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ハロー1216  作者: エル
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穏やかなる日々

「ああ、プラム、お帰り」

「はい、ただいま戻りました、マスター」

 私が、地下の工房で目覚めてから半年が過ぎました。

 それまでに変わったこと、わかったことがいくつか。

 

 まず、今の私には体があります。マスターが用意してくれた女性型、家事育児用の義体で、メイド服を身に纏っています。なぜメイド服なのかというと、マスターの趣味、ではなく。

「ジャンク屋に変わった奴がいてね。そいつがメイド服を着せることを条件にその義体を安く譲ってくれたんだよ」

 嘘みたいな話ですが、本当のことです。

 そのジャンク屋さんには何度もお会いしましたが、そういうことを平気で言いそうな方でした。

 でも、実のところ私はこの体とお洋服が、大変お気に入りだったりします。

 体があり、可愛いお洋服を着ることができる。それは、なににも勝る幸福なのです。

 今の私の野望はオニューのメイド服をマスターに買って貰うことだったりします。切り出すタイミングがとても難しいです。

 

 家事、育児用の義体なので、私の役目は主にマスターの身の回りのお世話になります。育児用の機能は、残念ながら使う機会はありません。マスターは、まだ子供を持つような年ではありませんし。

 私を作った本当の理由は家事を行わせることではなかったそうです。

「数年前まで僕は首都のそこそこいい学校に在籍していたんだ。それがとある理由で通えなくなっちゃってね。その時に僕の師匠が最後に出した課題が、君だったんだ」

そんなことを、マスターは言っていました。

「正確に言うなら、君の頭の中だね」

「頭の中、ですか?」

「そう。魔道人形っていのは義体、回路、そして頭の中に入っているクォーツ、この三つで構成されている。師匠が最後に僕に渡したのは、いま君の中にあるクォーツだった。それを使った魔道人形を起動させることが、僕の課題」

 その時私は、自分の頭に手を当ててなんだか不思議な気持ちになりました。

「クォーツは、人間でいうところの魂に当たる部分だ」

 魂。

 私の中にある、私そのもの。

「それにしても、君は変わってるね」

「なにがですか?」

「普通、魔道人形はそんな風に自分の頭を押さえて、感慨にふけったりはしないものなんだよ」

 そう言うマスターは、どこか嬉しそうで。

「流石、先生と師匠が用意したクォーツだ」

 その理由を、私は聞くことができませんでした。

「……本当はね。君のクォーツを解析していた時に、おかしな記憶容量みたいなものを見つけたんだ」

「記憶?」

「そう。あとから付け足されたみたいな不自然な形でね。だから、君を起動させればなにかメッセージでも入っているのかと思ったんだけど」

「すみません」

 私には、あの地下工房で目覚める以前の記憶は、ありません。

「うーん、まあいいさ。なにか思い出したら言ってね。それで、師匠が出した課題の本当の意味、分かるかも知れないからさ」

 さっきまで嬉しそうにしていたのに、今度は笑っているのに寂しそうでした。

 その理由も、記憶のない私には分からないことでした。


 それから、名前。プラム、というのはマスターがつけてくれました。

「1216じゃあ名前っぽくないしね」

 そういって、マスターはいくつかの候補を上げていきましたが、その中の一つにプラム、というものがあったのです。

「プラム、可愛らしい響きです」

「え?」

 なんだか間の抜けたような顔をしていたました。

「なにか、変でしたでしょうか?」

「変、ではあるかな。感性に可愛らしい、なんてものがあるなんて。でも、分かった。君の名前は今日からプラムだ」

 これもまた大事な贈り物の一つです。

 

 そうして、日々は穏やかに、幸福に過ぎていきました。

 この平穏なる半年間は、私にとっての全てであり、大切な宝物となります。

 これから訪れる困難と、私の運命は切っても切り離せないものでした。

 でも、これだけは言えます。

 この時私は、この幸福がずっと続くのだと信じていたのです。


 


 

 

 


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