ムロの意地
「外へ出ろ」
淡々男の指示でミカノとカズマが列車の踊場に出る。
「ほんとに無いとはな」
カズマは、繋がれていた車両が無くなっていることを改めて知った。
「アタシたちをどうなる気!」
「知りたいか?」
「当たり前よ! 納得なんてどんな理由でもしないけど、知らないのは気持ち悪いだけ!」
「いいだろう……話してやる」
淡々男が煙草を吸う。
「お前たちを売るんだよ」
「売る!?」
ミカノが驚く。
「……売ってどうする?」
「知らん……ほとんどが奴隷になっているらしいが……あとは知らん」
「奴隷? 何をさせられるんだ」
「子供には理解できない」
「ミカノが言ったろ。知らないのは気持ち悪い」
「いいだろう。小娘、中へ入っていろ」
「分かったわ」
ミカノが列車内に戻った。
「女が居ると話しづらいんでな」
「何をさせられるんだ?」
「それはな……」
「……想像できまい。子供ではな」
「したくもない!」
※ ※ ※
「ミカノ、怪我は無いか!?」
「大丈夫。そんな事より犯人の目的が判ったの」
ミカノがムロとセリオに話した。
「人身売買だね」
「セリオ知ってるのか?」
「世界条約で禁止されてる事だよ。人を物のように金銭で売ったり買ったり」
「欲しい人がいるなら良いんじゃないか?」
「それなら売買ではなくて、子宝に恵まれなかった夫婦が養子に迎える、みたいな方法もある」
「人間を売買することは如何なる理由があっても絶対に駄目なの!」
「そうなのか、知らなかった」
「おい」
ダイナマイト男がやって来た。
「小娘、外だ、外へ出ろ!」
「ふざけんな! ミカノを行かせるわけねえだろ!」
ムロがダイナマイト男の足の甲を踏む。
「このガキッ!!」
ダイナマイト男は、ムロを楽々と持ち上げると、列車の窓を開けた。
「赤毛は要らねえ!」
「ムロ!!」
ダイナマイト男が、ムロを放り投げた。
「さーて……緑髪のガキは」
ダイナマイト男がセリオに迫る。
「止めろ! 子供に手を出すな!」
「そうだ!」
「そーだ! そーだ!」
列車に乗る大人たちが抵抗する。
「黙りやがれ! 殺されたくなけりゃ、おとなしく黙って座ってろ!」
ダイナマイト男の一言で列車内は静まり返ってしまった。
「拳銃をちらつかせたら黙るわな」
「ムロ……」
列車内は、ダイナマイト男の笑い声が響き渡っていた……。
※ ※ ※
「遅いな。何を手こずっている」
「案外、手強かったりしてな」
「笑わせるな。たかだか子供が三人」
「アンタの後ろにもいるぜ!」
カズマが淡々男の背中を突き飛ばす。
「今のが全力か?」
淡々男が、カズマを蹴ると壁際に追い込む。
「子供は大人しくしてればいい」
淡々男がナイフをカズマの首に当てる。
「指示に従わないのなら、その首を斬る」
「アンタ、ホントに淡々と恐ろしいことを言うよな……」
「お前も、よく喋る子供だな」
カズマがしゃがみこむ。
「言った筈だ。指示に従わなければ首を斬る」
「ムロキーック!!」
「ぐっ!」
淡々男が体勢を崩した。
「何故キサマが!?」
「てめえの相方に訊くんだな」
カズマが淡々男からナイフを奪い、ムロが淡々男の靴紐で淡々男の腕を柵に縛り付けた。
「カズマ無事か!?」
「見てわからないか?」
「んだとー! せっかく助けてやったのに!」
「ああ、助かった」
「お、おう……」
ムロはカズマが礼を言ったのに少し驚いた。
※ ※ ※
「やっ!」
セリオが、ダイナマイト男の隙を点いて拳銃を奪った。
「ガキが使うもんじゃねえよ」
「今まで何人売ったんだい!」
「覚えてねえな?」
「幾らで売った!」
「最低でも一人辺り、五万ロロ……ってとこか」
「覚えている名前は!」
「覚えてねえ!」
ダイナマイト男が、セリオから拳銃を奪い返した。
「しまった!?」
「持ち方がなっちゃいなかったな? 簡単に取り返せた」
ダイナマイト男がミカノに銃口を向ける。
「さっさと動けよ、小娘……あと五~六年もしたら結構な美人になってるだろうから殺したくねえよ」
「売られる位なら死を選ぶわ!」
「ムロキーック!!」
ムロの飛び蹴りが炸裂した。
「二人とも無事か!?」
カズマが確認する。
「僕らも他の乗客も無事だよ」
「なんで赤毛が居やがる!?」
ダイナマイト男は驚いている。
「てめえが放り投げた時、咄嗟に列車の突起に掴まったんだよ。風圧がキツかったけどな」
長年の恨みがあるかのように、ムロはダイナマイト男を踏みつける。
「こいつも没収だ」
カズマが、ダイナマイトを奪った。
「これもだね」
セリオが、床に転がった拳銃を拾った。
「よくやった!」
「凄いわ!」
「済まねえな、何にも出来なくて」
乗客からの割れんばかりの声と拍手が、列車内を響かせた。
※ ※ ※
「疲れた……」
ムロの言葉で疲労度が伝わる。
「結構長かったね。事情聴取」
「名前言って平気だったかな?」
「家族に連絡するって時はヒヤヒヤしたぜ」
「こまめに連絡していて助かったな」
淡々男とダイナマイト男は警察に引き渡され、同時に列車の乗客に聴取が実施された。
他の乗客の証言によって、ムロたちの事が警察に知られ、ようやく解放されたのだ。
「これからどうする」
「この辺りにホテルが有るみたいだから行きましょ。テレビやラジオもあるはずだし」
「腹ごしらえ!」
「一息浸けるや」
ムロとセリオが賛同した。
この出来事はのちに〝小さな四人の英雄の奇跡〟として語られる。




