白く雪降る中で、僕らは出会った
今回から話数の表記を無くします。
勝手な都合上、申し訳ございません。
始めの方は見づらくなっていると思いますが、どうか気にせずに読んでくれたら幸いです。
また、編集で内容が変わる可能性があります。
素人な者で誠に申し訳ございません。
「うー寒っ」
第一声がそれだった。
確かに寒い。驚くべきほど寒い。
体感温度では確実にマイナス10度以下だろう。
「全く、ストーブにでも当たりたいよ」
と一人文句を口走った。まあ、しょうがないと思うが。
優真は両手に持っている黒い厚手の手袋をきちんとはめ、凍ってないかを確認する条件反射で、グーパーを2、3回程繰り返した。
そして、よしっと心の中で呟き、今度はライトを付けずにトンネルの中を歩き出した。
「うー寒っ」
優真はこの後も数回同じ事を言った。
地下鉄のホームではもう若鷺が毛布に包まって寝ていた。theホームレスという感じだ。というかそれにしか見えない。
優真は速やかに、若鷺のいびきパラダイスから出ようとしたが、足に何か重いものが巻きついた。
「むにゃむにゃ・・・かわい子ちゃんこっちおいで~」と何か変態的な寝言を言いながら若鷺が足をつかんでいた。
(おい、離せ)
そう思いながら若鷺の手を払う。しかし、やはり男なので力が強い。なかなか離れない。
仕方なく、優真は戸惑いもせず、若鷺の顔面を気絶するくらいの力で蹴った。
ぐう~と若鷺は鼻血を出しながらなお寝ている。
ちなみにもう手は離れていた。
(全く、酒に溺れるからだ)
優真は毛布の中で横たわっている一本のビール瓶をチラリと見ながら思う。
優真はさっさと足を動かした。
寒さは著しく成長している。寒いのオンパレードだ。夏が恋しくなる。
結構冬も好きだけどと思いながら優真は階段を上る。優真は出口付近まで近づくと、地面に落ちている物に気付いた。
白く、半液体化した物質。手のひらにそっと乗せてみる。雪だ。
それのせいでこんなに寒いのか、と優真は奥歯をガタガタさせながら思う。
確か雪は、汚いし埃まみれだと聞いたことがある。今の雪は綺麗に少しはなったかな、とちょっとばかり優真は考えてみる。
優真はその後すぐに、地下鉄入口の壁にもたれ掛かって、頭を半分だけ出しながら外の様子を警戒した。
「やっぱりこんな悪天候でも相変わらず動いてるな」
頭に雪を乗せて身震いしながら、あまり面白くない表情をする。
確かにだ。
今までの大抵の電化製品は雨に弱いし、感電したりして使い物にならない。
ただ今は違う。
優真が見ていた先、これまた白い空飛ぶ物体、
日本国家最高傑作のドローン。それも全方位アラウンドカメラ搭載の監視の上、攻撃を受けたら速やかに警報を鳴らし、独裁者の特別警備隊RRLが出動する。
かつて黒い軍隊と呼ばれていた者達だ。
今は冬仕様なのか、全身真っ白の軍服を着ていて、民衆にはホワイトベレーとも呼ばれている。
白いから雪が降る中では最高の迷彩とも言えるだろう。ただ何処からその予算が出ているか、優真はまだ知る由もなかった。
しかしこの状況は変わらない。
全天候型であるそのドローンは、雪の中でも問題なく動き続ける。
優真は無意識の内に懐にしまってあるリボルバーに手が伸びた。
しんしんと降る雪の中、静けさだけが訪れる。
少し風が強くなった気がした。
ドローンはほぼ無音に近い飛行音で、周辺の巡回を続ける。何も用事が無い分はいいのだが、出来るだけ隠密に仕事をしたい優真にとってはいつも悩まされてる難問の一つだ。
徐々に体温を奪われていく。足の感覚はもう無かった。手の感覚も・・・ほぼ無いに近い。
RRLと戦闘しながら仕事をするか、そんな事をふと頭に過ぎった時だった。
「うぃ~」
そこまで離れて無いところから、締りのない男の声がした。
「~と来たもんだ」
滑舌が悪くて最初の部分は聞こえなかったが、酔っ払ったような声だ。
きっと今まで飲んでいたのだろう。
おぼつかない感じでゆっくりとフラフラ歩いている。しかしながら幸運、優真にとってはチャンスだった。
