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一話

ピースブリッジと申します。

この度はハイファンタジーを書こうと思って筆を執りました。

定期更新ではありませんし、かなりの長編を書こうと思っておりますが、宜しければお付き合い下さい。

また、感想など頂ければ至極幸いに存じます。

 何がしたかったかと聞かれれば、特に答えられることはないだろう。

 特に何をしてきた訳でもない人生。生まれ、学びもそこそこに仕事をして、そして他人に生き方を決められる。それに楽しさを見出せなかったかといえばそうでもないが、しかし思い通りに生きてきた訳ではない。


 強いて言えば、自由が欲しかった程度だろうか。指図もされない。自分が食べる物を作り、休みたい時に休む。それくらいできっと満足出来るし、それ以上を望めばきりが無いことも、先人の王族を見れば明らかだ。

 だからこそ考えないように、自分としての役割をこなすことだけを考えて生活してきた。幸いにも貧困ながら生活は安定し、きっとこの生活が続いていくのだと、漠然と思っていた。

 だが、それは違った。



 ……それにしても、現実とはあまりに無情だ。僕たちはもうすぐ、死ぬ。それはまず覆らないだろう。祈ることは出来ても、もちろん戦うことは出来るけれど、勝つことは、ない。


 僕たちは国の最奥部、見上げても果ての見えない崖にある、僅かな深さしかない洞窟にいる。そこは神聖な祠とされ、普段なら立ち入ることさえ出来ない。しかし、城を追われ、逃げ道もないこの祠に残るのは、戦死した国王の代わりに即位したその娘と、国民の女性とその幼子のみ。成人した男は僕だけだった。



 国王は、一週間前に死んだ。戦火が城に及び、戦況を切り崩す為に兵を率いて敵兵へと特攻を仕掛けた。だが兵隊は全滅し、王は帰ってこなかった。


 当然の結果だろう。自国軍は疲弊した兵が二千弱。相手は周辺国の連合軍で、推定で三万強。後詰めを考えればまだ多い。それに対して、全ての軍隊と兵士ではない男を全て連れて戦いを挑んだのだから、僕たちに残されたのは敗北のみだった。


 もちろん、国王はある程度の被害が出たところで、停戦なり敗戦の手続きを取ろうとした。だがそれは認められなかった。使者は殺され、命乞いをした村は焼き尽くされた。侵攻は進み、首都も陥落し、城も堕ち、僅かとなった僕たちは、ただただ逃げた。

 そして、未だ誰も登り切ったことのない崖に追い詰められ、逃げ場のなくなった僕たちは。……自害しようとしている。


 どうやら、連合軍の目的はこの祠のようだった。何をするのかはわからない。だが、僅かに捕らえた捕虜から聞き出した情報によれば、そのようだった。


 ならば、負けて生きることすら叶わないならば。奴らの狙いであるこの祠ごと、爆薬で潰してしまおう。いっそ、皆殺しされるくらいなら、残った仲間と散ろう。……その提案をしたのが、戦死した前国王の娘だった。僅か十二歳という幼子なのだから、世も末である。



 祠に集まった者は皆、逃げる場を共にすることで顔見知り以上の関係になっていた。いくら数えた所で、三十人強しかいないのだから、長い逃亡生活ではむしろ覚えない方が死活問題だった。

 それらの人々が王女を囲むようにして輪になり、手を繋いでいく。特に誰がこうしようと言った訳ではないが、自然とそんな形になっていった。王女を囲む最後の脆弱な砦が築かれていく。


 静まりかえる中、隣にいる幼馴染みが僕に手を伸ばした。反対側からは、その叔母である女性がやはり、手を伸ばしている。僕で、最後だった。


「王女」


 意を決して、声を上げた。

 爆薬も準備が済み、後は王女が火を灯すだけだった。それで全てが終わるはずだった。少なくとも、皆はそう思っているはずだった。

 王女はこちらをじっと見つめたまま、返事をしない。


「僕は、外に出て抗います。一騎であっても、谷に伸びる道に馬が駆ければ、多少の時間稼ぎにはなりましょう」


 予想通り、誰しも驚いた顔や悲しむ顔はしない。ただただ無表情に、虚ろな目で僕を眺めている。唯一は左に見える幼馴染みのみ違っていたが、彼女も声を上げることは出来なかった。

