう思っていたんですか?」

「残念ながら、私の中にその答えは無いよ」

 先生の、ひどく穏やかな言葉が終わると、部屋全体が律動を始めた。

 これは。

「この場所は、私の意識が落ちると同時に崩落するようになっている。その時は、もうすぐそこのようだ」

「先生!」

 僕は先生に手を伸ばした。

 せめて、そのクォーツだけでも。

「駄目です、マスター!」

 プラムが、反対側から僕を引っ張る。

「見てわからないんですか!あのプラグに少しでも触れたら、そこでクォーツは停止してしまいます。そうなれば、私たちは……」

「……」

 伸ばした手が、力なく落ちる。

 分かっていたことだ。

 幻には手が届かないようになっている。

 そういう風に、できている。

「さあ、もう行くんだ」

 もう二度と、会うことは無い。

「先生」

 せめて、あの日言えなかったことを。

「僕は、あなたが好きでした」

「知ってたよ」

 それが、最後の言葉になった。

 僕たちは入ってきたドアから外に出る。同時に、ドアが閉まった。

 それで、内部の崩壊の音すら聞こえなくなる。

「マスター」

「いいんだ」

 先生と師匠が用意した隠れ家だ。

 壊すと言えば完璧に壊す。

 万が一にも、漏れがあったり、サルベージが出来たりということは無いはずだ。

「ねえ、プラム」

「なんですか」

 今、手の中にあるこれが、僕の選んだ現実。可能性は、全てこの扉の向こうに隔絶してしまった。

 でも、もういいんだ。

「僕は、君を本来いるべき場所に帰すよ」

「え?」

 それが、僕の選んだ未来。

 一人の衛士として、騎士として、選んだ、未来。

 


 

 

 

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