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序幕2 主要都市テスココ

1 商売の秘訣

 私はついこないだ誕生日を迎え、六歳になった。

 お母さんは私に貝殻のアクセサリーを誕生日プレゼントとしてくれた。私はとても嬉しかった。

 また、一年前から家族になったチマリ、メナウヤも私の誕生日に綺麗な花飾りをくれた。

 私とお母さんは六年前の事件の後、北上し、テスココ市近辺の村に家を建て直した。そこには、親を亡くしたチマリとメナウヤが生活していたのだ。お母さんはチマリとメナウヤを家族の一員として大切に育てた。チマリは私の義兄、メナウヤは私の義妹となったのだ。私は兄弟が欲しかったので、とても嬉しかった。

 そして、今日は新興アステカ国の主要都市テスココに初めて行くことになった。何故テスココに行くかというと、今まで畑で育ててきた農作物をテスココ市場で売るためだからである。

 主に私達家族が畑で育てていたのはカボチャであった。

 主食であるトウモロコシは数年前からアステカ同盟国からの輸入でほぼ賄われており、個人が作ったトウモロコシを買う人々がいなくなってしまったのである。代わりに人々はカボチャや唐辛子、豆などを栽培するようになった。中には『トトリン』という食用の鳥を飼育して売る人もいたようだ。

 私のお母さんは栽培が上手く、今年も上質なカボチャを収穫出来たのだ。

「アトル、チマリ、メナウヤ、今日から貴方達もテスココ市に行くわよ。」

 私達は家を出た。家から近くの広場までは歩き、広場からは人力列車に乗ってテスココに向かった。この国では二百年前に『車輪』というものが発明された。この発明のお陰で人々の行き交いが容易になったのだ。

 また、乗車料は一律でカカオ豆十粒または銅貨一枚で、比較的安かったのである。


……一時間が経った。ようやくテスココ市に到着した。

 そこは沢山の人々が集まり賑わっていた。この時代、テスココには最大で八十万人が集まってくる。近くの村の人々が自前の店を出し、収穫した農作物や釣ってきた魚などを売っていた。

 私達は人目に付く場所を見つけ、そこで近くで歩いている人と交渉をした。作物を売る方法としては、最初に任意で値段を付け、相手と交渉する。

 そして、相手の希望の値段と調整して売るのだ。私達は大抵、カボチャ一個とカカオ豆二個で交換をしていた。

 この国ではカカオ豆が主に通貨として出回っている、これは千年前の旧アステカ王国からあまり変わっていない。

 しかし、最近では銅貨や金貨も増えており、カカオ豆十個で銅貨、銅貨百個で金貨などと両替市場で交換出来た。

 中には、アウキクーナ帝国やカルパサパ帝国で金や銀を割安で仕入れ、この国で売り、お金を稼いでいるやつもいたという。

「今日は果たして何個売れるかな?」

「少なくとも十個は売らないとね」

 カボチャ十個というと直ぐに売れると思うかも知れないが、そう甘くはない。買い物客は他の人のカボチャもチェックし、一番美味しそうなカボチャを選ぶ。まさにそれは生存競争なのである。収穫した作物が売れなかったら収入が入らず、生活が苦しくなるからだ。果てには餓死するものもいるし、奴隷にされるものもいる。


……夕暮れ時が来た。買い物客は帰り、商人は店仕舞いをした。

 私達はお母さんの昔の友人、イッザーおばさんの家へ寝泊まりをした。

 私はその夜に夢を見た。それはアステカの英雄になる夢。新興アステカ国とアウキクーナ帝国が戦争になったときにアステカの戦士としてアウキクーナを倒す夢だ。

 しかし、この時代、女性の戦士など誰も考えないだろう。この国は男女制度があった。いや、男女制度がない国なんてないだろう。男性は力仕事や戦士、女性は家事や育児などと分けられていた。また、奴隷としてでは、男性は肉体労働をさせられ、女性は子供を産むために使われていた。