 王女の反応を待つ。


「……沈黙は賛成と致します。レイン・セーバに栄光あれ」


 この言葉は、亡き国王を則った言葉である。彼の王も言い方さえ違えどこの言葉を残して、散った。不謹慎であっても、この状況ではこの言葉を使わざるを得ないと、ずっと考えていた。



 僕は、騎士にはなれなかった。戦士にすら選ばれなかった。戦わず、女子供と共に逃げ延びた。そして、その中で、戦わずして死ぬ。それはあまりにも屈辱だった。

 自由こそなかった人生。それもどう転んだところで終焉を迎える。それならば、最期くらいは思ったように、死んでやろうじゃないか。

 甲冑は着けずに、剣を手に取った。護身用の安物だが、それでも丸腰よりはよっぽど格好が良い。


「待ちなさい」


「王女。最期くらい、僕も男として」


「わかっています。だから、これを」


 王女は完成していた人の砦を割って、奥の壁に立て掛けてあった立派な装飾の剣を持った。年端も行かぬ彼女には重たいのか、多少よろけてしまう。それでも凛とした顔付きで、両手に剣をしっかりと握って僕の方へと歩いてくる。


「これは、この祠の玉と共にこの国に伝わる国宝です。古の竜がこの地に遺したといわれる、大地を切り裂くとも言われる剣です」


 身長が僕の肩にも及ばない王女が、震える手で僕の胸へと剣を押しつける。


「玉は動かす訳にはいきません。連合国の狙いはこの玉であるようですから。しかし、父……いえ、先代の王すらも、この剣は用いませんでした。理由は諸処ある中、私達の意義そのものであるこの剣を敵に渡してはならないという想いからです」


 王女は一息吐くと、一歩下がった。そして両手を胸の前で組むと、瞳を閉じる。まるで、お祈りをするように。


「駆けるのです! 私達の誇りを背負って。私達という存在が、竜の誓いに背かずに戦ったと。命散っても、竜と共にある忠誠は変わらないと。潰えし玉と、手元に残る剣をもって、永遠に私達を遺すのです!」


 剣を握り直す。どこか握った箇所が熱い気がする。


「また、崖の上で会いましょう。……レイン・セーバに、栄光あれ」


「……約束します。崖の上でまた、会いましょう。レイン・セーバに栄光あれ」


 泣いている幼馴染みを見て、薄く笑うように返事をした。伝わったかはわからないが、彼女は涙を拭いながら、歪な笑顔で頷く。


 堅く閉ざされ、内側に大きな閂がされた石扉の前に立つ。

 国を背負って駆ける喜びと、一人で死に逝く恐怖が織り混ざる。



 意を決して閂を外せば、思いの外石扉は軽く開いた。開ければすぐに兵士がいるかとも思ったが、どうやらそれもなく、祠の前の広場へと歩を進める。


 眼下へはひたすらに続く石畳の一本道が続いている。その先には先日まで籠城していた砦があったが、連合軍の旗が棚引いている。

 砦だけではない。その砦を最前線にして、横一面にずらりと兵士が並んでいる。人であることは遠すぎてわからないが、旗が等間隔に並んでいることから、軍隊であることは間違いないだろう。


 僅かに残った、繋がれていた馬に鞍を付け、乗る。幸運なことに乗馬だけは抜きん出ていたので、知らぬ馬といえど造作はなかった。


 剣を鞘から抜く。鞘自体の装飾も派手で立派だが、諸刃となっている刀身にも、宝石などが散りばめられている。



 敵陣を見据え、いななく馬を抑えて剣を天に突き出す。

 低く立ちこめた暗雲に切れ間が見えて、それから朝日が顔を出した。

 その日を浴びて輝く宝石が、まるで戦場という死地を照らしたかの様だった。

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