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仮面魔王(魔界と地続きになった街)  作者: 遠野空
第三章 魔王の妹
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乗り込んで来たアリアドネ

「だ、誰だっ」


 思いっきり動揺した蒼士が問うと、ツインテールの女の子は艶やかな微笑を浮かべた。


「あらあら、可愛い妹の顔をお忘れですか、兄上」


 パーティーに出るのかと思うようなドレスの少女が、猫撫で声で問う。

「あ、兄上っ!?」

 し、しまったっと思ったが、もう遅い。

 しかし、その子は別に驚くこともなく、一転して冷え切った顔で言った。


「ドアを開けなさい、森岡蒼士。どのみち、このアリアドネにはもうバレているわ。兄の置き手紙を読んだのよ」


「……うっ」

 脳内に突き刺さるような言葉だった。

 まさか、そんなものがあったとは。

 しかも、今噂していたばかりの魔王の妹が、向こうからやって来たのだ。いち早く、ティーヌまで捕まえて。




 手まで震えてきた蒼士だが、しかし、こうなると逃げるわけにもいかない。なにしろ、彼女は既にティーヌを押さえているのだ。


 そこで渋々ドアを開けてしまう……もちろん、すぐに女の子――アリアドネは入ってきた。

 ティーヌを肩に担いだままリビングへ向かうと、ソファーに彼女をどさっと荷物みたいに下ろす。前に、ティーヌが亜矢を運んだ時の再現みたいだった。


「ティーヌは生きてるんだろうなっ」


「……その呼び方を許すとは、よほどエグランティーヌは貴方に気を許しているのね」

 意味ありげに笑うと、アリアドネはティーヌの正面に座る。


「安心なさい。今のところ失神してるだけだし、すぐに目覚めるでしょう。……で、貴方はアリアドネの隣に座りなさいね」


 ティーヌのそばに寄ろうとしたのに、止められてしまった。

 やむなく、蒼士は言われた通りに彼女の隣に座る……かなり距離を置いて。

「さて、それでは――」


 アリアドネが何事か言いかけた途端、なぜか外から階段を駆け上がる音がして、またしてもドアが開いた……今度は、勝手に。


 すぐに廊下を走る音が続いて、制服姿の亜矢がリビングに駆け込んできた。




「蒼士さん、さっき、見知らぬ女の子がこのマンションへ入るのが見えて――あっ」

 言いかけ、ニヤニヤ笑うアリアドネを見て、その場で固まってしまう。

 蒼士は頭を抱えたい気分だった。なんで戻ってくるかなと思うが、亜矢の気性なら、少しでもおかしいと思えば、それは戻ってくるだろう。


「なあ、この子は関係ないんだ。帰してやってくれ!」


 一応言ってみたが、やはり首を振られた。

「却下よ。……貴女は、エグランティーヌの隣に座りなさい」

 命じられ、亜矢が蒼士を見る。

 蒼士は頷いて、「言われた通りにして」と声に出した。

 今は、他にどうししょうもない。なんとか隙を見つけて、こいつを何とかできればいいのだが。


「言っておくけど、アリアドネは兄ほど迂闊じゃないわ。つまらないことはせず、大人しくしなさいね。……そもそも、エグランティーヌでさえ敵わなかったのだから、今の貴方じゃどうしたって死ぬだけよ、蒼士」


「わかってる」

 忌々しい思いで頷く……頷くしかなかった。




 エグランティーヌと亜矢、それに蒼士とアリアドネという組み合わせで、向き合った二つのソファーに座っている。

 アリアドネはどういうつもりなのかさっぱりわからなかったが、そのうち、呻き声がして、ティーヌが目覚めた。

 目覚めた途端、珍しくぱっと目を開け、光る瞳でアリアドネを睨む。

「――っ! おのれっ」


「静かに!」


 アリアドネが一喝した。

 蒼士の首に腕を巻き付け、自分の方へ引き寄せながら。


「大人しくできないなら、この蒼士を殺すわよっ」


「だめっ」

 真っ先に亜矢が叫び、ティーヌも悔しそうに唇を歪めた。


「わかった……暴れないと約束するわ」

「そう、それでいいのよ」


 アリアドネは微笑し、心持ち蒼士の身体を離した。

 ただし、腕は抱え込んだままである。この状態でどうやって殺すのか蒼士には見当もつかないが、なにか方法があるのだろう。


「さて、じゃあ蒼士。……どうやってあの馬鹿兄貴を倒したのか、最初から説明しなさい。できれば、その時の君の心情も交えてね」


「なぜそんなことを訊く?」

 不審に思って蒼士が尋ねると、アリアドネはまた艶然と笑った。

 ドレス姿のせいか、笑顔がやけに映える少女だった。


「後で教えてあげる。でも、拒否できないのはわかるでしょ? 脚色せず、詳細に話すのよ……いい?」


 蒼士としては、断る術がなかった。


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