決闘 幕間1
(まだ店に居てくれよシュウ)
普段の運動不足を呪いながら、ジャンク屋に向かって走る。
シュウがまだ店に居てくれるか、それとも自分が居ないと分かりすでに帰った後なのか、それは分からない。だが、シュウの性格なら律儀に待っている方が可能性が高いだろう。ならそれに賭けるしかない。
(行ってください)
(クソ!)
走りながら、さっきのプラムの表情が忘れられなかった。
自分は、あの子を、置き去りに。
(考えるな!)
そもそも、あそこで衛士に向かって行って自分に何が出来るというのか。
ただ返り討ちにあってあそこで転がっているより、走ってシュウに現状を伝えに行く方が何倍もましなはずだ。
そう思ってはいても、ずっと自分で自分を責め続ける。
そんな焦燥感に駆られながら走り続けた。
「おい、どうしたんだ。そんなに息を切らせて」
店に入るとシュウはまだそこに居てくれた。
突然勢い込んで入ってきた俺を見て驚いたような表情を浮かべているが、丁寧に説明している時間はなかった。
「プラムちゃんが連れて行かれた」
「え?」
伝えなければならない。
どれだけ息が上がっていたって、呼吸を整える暇すら惜しいと声を絞り出す。
「組合の奴らだ。衛士で、買い物に出てたプラムちゃんを、攫って」
「ちょ、ちょっと待ってよ。プラムには許可のない外出を禁止してるんだよ。そんなはず」
「事実だ。事実あの子は買い物に出て、捕まっちまった」
「そんな、ばかな。魔道人形がマスターが一度出した正式な命令に逆らえるわけ」
「そんなこと今はどうでもいいだろ!」
余裕なく、俺はシュウの胸ぐらを掴んだ。
「連れてった衛士は闘技場で待つって言ってやがったよ!いつもの見せしめさ!お前プラムちゃんがあんな目に逢いそうになってんのにそんな悠長なこと言ってんのかよ!」
「!」
ようやく事態を呑み込んだのだろう。シュウはいつもとは違う目つきになった。
「すまない。すぐに向かう」
「早く行け、いや、少し待て」
俺は手を放すと店のカウンターの中に倒れこむように入って、隠し棚から一本の武器を取り出す。
「丸腰じゃどうにもなんねえだろ。もってけ。この店で一番いいブツだ」
最後の力を振り絞ってそいつを投げる。
コレクション兼護身用の逸品だ。
受け取ったシュウは一瞬だけ中身を改めるとすぐに慣れた手つきで腰に下げる。
「助かる」
それだけ言うとシュウは店から出て行った。
俺なんかとは比べ物にならない速度で。
「助けろよ」
無理の代償を体で感じながら、俺は呟いた。
もう届かないのは分かっていたけれど、それでも言わずにはいられなかった。
「絶対に助けろよ」