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仮面魔王(魔界と地続きになった街)  作者: 遠野空
第二章 魔王への道
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苦し紛れのハーレム発言


「まずいっ。紅林くればやし、今は騒ぐなって!」

「気安く呼ばないでよ、人殺しっ」


 大和撫子やまとなでしこの見本みたいだった紅林亜矢が、人が変わったように叫ぶ。ティーヌが背後で固めた腕の拘束をなんとかほどこうとしていて、めちゃくちゃ暴れていた。


「森岡君を返してっ。返してようっ!」


 俺が森岡だって! と言いたいのは山々だが、今はまずい。

 見かねたのか、いきなりティーヌの手がすっと動き、次の瞬間、紅林はくたっと彼女の腕の中で弛緩した。



「おい、まさか!」

「大丈夫です、気絶させただけです」


 ティーヌ自身も呆れたように首を振っていた。


「本来、蒼士さんにここまで無礼な口を利く女は容赦しませんが。でも、蒼士さんのことで悲しんでいると思うと、殺しにくいですね……」


「いや、殺すなって! 同級生なんだしっ」

 慌てて手を振っているうちに、ドカドカと緑色のゴブリンどもが駆けつけ、全員、その場で平伏した。





「魔王様っ、失礼しました!」

「その女をこちらへっ。すぐに片付けますっ」

「なんでしたら、我々で食ってしまいますっ」


 ぶるぶる震えながら、十匹近く集まった連中が、口々にそんなことを吐かす。

 状況が状況だけに、対応に困るところで……しかも、ティーヌ自身が「どうしますか?」と言いたそうに蒼士を見ていた。


 こ、ここはどうしても、演技力が要求されるらしい。

 蒼士は覚悟を決め、なるべく落ち着いた態度を作り、ニヤッと笑ってみせた。


 上手くできたかどうか自信はないが、少なくとも顔を上げかけていた奴らは、全員がまた頭を路上に擦りつけた。


「ふん、おまえたちに任せる気はないぞ」


 落ち着け、いいか落ち着いて話せ!

 自分自身にそう言い聞かせながら、蒼士はゆっくりと口にする。


「いいから、散れ」

「ま、まさか魔王様、御自らっ」


 驚いたようなざわめきが聞こえたが、蒼士はこれにも首を振った。


「いや……俺はもう決めた。こういう無礼な女は、俺のものにしてくれる」


 必死に考えた末、そう言ってのけたが、途端にゴブリン達がそっと顔を見合わせ、一人が醜い顔を上げた。


「その……では、いつものハーレム行きということですか? 差し出がましいですが、そいつは別に普通の身分の女だと思いますが」


「……うっ」

 いつものハーレムとか言われても、蒼士には何のことやら見当もつかなかった。


 このクソ魔王、ハーレムなんか持ってたのか、死ね!


 などと、大いにむかついただけである。しかし、話を合わせる必要はあり、わざと悠然と頷いて見せた。


「いいさ。たまには俺も普通の女が味わいたい」


 わざとらしく、ティーヌが確保している紅林の元へ歩み寄り、か細いおとがい(下顎)に手をかけて、ぐっと持ち上げた。

 魔王ならしそうなことを、あえて演じたのである。


 ……すると、目を閉じた紅林の失神顔が目を見張るほど綺麗で、逆に動揺する始末である。そういえば、あまり間近で女の子の顔を見たことなどない。


「お、おほんっ。よ、よくよく見れば、そう悪くない女だしな!」


 ごまかすため、超適当にそんなことを言うと、ゴブリン達はまた全員が平伏した。

 なんでまだ帰らないのかと苛々したが、ティーヌが代わりに命じてくれた。


「聞こえたでしょう! ジェイガン様のご決断は下った。全員、元の任務に戻りなさい!」




『ははあっ』


 だみ声が一斉に上がり、ゴブリン達は、短槍を担いで飛ぶように去って行った。

 助かった!


「ティーヌ、ありがとう。ほっとしたよ」


 小声で感謝の言葉を述べたが、ティーヌは目を閉じたまま、俯いていた。

「……え~、どうかした?」


「ハーレム……に入れるのですか、この娘」


 蚊の鳴くような声で、そんなことを言う。

「い、いや、それはただの言い訳! 今そうでも言わないと、あいつらがすっきり納得しないだろうっ」


「……本当に?」

「ホントだって!」


 まさかこんな目立つ美女が自分に嫉妬などするとは思わず、蒼士は心外な気分でそう答えた。

「それより、紅林だよ。ひとまず、部屋まで運ぼう。それからまた考える」


「では、わたしが運びますわ」


 ティーヌはまだじっとりと考え込んでいたが、そのままさっさと紅林を肩に担ぎ上げた。抱き上げるとか、そういうことはしないらしい。


 まるで荷物のような扱いであり、随分なやり方である。

 蒼士はこっそりため息をついた。

 どうも彼女は……自分以外の人間については、さほど敬意を払ってないようだ。


 そこは他の魔族とそう変わらないかもしれない。


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