一人と独り
独りでいることは、悪いことですか?
俺は、昔から一人だった。
一人になる理由は、簡単だった。
事実、一人が楽だったから。
ただ、それだけ。
小学生の頃、一人で遊んでいたら、担任の先生に独りでいる事を怒られた。
『何故、○○君は、独りでいるの? ちゃんと、仲良く友達と遊んでよ。先生の立場も考えてちょうだい。』
俺は、思った。
一人でいる事は、悪い事なのか?
ただ、好きで一人でいるのに。
一人=独り なのか。
先生に怒られてから、精一杯の笑顔を張り付け、クラスメイトと一緒にいることにした。
その姿を見た先生は、安堵の表情を浮かべていた。
こうして、中学も高校も一人でいる事をやめた。
刻が過ぎ、地元の会社に就職した。
今日は、会社の同僚と行き付けの居酒屋に飲みにきた。
ふと、昔の事を思い出した俺は、同僚の田中にずっと抱いていた疑問をぶつけた。
「昔、一人で遊んでいた時…先生に怒られたんだ。
独りじゃなくて、友達と遊べってさ。一人でいる事は悪い事なのか?」
すると、田中はうーんと少し唸りながら…
「一人でいる事は、悪い事じゃないよ。人は、生まれる時も死ぬ時も、独り………孤独だよ。 だからこそ、人は孤独を嫌がる。孤独でいる事がとても怖いんだ。 自分とは違う他者といる事で、安心するんだ。 自分は、独りじゃないんだと……。人は、弱い生き物だから。」
と答えた。
あの時、先生が見せていた表情は、そういう事だったのか。
田中の言葉を聞いて、納得したと同時に安堵した。
そして、俺は、温くなった生ビールを一気に喉に流し込んだ。
一人でいると楽ですが、寂しくもありますよね。