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ハロー1216  作者: エル
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決闘 2

「ハァァァ!」

 裂帛の気合をもってハウンド・ドッグを迎撃します。

 向こうは爪、牙、爪とコンビネーションを使って攻撃してきますが、パターンを知っていれば迎え撃つのは難しいことではありません。

 そう、知っていれば、です。

(いいかい、ハウンドドッグはね)

 実は前に同じ型の魔道人形をマスターが修理していたことがあります。

 その時、その特性について聞いていたのです。

(まず攻撃パターンが少ない)

 高速で動くことのできるハウンド・ドッグですが、あまり高度なクォーツを積むことができません。

 高度で複雑なクォーツでは、その速度に耐えられず暴走してしまうんだとか。だから、ハウンド・ドッグに積まれているクォーツは、基本的には量産型の単純で丈夫なもの。ゆえに、動きも単純で、攻撃パターンも少ないのです。

(武器は三つ。まず爪と牙)

 さらなる追撃が飛んできます。こちらの動きを止めるための、腕を狙った噛みつき。腕を引いてモップを噛ませ、力をうまく逸らしてから蹴りを入れてやります。

 効果は覿面でハウンド・ドッグはモップを口から放して面白いように吹っ飛んでいきました。

 体が、軽いような気がします。

(だけど、爪と牙はそんなに脅威じゃない。一番危険なのは、その体そのものだ)

 体勢を立て直したハウンド・ドッグは、今度は力を溜めこむように体を縮こませる動作をとりました。

 あれはやばいやつです。

(ハウンドドッグの速さと体躯を生かしたタックルが、実は一番の脅威なんだ。まともに当たればただじゃ済まない。だけど)

 意識を迎撃から回避に切り替え、力が放たれる瞬間に横っ飛びで避けます。私の体躯ではどこに当たろうとも致命傷になりかねない一撃です。モップで受けたとしても、力を殺し切れずに吹っ飛ばされることでしょう。ですので避けます。

 間一髪、弾丸のようなハウンド・ドッグの突進を回避することに成功しました。

 その上、

「おーっと!ハウンドドッグ着地に失敗!その勢いのまま地面を転がっていく!」

 そうなのです。その一撃は速くて重いのですが、実は避けられても当たっても自身に大きな負荷がかかるもろ刃の剣でもあるのです。

 総じて、ハウンド・ドッグという機体は奇襲や狩りなど、実用的な用途に優れたものであって、こういった正面から戦うような場には不向きと言っても過言ではありません。

 これなら私でも勝てるかも。

 そう思いながらも油断しないようモップを構えなおして迎撃の姿勢をとります。

 それにしても、なんだか違和感を感じます。それも悪いものではありません。むしろ逆です。

(体が、軽い)

 勘違いではありません。今まで感じたことがないくらいに、体は軽いしよく動きます。

 その上、慣れてきたのか目で追うのも一苦労だったハウンド・ドッグの動きがよく見えるようにさえなってきました。

 そして一番の違和感は、自分の中に感じる熱の存在です。

 それはまるで燃料のように熱く燃えて私の中を駆け巡り、私が力が欲しいと思った時にはそれだけの力をこの義体に与えてくれているのです。

(これは、なんなのでしょう)

 自分自身にも、その正体がわかりません。

 だからこそ、不気味でさえありました。

 ですが、都合がいいのも確かです。私は、再度体制を立て直して襲いかかってくるハウンド・ドッグを軽くいなしながら打ち据えて、衛士の方を睨みます。

 何故か衛士の方は、ハウンド・ドッグに指示を出すばかりで動いて来ません。

 まだ一発の攻撃も貰っていない、優位を築き続けている状況だと言えるのに、不安で仕方がありません。

「さあ!試合開始から十分が経過いたしました!残るは高配当のオッズばかり!これだからエキシビジョンは分からない!」

 十分。

 もう十分です。

 この優位な状況もいつひっくり返るか、いえ、それどころかこの綱渡りのような状況、いつ転落するかも分かりません。

 私は、私の義体を駆け巡る力を集中させます。

 次です。次の体当たりに勝負をかけます。

 これまでよりも小さく避けて体制が崩れたところに渾身の一撃で追い打ちをかけます。

 牙、爪、牙。まだです。まだ小さく突いて時期を待ちます。その動作を見逃さないように。

 集中、集中。小さな動作。喉元を狙っての噛みつき。最初と同じようにかちあげるように吹っ飛ばします。

 カウンターを貰ったハウンド・ドッグはそれでも着地し、距離が離れたのをいいことに力を溜め始めます。

 ここ!

