特別編・ロードバスターズ×ゼロスト 前編
イグラズに降った雪は見事に積っていた。
「まさか積るとはな~、完全に嘗めてたぜ」
「でも雪の感触は気持ちいいわよ」
ミカノがブーツで雪を踏み歩く。
「騒ぎすぎて転ぶなよ」
「平気よっ……!?」
ミカノが転んでしまった。
「痛たたた……」
「言わんこっちゃない」
ムロが手を差し出す。
「えへへ」
ミカノが立ち上がった。
「しかし、こんなに積るとは油断したな」
「雪かきなら手伝ってあげるわよ」
「……それもそうだけど食材がよ」
「自転車には雪は辛いわね……まあ家で食べれば良いだけだけど」
「なんか悪りいよ」
「アタシはアンタの彼女なのよ! 彼氏が困ってたら助けてあげたいわよ!」
「お……おう。ありがたいです」
「分かればよろしい」
ミカノは雪を手で丸める。
「えい!」
「冷た!?」
ミカノが投げた雪が、ムロに当たった。
「あはははは当たったわ~」
「……んの~、そりゃ!」
ムロが雪を投げる。
「当たらないわよ!」
「……しまった!?」
「すみません! アタシが避けたばっかりに」
ミカノは、ムロが投げた雪が当たってしまった人に頭を下げる。
「いや。俺の注意が足りなかっただけだよ。気にしないでくれ」
「オレも御詫びする! 道端で雪を投げ合ってたのが間違ってた」
「やめてくれ。本当に気にしないで」
「そうだぞ」
物陰から少女が現れる。
「雪が当たったぐらいで死にはしない」
「貴女は?」
ミカノが少女に訊く。
「わたしは紅 破耶だ。夏郷とは付き合っているぞ」
「〝かざと〟って誰だ?」
「俺が夏郷、飯沼 夏郷だ。本当に気にしないでくれよ!?」
「……しかし夏郷。まさかこっちの世界でも雪が積もっていようとはな」
「雪用の格好で歩いてるときで良かったな」
「「こっちの世界?」」
「信じられないかもしれないが、俺たちは別世界から来たんだ」
「別世界……どうやって?」
「それが今も全然解ってないんだ」
「え!?」
「こっちの世界に来たのも偶然なのだ」
「……それじゃあ、どうやって戻るんですか!?」
「一定の期間が経つと、身体が光だして勝手に戻るのだ」
「それは大変じゃないですか! あの良ければアタシの家に来ませんか? 両親が暫く不在でアタシ一人だけなんで!」
「いくらなんでも世話になる訳にはいかんぞ」
「それに今日会ったばかりの男女を招くのは色々とまずいんじゃ……」
「お二人は信じても大丈夫だと思います。それにどうせムロも来ますし」
「ムロとは誰なのだ?」
「オレがムロ、ムロ・クライムだ。オレも何だかアンタらは信じれる」
「アタシはミカノ、ミカノ・クライスです。遠慮は要りませんから!」
「どうするのだ夏郷?」
「……御言葉に甘えようか」
「うむ。わたしも構わんのだ」
「そうと決まれば早速、立ち話もなんなんで家に行きましょう。すぐそこなんで!」
四人はミカノの家に向かった。
※ ※ ※
「……これしか無いですけど」
ミカノがコーヒーを出した。
「ありがとう。頂くよ」
「いい香りだな」
夏郷と破耶がコーヒーを飲む。
「飲みやすいな!」
「ほう……主張し過ぎない苦味に程よい酸味、香りに負けない濃くもある……ミカノ、君はカフェが出せるんじゃないか?」
「誉めすぎですよ~」
「破耶がコーヒーを誉めるのは珍しいから自信もって良いよ」
「えへへ。嬉しいです!」
ミカノがエプロンを着けてキッチンに立つ。
「ムロ、気になってるんだが」
「何ですか?」
「ミカノちゃんとは付き合ってるのかい?」
「え……ええ。付き合ってます」
「まったく夏郷は! そういうことは訊いたら迷惑であろう」