 本音を言うと、私はもっと自由で縛りのない国に行きたかったのだ。

『皆が幸せになれる国に!』


……夜が明けて、朝になった。



2 トラカエレル学校

「貴方たち、七歳前後でしょ? それくらいの年齢だったらトラカエレル学校に入学するといいわ」

 イッザーおばさんが『学校』という場所を紹介してくれた。

 どうやら、様々な知識を知ることが出来るらしい。私は興奮した。チマリやメナウヤも一度でもいあから通ってみたいと言っていた。

「費用はいくらかかるのかしら?」

 お母さんが心配そうな顔をしながらイッザーおばさんを見ていた。

「心配しないでザーアニア、テスココの教育制度は充実しているのよ。それに十六歳以下だったら学費は国が払ってくれるのよ」

 お母さんは驚いていた。私は学校に行けると思い、喜んだ。お母さんは笑みを浮かべてた。

「学校に通いたいと思うなら通っても構いませんよ。でも、通うことになったらしっかり学んで来なさいね」


……その後、私達は市場から離れて市街地の方へ向かった。

 学校はテスココ市の北西にあり、市場は南東にある。私達は中心の市街地を経由して学校へ行くことにした。

 テスココ市の北西はあまり建物が建っていなくて、見通しが良かった。すぐそこに大きな建物が見えてきた。ここが、トラカエレル学校……!

 トラカエレル学校のすぐ隣にはテスココ湖があり、漁業が栄えていた。テスココ湖は漁業が盛んで、毎日のように魚やザリガニが収獲されていた。

「まずは校長先生に挨拶しないとね」

 イッザーおばさんは私達を校長室に誘導してくれた。校長室は校門を入ってすぐ右側にあった。中に入ると、そこには四十代くらいのおじさんが座っていた。どうやらこの人が校長先生みたいだ。

「君たちはこの学校で学びたいのかね? 前にイッザーから君たちのことを聞いたが、思ったよりも学問に興味心身な顔をしているようだね」

 校長先生は立派なマントを羽織っていた。また、頭には綺麗な羽飾りをつけており、色鮮やかだった。

「この学校を案内しよう」

 校長先生は私達に学校の校舎を案内してくれた。学校内の構造は割と分かり易かった。

 トラカエレル学校の校門をくぐると正面に運動場があった。運動場では『トラチトリ』という昔ながらのスポーツをしていた。トラチトリとはどうやら球技のようで、ゴムボールを手と足を使わずに腰や膝を使って相手のゴールに入れるゲームだ。このスポーツは生贄時代の時、宗教行事として遊ばれていたらしい。

 また、新しく作られた『シラリ・トラチトリ』というスポーツがある。これはトラチトリのは少し違い、足も使っていいスポーツである。手はトラチトリと同じく、使ってはいけない。最近はシラリ・トラチトリが流行っているらしく、新興アステカ国の首都である、テノチティトランで二年に一度大会が開かれているらしい。私は体を動かすのが好きなのでスポーツをやってみたいと思った。

 次に校門を入ると、右側には『校長室』と『職員室』があった。ここは、この学校の先生方の部屋で、生徒への勉強の教え方や、更なる論理や数学、物理化学を日々研究していた。ちなみに、この学校の先生は月給が銅貨四枚程で意外と給料が高いらしい。

 職員室の先には校舎が並んでいた。この学校では様々な年代の人が学んでいる。生徒の最年少は0歳らしい。0歳から3歳になる前の子は幼児部屋で育てられている。幼児部屋は別途料金がかかり、仕事に忙しい家庭はここに幼児を預けているらしい。

 私達の年齢だと、児童部屋で生活習慣を正す授業が受けられるが、一般の授業も普通に受講出来るシステムだ。

 また、この学校独自のセキュリティーシステムがある。それは一人一人に生徒カードが配られる。このカードは授業の部屋に入ることが出来る鍵のようなものだ。これを部屋の前に差し込み半回転させるとドアが開くといった仕組みだ。どうやらこれはこの国の最新システムで王宮にも導入されているらしい。

 私達は校内を一通り回った。特に動植物飼育場はとても印象的だった。初めて見る『リャマ』という動物や、リャマに似ている『アルパカ』という動物も見た。リャマやアルパカは元々、南大陸にいる動物だが、アウキクーナ帝国から送られてきたものが飼育されている。新興アステカ国では、リャマという動物を熱心に研究しているらしく、通常のリャマは身長一メートル六十センチくらいだが、この国が品種改良したリャマは身長が一メートル八十センチくらいあるらしい。新興アステカ国はリャマを人の運搬用として実用化しようとしているらしいのだ。

