コピー
「あらかじめ断っておくとだね、私は君の知る『先生』ではないんだ」
どう見ても先生にしか見えない顔で、先生のものにしか聞こえない声で、そんなことを言われた。
「私はね、本物の1215のコピーなんだ。記憶や感情、人格と言ったものをクォーツに写し、それをスペアの頭部に組み込んだもの。それが、ここにいる私だ」
「コピー?けど、人格も記憶も持っているなら、それは先生とは変わらないんじゃあ」
「それは違うよ、私は彼女の知識も記憶も持っているが、いくつもの欠落を抱えている。そもそも、本物とはクォーツのスペックが全然違うんだ。まぁ、有り合わせに急いで詰め込んだものだからそれは仕方ないんだけどね。私にできることは、せいぜい彼女が過去に経験したことを話すくらいのものさ」
そして、それが自分に課された役目だとも、先生のコピーは語った。
「で、君の後ろで怯えながらこちらの様子を伺っているそのメイドさんが、例のクォーツを組み込んでできた子かい?」
言われて、プラムはびくっと反応を示した。
なににそんなに怯えているのか、僕にはいまいち分からない。
「はい、そうです。先生に託されたクォーツを使って作ったのが、このプラムです」
「うん、いい出来だ。随分と技師として腕を磨いたんだね。あれから、うん?そういえばあれからどれくらいの時間が経っているんだい?」
「三年です」
この先生は、きっと三年の間、ずっとこの場所でスリープ状態だったのだろう。
「三年か。ほぼ教授の予想通りだね」
僕は驚いた。師匠は僕がプラムを起動してここに来るまでの年月まで予想できていたらしい。つくづく、底の見えない人だ。
「さて、残念ながら、この頭部とクォーツが稼働できる時間には限界があるんだ。僕は、僕の役割を果たさなければならない」
そう言うと、先生はまじめな顔を僕に向けた。
「なにから聞きたい?」
僕の答えは、決まっている。
「三年前、僕は先生からあのクォーツを託されました。聞かせてください。あのクォーツの秘密を。師匠は、なにを作ろうとして、そして追われることになったのか」
先生は片目を瞑って難しそうな顔をする。
「ふむ、まずはそこからか。最初に、シュウ、君は一つ勘違いをしている。それを正さなくてはね」
「勘違い?」
心当たりは全くない。
「そうとも。あのクォーツはね、教授が作ったものではないよ」
「そんなバカな。あれだけ精巧な物、師匠以外に作れるはずが」
「いいや、事実だとも。そうだね、じゃあそこから話そうか。私が経験したこと。どうやって、あのクォーツを手に入れたのか。それが、全部に繋がっているともいえるしね」