「うーん。ただ気になってさ……ただの友達を誰も居ない家に泊めるかなって」
「構いませんよ、別に隠しておくことでもないし」
「よし出来た!」
「何が出来たんだ?」
ミカノがテーブルにパンケーキを出した。
「いつの間に準備してたのかよ?」
「早く食べたかったからよ。あ、お二人共、口に合うか分かりませんが、良かったら食べてください」
「美味しそうだ」
「どう、ですか?」
「うん美味しいよ!」
「良かったあ」
ミカノが笑みを浮かべた。
「ほほう。……ムロがミカノに惚れた理由が分かったのだ」
破耶がパンケーキを食べながら言った。
「……むっ!?」
「落ち着いて食べなさいよ」
ミカノがコーヒーを渡す。
「急な発言に驚いたんだよ」
「んー。ムロの反応が夏郷に似ていて面白いぞ」
「からかわないでくれよ!」
「すまないな。破耶は思ったことをズバズバ言ってしまうことがあってな」
「気にしないでくださいよ夏郷さん。もっとノロケてもバチは当たらないのに、なかなか素直にならないんだもん! いい薬です」
「ミカノちゃんはムロのことが本当に好きなんだな」
「……は、はい」
ミカノが照れる。
「まあ、わたしも負けないくらい夏郷のことが大好きだがな!」
「素敵です! 破耶さん!」
「ははは……もっと称えてくれても構わんのだ!」
破耶が誇らしげにしている。
「……夏郷の彼女は凄いな」
「ああ。楽しそうにしている破耶は色々凄いけど、そこも魅力かな」
「お互い様ってことか」
「彼女に言ったら喜ぶんじゃないか?」
「〝今は〟言わないよ」
「そうか」
ムロがコーヒーを飲み終わり、カップを下げようと立ち上がる。
「そうだ。夏郷、色んな世界を渡ったことがあるのか?」
「あるよ」
「それじゃあ……こういうのを見たことある?」
ムロがポケットから赤い欠片を取り出した。
「これは?」
「武装石の欠片だと思うんだけど、武装石は透明で赤くはないし……そもそも存在する物は消滅したはずなんだけど」
「武装石っていうのがどういう物かは分からないけど、似た物なら持っているよ」
夏郷がポケットから赤い欠片を出す。
「ある世界で貰ったんだが、そこの住人の人から〝持ち続けていれば必ず幸と不幸が訪れる〟と言われてな。一応、持ち歩いていたんだ」
「不幸もかよ!?」
二つの赤い欠片が光だす。
「どうしたの?」
「どうしたのだ?」
ミカノと破耶も見に来る。
欠片が光を増す。
「見てられねえ!」
全員が欠片から目をそらす。
「きゃっ!?」
「何なのだ、指に感触が!?」
光が消え、ミカノと破耶をムロと夏郷が見る。
「あれ……ミカノ、指のそれって!?」
「破耶、それは?」
ムロと夏郷は気づいた。
「……綺麗な指輪!!」
「しかも左手の薬指なのだ!!」
ミカノと破耶がはしゃぐ。
「一体……何が」
「さあ……」
ムロと夏郷は呆然としていた。
「お! この指輪、光るぞ」
破耶の指輪が赤く光ると、破耶が光に包まれる。
「何なのだ!?」
「アタシも!?」
ミカノも光に包まれる。
「ミカノ!」
「破耶!」
「ムロ!」
「夏郷!」
光に包まれたまま、ミカノと破耶が消えてしまった。
「……消えた……だと」
「何処に消えたんだ!?」
二人が家中を探し、更に外に出て見渡す。
「夏郷。もしかして元の世界に帰ったとか!?」
「あの感じは違ったよ。もし戻るなら俺も戻るはずだし」
「そうか……」
ムロが考え込む。
「アテはあるか、ムロ?」
「……夏郷、一緒に来てくれるか?」
「もちろんだ」
「よし、早速出発だ」
「何処に行くんだ?」
「この国、イグラズの首都……クラッティスだ」
ムロと夏郷が歩き出した。