「これでこの学校の案内はほとんど終わり! 残りは後一つ。君たちの家って、この学校まで遠いだろう? だから、君達が泊まれる寮を空けといた。紹介しよう」

 校長先生は私達に学寮を案内した。

 そこには沢山の生徒が行き交っており、皆勉強に励んでいた。

「ここですよ。今日から君達の部屋です」

 そこは意外と広く、有効活用出来るように設計されていた。寮生活の生徒は朝に広場に集まり、食事をする。そして、夜は自分の寮に戻り寝る。至って単純で分かり易かった。

「君達は今日からこの学校の生徒。勉強をし、世界を知りなさい」


……これから七年に渡り、私達はトラカエレル学校に通うこととなった。



3 世界の神秘

 私達がトラカエレル学校に通い始めてから四年が経った。

 私は十歳になった。

 私達は学問を勉強し、様々なことを学んだ。その中でも特に学んだことが二つある。

 まず、一つ目は文字を習得したこと。アステカ文字だ。この新興アステカ国ではナワトル語が公用語として話されているが、アステカ文字とはナワトル語を文字にしたものである。アステカ文字は象形文字を簡易化したもので、単語同士を繋ぎ合わせてはまた新しい単語を作るということが出来た。

 二つ目は世界をより多く知ったこと。新興アステカ国は北大陸にある国、南大陸にはアウキクーナ帝国やカルパサパ帝国がある。

 また、世界にはまだ見知らぬ大陸があるということ。新興アステカ国は東海洋の島々と貿易を行っていること。アウキクーナ帝国やカルパサパ帝国は東海洋と西海洋の島々と貿易を行っていること。極北には伝説の民族がいることなど。特に印象に残ったものは、世界が球体で出来ていることだ。私達が知っている世界は、ほんの僅かだけでしかない。授業を受けて世界はものすごく広いということを知った。

 これがきっかけで、私はいつか冒険をしたいと夢を見るようになった。

 そこで私は授業が終わると毎回図書室に行き、様々な冒険家達が書き記した本を読んでまとめていた。中には『キープ』と呼ばれる紐で出来たケチュア語の結縄本もあった。キープは主にアウキクーナ帝国やカルパサパ帝国で読まれている結縄文字のことだ。

 私が二年前に初めてキープを見た時には読み方を知らなかったが、キープに興味がありケチュア語の授業に参加したり、ケチュア語について日々独学で勉強をしているうちにそこそこだが読めるようになった。

 世界地理に関しては新興アステカ国よりもアウキクーナ帝国やカルパサパ帝国のほうが優れていた。私はよく結縄本を中心として世界地図を史実通りに描いていた。

 世界の中心と言われているカリブ海峡から見ると、東西南北様々な世界が広がっている。南北に大陸、東西には海洋があった。

 北は北大陸(アステカ大陸)があり、新興アステカ国やアステカ同盟諸国がある。極北は未開の地で、新興アステカ国は毎年アステカ軍を派遣し、調査している。伝説上の話だが、極北にはアストランという理想郷があったと言われている。アストランから更に北へ行くと世界の果てがあり、あの世に繋がっているという噂だ。

 南には南大陸(サパ・インカ大陸)があり、アウキクーナ帝国やカルパサパ帝国などの大サパ・インカ連合国と称される国がある。この大陸は大サパ・インカ連合国がほぼ全ての土地を保持しており、大陸が海に浮かんでいると証明されたことで有名である。他にも、東海洋と西海洋が極南で繋がっていることもわかっている。

 東には東海洋がありカリブ王国が栄えるカリブ島などが存在していた。カリブ王国は北大陸と南大陸の貿易ルートとして様々な民族で構成されており、国自体が毎日お祭りのように賑わっている。

 西には西海洋がある。未知なる島々があり、その果てには未知の大陸があると言われている。未知の大陸には巨大な鳥が繁殖しており、それを操る偉大な王がいるらしい。


……色々と世界地理について語ってきたが、実のところ私は隣国のアウキクーナ帝国にも新興アステカ国の首都テノチティトランにも行ったことがない。

 要するに私はお金がなく、更に一日中と言っていいほど学校内で暮らしているため遠出が出来ないのである。

 また、世界に興味があるのは主に私だけでメナウヤやチマリ、学校の友達は興味があるわけじゃない。そもそも新興アステカ国は大サパ・インカ連合国に比べてみても、外の世界の文献が少ないので資料が少ないのである。

 私はその後も世界を知るためにテスココ各地の図書館を回った。


……そして、三年の月日が流れようとしていた。


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