案の定、ドローンは酔っ払いの方に飛んで行った。
優真はその隙に反対側の路地へと飛び出した。
ドローンは気付いていない。所詮は機械ということか。
優真は素早く移動した後、錆びついたマンホールの取っ手の部分に手を掛ける。
「う~、かじかんでて上手く開かない」
重さ何十キロもあるマンホールだ。そう簡単には開けられないし、それに手がかじかんで上手く開かない、それは当然の事だ。
ガコン、ギーー。
金属同士の擦れ合う音がする。耳障りと言っちゃなんだが、聞こえのいい音ではない。
優真はもっと手に力を込める。
バンッ、と地下の溢れる闇を押し込んでいた蓋を開けた。優真はすかさず、というか憔悴仕切った顔で地下へと潜った。
地下は下水の流れる音が・・・・・しなかった。
なんせ下水を流す者がいなくなったからだ。
人間に優しくないが、環境に優しい、そんなところだ。
優真は地下へと降りると、予め用意してきた懐中電灯を照らした。
少し頬の筋肉を緩める。風が来ない分寒さが和らいだからだ。
早速早足で、目的地から近いマンホールまで行く。こう見えても優真は東京の下水道のルートを全て知っている。
伊達にレジスタンスをやっていない。
走り出すと地下いっぱいに足音が響き渡った。
目的地に行く事によって、全てが一変する事も知らずに。
ガコン、ギーー。
またまた同じ音が、外に吸いこまれるように鳴った。
バタン。マンホールの蓋がズレながら開く。
そこから少しだけ見える暗と明が混ざったような手。手袋は邪魔になるからと、先程外したようだ。素手でほんのり赤くなっている。
優真は上半身から下半身まで地下から出すのにおおよそ十五秒も満たなかった。
優真はすぐに歩き出した。
種々崎ビルは運良く数十メートル先にあった。
第一印象はまさしく廃墟。古臭くてかび臭そうなのが一発でわかるような四階建ての雑居ビル。
コードMはその中をアジトにしているヤクザが持っている様だが・・・。
静かだ。静かすぎる。全階明かりも付いていない。寝ているかもしれないというのが優真の頭に過ぎったが、そんな狙われるもの持っていれば、警備の一人か二人ぐらいは居るはずだ。
優真は素早く懐から、リボルバーを取り出す。
そしていつ敵が現れてもいいように前に構えながらそのビルの中を進んだ。
一階は、特に何も無かった。煙草の焼ける匂いとカビの匂い、それだけしか無かった。
ただ二階以降は違った。明らかに。
最初に違和感に気付いたのは、匂い。もちろん一階でした匂いもするのだが・・・鉄の匂いが微かに鼻腔をかすめた。
そして三階では決定的違和感の証拠があった。床を踏むとぴちゃんと液体を踏む音がした。最初は雪解け水だろうかと思ったが何か違う。敵の気配が全くしないので持っていた懐中電灯を一瞬だけ点けた。
何やら赤いものが見える。
え?と思った。一瞬だけだったが。
血だった。赤い血。
赤い血が水溜りのように廊下いっぱいに広がっていた。
優真の思考には、仲間内か?もしくはもう他のレジスタンスが?という事象が渦巻いていた。
後者の方が優真にとって不都合だ。
ただ、今はそんなことを考えてる時間が無かった。見たところまだ血は新しい。
まだこれを殺った当事者がまだいるかもしれない。
なので優真は忍び足アンド早足でアジトの本部へと突入を決した。扉の横にピタッとつくとすぐに
弾倉の装填を確認し、ふうっと一つ深呼吸をした。そして一拍間を置いた後、扉を蹴り飛ばし大声で叫んだ。
「動くな!!!」
部屋全体に声という衝撃が走った。
最初に目に止まったのは、親玉と思われるいかつい顔の血まみれの死体と、それと同じような顔の子分の死体。
それから、純白のような銀髪の少女が、優真を見て佇んでいた。
・・・え?
優真の心の声の正直な反応だった。
なぜこんなところに女の子が?第二声。
確か、情報によれば男のメンバーだけのヤクザ集団だったはずだ。
だが何故女の子がこんな所にいる?