 爆発的な跳躍力による突進。しかし、これまでの動作で軌道はすでに読めています。今度は横っ飛びでなく体を半身逸らしてギリギリで躱し。

(やった)

 ハウンド・ドッグは無防備にその体勢を崩しました。私はモップを腰だめに構えて足に力を入れます。

 今度は私からハウンド・ドッグとの距離を詰め、その勢い、体重を全て乗せてモップを振るいます。

 義体の熱も最高潮に達し、この一撃でハウンド・ドッグを戦闘不能に持ち込むと、その確信を持ったその時でした。

「思ったよりも頑張ったじゃねえの」

 ハウンド・ドッグと私の間に影が割り込んできました。

「それもここまでだけどな!」

 一瞬戸惑うものの、逆にこれをチャンスだと捕え私は標的を衛士に変更。少し動作に無理が生じたものの、それでも十分な威力のままモップを衛士に叩き付けようとして、その姿を見失いました。

「え?」

「オラァ!!」

 次いで来たのは腹部への衝撃。モップを構えたまま無防備だった私のボディに、戦闘用のナックルをつけた拳が突き刺さります。

「___!」

 声も上げられないほどの強烈なボディブロー。私はそのまま吹き飛ばされて地面を転がります。

「か、は」

 呼吸もおぼつかなくて立つことすらままなりません。

「倒れたままでいいの、かい!」

 衛士が倒れた私に追撃をくわえようと迫ってきています。

 私はなんとか立ち上がってモップを構えます。

 ですが。

「あ、う」

「オラオラオラ!どうしたどうした!」

 一合、二合、三合と、打ち合うごとに劣勢に立たされていきます。

(見えない)

 衛士の歩法は独特で、ハウンド・ドッグより遅いはずなのに目で追うことができません。

 鋭く、それでいて捉えにくいのです。先ほど一瞬見失ったのも、この足運びで懐まで潜り込まれたのが原因でしょう。

 モップを盾代わりに使って必死に防ぎますが、それもだんだん覚束なくなります。

 このままではまずいと、私はもう一度自分の中で先ほどの熱を起こそうと意識を向けます、が。

「GO!ハウンド・ドッグ!」

 いつの間にか回り込んできたハウンド・ドッグが私の腕に牙を突き立てようと迫ってきています。

 先ほどまでなら難なく躱すことが出来ていた攻撃ですが、こうして衛士と共に攻めてこられると、途端に躱すことが出来なくなります。

「あ、ぐ」

 腕に噛みつかれ、体制を引き下げられました。これでは、もう。

「いい子だ。そのまま抑えとけよ」

 防御も回避もままなりません。

 衛士は腕を大きく振りかぶって私に狙いを定めます。その拳の周りには魔法陣が回転し、ナックルには魔力が充填されていることが分かりました。先ほどとは威力がまるっきり違う一撃が来るのが分かります。

 しかし、ハウンド・ドッグに抑えられた私にはどうすることもできません。

(ああ、これは)

 溜められた力が解き放たれます。その力の奔流をもろに受けて、私は闘技場の端まで吹き飛び、壁に叩き付けられました。

 これは、もうだめでしょう。各部のダメージに、どこか他人事のようにそれを感じました。

 マスター、すみません。頑張ったのですが、すごくすごく頑張ったのですが、ここまでのようです。

「決まったー!必殺のダイナマイトナックル!こいつをくらって立ちあがった人間は存在しない!最早試合終了なの……」

 辺りの歓声も、実況の声も、だんだん遠くなっていきます。ああ、マスター。願うのなら、願えるのなら、どうか、私のことなど気にせず、どこか遠くへ。

「おっと!乱入か!これは!入場口に誰か立っているぞー!」

 ああ、そうか。届きも、しませんでした。その声は、その姿は、わたしの

「プラム!!」

 この広い闘技場の、その向こう側の入り口に、その人は立っていました。

 肩で息をして、見たことのない表情をして、あらんかぎりの声を出して。

 そこに、居ました。

「マスター」

 私の、大切な人。

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