星の光
「プラム」
気が付けば声が喉から零れ落ちていた。
僕の視線の先にはプラムが居る。もう動けないと思っていたその義体で立ち上がり、ふらふらになりながらも僕を見て微笑むその姿。
その姿は、なにか淡い輝きに包まれているようで。
「マスターを放せ!」
なんでとか、どうしてとか、そんな思いばっかりが溢れて。
僕は、その光景を呆然と眺めていることしかできなかった.
「あん?」
私に気が付いた衛士がこちらを怪訝そうな顔で見ています。
「なんだよまだ動けんのかよ。おとなしくしてれば……」
「その足をどけろって言っているんです!」
未だにマスターを踏みつけにしている衛士に向かって一歩を、たった一歩を踏み出します。それだけで爆発的な力が足元で巻き起こり、光の尾を引いてまるで流星のごとく私は飛び出しました。
不思議と力の使い方や加減の仕方に戸惑いはありませんでした。その制御を、自然と行える自分がそこにはいたのです。
「なんだと!?」
私が凄まじい速度で迫ってくるのを確認し、衛士は慌ててマスターから足をどけて臨戦態勢をとります。
「ハァァァ!」
ですが私は構わずまっすぐ突っ込んでその拳を握ります。力を集約し、勢いのままに振りかぶった拳を速度に任せて振るいました。
「っく!」
今の、単純な力の比較では私の方に軍配が上がるでしょう。しかし、相手は腐っても格闘技のプロです。私の突き出した拳はいなされ、その威力が発揮されることはありませんでした。続けて連撃のつもりで蹴りを放ちますが、これも空を切り、当たることはありません。
根本的な所で、私は素手での戦闘は素人なのです。これではいかに速度や威力があっても熟練した本職には通じません。
なにか、なにか武器が必要です。
「くそ!なんだ急に!なんなんだ!その光は!」
バックステップで間合いを取った衛士が吐き捨てるように言います。
光。
今私を包んでいる、この力のことでしょう。
この力のことは私にもよくわかりません。ですが、今はどうでもいいことです。
「ハウンド・ドッグ!時間を稼げ!」
その指示を受けて、物言わぬ猟犬は猛然と私に跳びかかってきました。先ほどまでとは違い、今はモップがありません。素手の不利は先ほど痛感させられた後です。
(なにか、武器は)
咄嗟に周りを見回して、私は、それを見つけました。
ハウンド・ドッグの猛追を私は転がるように避けて、そして起き上る時には一本の剣をその手に掴んでいます。
それはマスターが振るっていた片手剣です。幅広で丈夫そうな刃をした特徴的な剣。
私は精神を集中して、剣を握る手に力を込めました。すると、その右手を介して、この剣もまた義体の一部であるという感覚が目覚め、そして。
(力が、流れて……!)
私の中を循環する光が、その剣にもまた宿っていきます。
私は、その力が義体の外に放出され、初めて、その光をしっかりと視認しました。
(銀色の、光)
それは輝ける白銀。
人の生命を凌駕する力。
星の、光。
(ごめんなさい)
迫ってくるのは命令によって襲い来るハウンド・ドッグです。
自身のダメージも、この力も意に介さずただ愚直に主人の命に従う狩人。
私は、心の中で謝り、細心の注意を払ってその体を、軽く薙ぎます。
それだけで、たったそれだけでハウンド・ドッグの義体は真っ二つに分かれ、その活動を停止しました。
クォーツと重要な回路だけは傷つけないようにしましたが、それでも少し心が痛みます。
(ごめんなさい)
もう一度心の中で謝罪し、猟犬の主に向き直ります。
そこには、見たこともない程の巨大な魔法陣を掲げ、今にもその大砲じみた魔力派を打ち出そうとしている衛士の姿がありました。
それも私やマスターのみならず、主人の命令に忠実に従ったハウンド・ドッグを巻き込むのもお構いなしの強大な一撃です。
クォーツが壊れればもう二度と元には戻らないのに。自分のパートナーをそんな風に扱えるなんて、そんなの。
(許せないです)
それに元より私の後ろにはマスターが居ます。最初から避けるという選択肢はありません。
私は剣に込める力を一層強めて、その光を増大させます。
衛士が繰り出そうとしているのは、恐らく最大最強の切り札。それを、私は正面から。
「叩き斬る!」
刀身が輝きに包まれ、その剣そのものが星の刃に変じたようで。
その刃を、私は上段に構えて。
「死にやがれぇぇぇ!」
衛士が魔法陣の完成と共に打ち出した、その光の奔流を。
「やぁぁぁぁぁ!」
全身全霊をもって、切り裂くように星の光を振るいました。
その姿を、僕はプラムの後ろから見ていた。
「星の……光」
プラムが全身に巡らせているのは、カットラスの刀身に宿らせているのは間違いなくその力だ。
この国の人間なら誰でも知っている、特別な力。
こんなところにあってはいけない力。
「先生、師匠」
僕は、拳を握りしめた。
「あなたたちは、何を作ろうとしていたのですか」