心の中で同じフレーズを繰り返した。
優真はその少女に注目した。
服装は黒いワンピースに黒いスラックス。
ワンピースは素材から見て、かなり厚手のようなもので、柔らかさはない。
また、スラックスを履いていても、その太ももから見える肉付きの完璧なまでの造形美は、言葉では表せなかった。
対照的なその配色が、余計にその美しくも愛らしい顔を、強調しているかのように思えた。
腰まで伸びた白く輝く銀髪を、マントのように美しく纏った少女は、依然として優真の方をまっすぐ見ている。そこに表情はない。
どちらかというと優真は、その美しさに見とれてたのかもしれない。
身長は見たところ150センチぐらいの小柄な体型だが、その体型ゆえに、天使の様な愛らしさを持った様な感じである。
そして紅い瞳。雪に反射した月の光がよりいっそう、その目の紅を際立たせている。
その目には一切の感情を持たない、氷のような冷たさを感じることが出来た。
そんな少女に優真は見とれていると、少女の口が小さく、かろうじて聞こえるぐらいの声量で開いた。
「誰・・・・・・?」
その声は囁き声にしか聞こえなかった。
優真はその言葉にて我に返り、視線を逸らした後、銃を下ろし、返答した。
「僕は、ユウだ」
あえて本名は言わない。
その少女が漫画的に言うと、悪の手先かもしれないからということで偽名を名乗った。当然の対策だ。
その少女は、頭にはてなマークを乗っけたみたいな顔をしながら、また質問した。
「私は・・・・・・あなた?」
「違う、英語のyouじゃない。日本語のユウだ」
どうやらこの少女は少し天然が入っているようだ。
優真は自分の偽名に訂正を加えた後、聞きたかった疑問について解消しようとした。
「君は、どうしてここに?」
まず最初に思ったことを優真は優しく言ってあげた。
少女は少し考えた後小さな声で言った。
「分からない。お腹が空いたからここに迷い込んだ。でも怖いおじさんが怒鳴ってきて・・・気付いたら・・・ここにいたの。」
その答えのせいで、更に疑問が増えたような気がした。お腹が空いていたのは置いといくとしよう。
怖いおじさんて言うのは、そこにいるヤクザの事かと優真は察した。
少女の返答について、更に追求する。
「気付いたらって、記憶が無いのか?」
「うん、よく覚えてない。何処から来たのかも・・」
少女はか細い声で、そう返した。
優真はさっきのやり取りを、頭の中で一旦整理をしはじめた。
まず、彼女がやって来たのは何処なのかについては、記憶がないそうだ。単なる知らばっくれかもしれないが。そして転がっている複数の死体。これは彼女がやったのか?そしてその異常な光景。彼女の服には、血が一滴たりとも付いてないこと。
その記憶も無いこと・・・。
優真は整理が片づいた後真に迫って質問した。
「これは君がやったのか?」「あっ」
同時に死体だらけの部屋に、二人の声が重なった。
優真は口籠もった。しかし彼女は独り言を続ける。
「いい匂いがしてきた。あっち食べ物」
そう言って彼女は、何故か踵を返して窓枠に両足を掛けた。
優真が危ない!と思った瞬間、彼女は空へと落ちていった。
優真は急いで下を見る。
だが、先程の雪が吹雪に進化したので、全く見えなくなっていた。
「くそ!」
優真は急いで踵を返して階段を駆け下りる。
四階からの高さはおおよそ十三メートル。人間が落ちて死ぬ高さは15メートル以上。
骨が折れている程度で生きているかもしれない。
優真は十秒位で一階までたどり着いた後、すぐに外へ向かった。息を切らす暇が無かった。
人の命だ。見過ごす訳にはいかない。
優真は吹雪の中、彼女を懸命に探した。
しかしながら見つからない。幾ら探しても見つからなかった。
ただ雪に消される足跡だけがそこにあった。
その後はいわなくても分かるだろう。
結局朝になっても見つからなかった。
優真は諦めて、コードMの回収作業に入る事にした。
あの少女については、とりあえず保留にしておくことにするつもりだった。
元々はコードMを回収するために来た仕事だ。
さっさと終わりにしたかった、という気持ちもあるかもしれない。
優真は既に凝固した血液の塊を踏みながら、先ほどの死体がある部屋の分厚い金庫をピッキングしていた。金庫の形としては、ホテルに備え付けられているのと同じのを想像した方がいいだろう。
実は、優真はこういう細かい技術が得意だ。
例えば今のもそうだし、リロードの素早さとか・・・。そんなに無かった。
優真はその後、またあの少女について考えていた。
なぜこんな場所に?
何処かのレジスタンスか?あの死体は彼女がやったのか?
もし凶悪犯なら始末書もんだな・・・。
思わず私情が挟まってしまった。
カチャッと優真が回していた金庫のダイアルが解錠の音を鳴らす。
優真はおおむろにそれを右手で開けた。
しかし、そこには空気ばかりで何もなかった。
そこには疑問ばかりの今日の風と、優真の一つの答えだけがあった。