或る二人の青春
どうも。今回は私、桜坂杏里がヒヨリノアメとコラボさせて頂き、Promotion Novelを書かせて頂きました。
だいぶ長くなりましたが、見やすくしたつもりなのでご覧下さいませ。
ラブストーリーですが、少し小難しい気がしますね。
何であんなこと言ってしまったんだろう…
俺は、昨日の事を思い出していた。大学で出会った彼女と半年間共に生活をしてきた。
昨日も彼女と一緒に、ディナーを共にした。
魔が差したんだ。きっと。昨日の俺は、俺じゃなくて違う誰かだと錯覚を起こそうと努める。
「気持ち悪いな。一体何なんだ。この禍々しい不吉な感情は。」
その男は、ふと駅までの道で呟く。twitterではなく、口にだ。
終いに何だかわからない焦燥に駆られる。
「これが梶井基次郎の心境ってやつなのか。さっぱり分からねぇ。」俺は、高校時代に習った『檸檬』の表現を思い出していた。
少々のワインで俺の性格は変わらないはずだ、その時も意識はちゃんと持っていた。それなのに、口が滑って喧嘩になってしまった。法学部で政治家を志望し、人一倍言葉遣いには丁寧になっていた俺がだ。日々の疲れだろうか。
「ねぇ、悟。いつもいつも文献読んで、研究に没頭していて私のこと相手にしてくれないじゃない。」
「うるせぇ。美佳。研究は難しいんだ。それに、精査しなければ首席で卒業出来ねぇんだよ!」
「法学部首席卒業と私、一体どっちが大事なの?」
「それは…」
あの時、俺は一旦躊躇したのだ。三年次の冬である。あと1年と少しで首席卒業が出来る。今は、恋愛なんかに身を置いている場合ではないのだ。
しかし、美佳の家は裕福な家庭で、とある大企業の社長の娘であった。俺が彼女と付き合うことが出来たのも、学力である。
将来のことを考えるとどちらも手放せない。
「両方だ!」
「二兎を追うものは一兎も得ずって言うじゃない。この優柔不断!私もう呆れた。帰る。」
「んめみだいなじょっぱりはもう二度ど顔なんで見だぐねぇ!」
東京の人は皆、こっちを見てきた。どうも都会は嫌いだ。田舎者を馬鹿にするきらいがあるから。
彼女は帰ってしまった。俺はぼんやりと残った食事を食べた。
気落ちして、味もわからなかった。
昨日の記憶が頭を巡る。
もう少しで駅だ。しかし、足取りが重い。大学に行けば、彼女に会うリスクは往々にしてある。きっと避けたいと無意識のうちに思っているんだろう。
改札はもうすぐだ。改札口に立ったら、自分は進むつもりはなくても、後ろにいる人に押され進まざるを得ないだろう。そんな無様なことになるなら、自分から進んでやる。
秋田のじょっぱりは、人に制されるのを拒むのだ。
そりゃあ、頑固者故、自分の言ったことに執着してしまうかも知れない。
でも、周りの風景は変わらないように見えて変わっている。
アイツも日々変わっていく。忘れられていくこの不安が消えてしまう前に、俺も変わっていかなきゃならねぇ。
駅の改札を抜けて、ホームを見ると彼女が座っていた。
俺は気まずくて顔を合わせることが出来なかった。
頑固者はカッコいいと思われるが、一度決めたら破ることが出来ないのだ。下手すれば一匹狼になるかも知れない。
電車が来た。これを見過ごして、次の電車に乗ろうと決めた。
しかし、「発車します。ドアにご注意下さい。」発車の合図が響いた。
その時、足が動き、急いで電車の中に駆け込んだ。
やはり、このままじゃ駄目だ。別れるとしても謝らなくてはならない。
満員電車の中を掻き分け、彼女の乗っている車両に進んだ。
ホームを降りてから彼女に謝ればいいのに、気が焦ってそこまで進んでいた。
そして、大学までの道程を緊張しながらその号車で待った。
上手く謝れるか心配だった。振られることも覚悟の上だ。だけど、恐れている自分もいた。いつもギリギリでの決断をしてきた。頭は良いが、面倒くさがりであった。
頑固者だったけど、自分の意見を通せない。いつも他人の意見に惑わされ、流された俺。
担任の先生には心配された、このままでは破綻すると。
人生が虚しいものだったよ。人に制されて。
そんな俺を救ってくれたのは、美佳であった。
いつものレストランや初めてのコンビニ。彼女の家は階級制度がなくなった日本でも上流階級の家風であった為、庶民の味を知らなかった。
だから、俺の決めた店でも美味しいと言ってくれて。俺が作る料理も美味しいと言ってくれて。自分で決めるという行為に自信が持てるようになった。
不甲斐ない俺を変えてくれた美佳には謝らなければならない。
駅に着いた。彼女は降りた。
俺は後をつけて、改札を出た。
すぐに彼女は気付いた。
「悟…どうして?私、昨日あんなにひどい事言ったのに。そして昨日はごめん。」
美佳は悲しそうだった。彼女もあれから色々あったんだろう。
「謝らなくていいよ。俺も悪かった。ごめんよ。美佳。君は、僕に決断することに自信を与えてくれた。そりゃあ、色々迷惑をかけたかもしれないけど、こんな田舎者の俺に優しく接してくれて。嬉しかった。君はそのままでいい。」
「悟。私こそごめん。悟は親に迷惑をかけないように首席で卒業しようと頑張ってるんだよね。なのに、そんな事も分からずにそんな事言ってしまって。私、悟と行った初めてのデート。今でも覚えてる。確かラーメン屋だったよね。長い列を並んで食べたラーメンいい思い出だよ。」
「あの頃の俺は、身分を気にしすぎていたんだったな。ミシュランに掲載されたあのラーメン。奮発して行ってしまったなぁ。」
「ねぇ、悟。これからも一緒に行ってくれる?」
彼女は涙を流しながらそう言った。
「ああ、勿論だ。俺もメリハリをつけて生活するよ。」
悟は未来を照らす電車に乗り、彼女とよりを戻した。
空を見上げると付き合い始めた日の…あの日の空が笑っていた。
ヒヨリノアメ
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