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仮面魔王(魔界と地続きになった街)  作者: 遠野空
第二章 魔王への道
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シーツ姿の子達

 最初、居留守を使うことも考えたが、しかし蒼士達が中に入る時に、ゴブリンどもに見られている。


 魔王が居留守を使っていることが知られると、それはそれでまずいだろう。

 蒼士は生真面目に考え、嫌々玄関に立った。




「だ、誰だっ」


「お休み中、失礼いたします、魔王様。今宵はこちらにお泊まりと聞き、夜の相手を連れてきました」

「よ、夜の相手?」

 なんだそれっとしばらく考え、蒼士は頭がくらくらした。


 魔王の夜の相手といえば、間違っても昔話を語るサービスとかではあるまい。そりゃ、女の子関係に決まっているのである。


 興味は別として、帰れっと言いそうになったが、すり替わっている身ではそれもまずいだろう。

 やむなく、「ちょっと待て」と断りを入れ、蒼士はドアを開けた。




 幸い、廊下に立っていたのはゴブリン兵士ではなく、(多分)低レベルとはいえ、人型の戦士である。腰に剣を吊っている他は、化け物っぽい印象はない。ただし、髪は青色だが。


「お騒がせします……今宵の相手でございます」


 蒼士はそこでようやく、場違いなスーツ姿のそいつの後ろに、女の子が……それぞれ人種も髪の色も違う女の子が、都合六名も立っていることに気付いた。


 みんな例外なく顔を伏せている上、なぜか全員、大型のシーツみたいなのを肩から羽織っていて、特大のてるてる坊主みたいな不気味な外見になっている。




「……なんだよ、その格好」

 いろんな意味で呆れていたのだが、蒼士はまず、その格好に眉をひそめた。

 すると、恭しく頭を垂れていた青髪男が驚いたように少し顔を上げた。


「な、なにか変更がございましたか? たしか以前は『めんどくさいから、すぐに裸にできるようにしておけ!』と仰せだったように思いますが――す、少なくともわたくしはそう聞いております」


 俺の責任ではないのだ、と言わんばかりに青髪が首を振る、振りまくる。

 それより、蒼士は聞かされた話に度肝を抜かれていた。

 ……つまりなにか? この子達全員が今晩の相手で、しかもあのシーツみたいな下は余裕の素っ裸、つまり全裸って話なのか。


 そこまでわかった時、心臓が爆発しそうなほど、ドキドキし始めた。

 外に出そうでまずいっ。


「き、今日は既にお楽しみが控えている。そいつに集中したいんだ!」

「な、なるほど……わかりましてございます」

 幸い、不思議そうには見えたが、青髪は一切、口答えをしなかった。

 そんな真似をするとどうなるのか、山ほど前例があるせいだろう。


「では、こいつらは処分ということで」


「待てこらっ」

 女の子達を促そうとしたそいつを、蒼士は慌てて呼び止めた。

「処分? 処分というと、殺すのか?」


「は、はあ……魔王様は常に一夜限りと聞いておりますので……その、一度見ただけでも飽きるというお話だったはずでは。ですので、こいつらはもう、こうして顔を見せてしまいましたし、その」


 またオドオドと言い訳する。

 蒼士は思わず頭に手をやった……駄目だ、このジェイガンとかいうクソ野郎は、想像を絶するほどの極悪魔王だったらしい。

 話の断片からすると、どうも毎晩毎晩とっかえひっかえで、しかも済んだらみんな後腐れなく殺しているような気がする。


 こうなると、単に追い出すだけでも、この子達がどうなるか危ういのではないか?


 とっさにそこまで考えた蒼士は、顔をしかめて言った。



「ああ、気が変わった。そいつらは、やっぱり置いていってもらおう。まあ、人数が多くても問題ないさ」

 ここはみんな確保しておいて、後でまたティーヌに相談するしかあるまいと、蒼士はそう決心した。無難に帰せる方法があるはずだ。


「わ、わかりました。では、失礼しますっ」


 青髪はほっとしたように深々と腰を折ると、回れ右をして、階段の方へ早足で行く。あからさまに急ぎ足で下りていった。……すぐに、駆け下りる足音に変化した。

 ようやく解放されてほっとしているらしいが、それは蒼士も同じである。


「ただ問題は……この子らか」


 六名がずらっと玄関前に立っているのを見て、蒼士は頭が痛くなってきた。

 しかも、なにか様子がおかしい。全員、てるてる坊主みたいな姿なのは置いて、俯いたまま、身動きもしないのだ。

 ためしに、一人の顔を覗き込んでみると、瞳が茫洋として定まっていなかった。


 顔のすぐ前で手を振っても、反応すらない。


 なんらかの術にかけられているらしい。その証拠に、試しに「中へ入ってくれ」と言うと、みんな命令に従った。


「ああっ、靴は脱いで上がるのっ」

 慌てて訂正を入れると、それにも従う。やむなく蒼士は、彼女達を全員キッチンまで誘導し、厳かに命じておいた。


「楽な姿勢で床に座り、くつろいでいるように」


 ……どうでもいいが、今になってようやく各自の顔を見る余裕ができたが、六名が六名とも、とんでもない美形である。

 意味もなくふつふつと怒りが込み上げてきて仕方ない。


「しかも、一人は見覚えがあるような」


 どう見ても日本人にしか見えない子を見て、蒼士は首を傾げた。

 この子は確か――


 そこまで考えた途端、今度はリビングの方で大きな音がした……もちろん、紅林が目覚めたのだ。


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