4限目
気がついたら保健室のベッドの上で寝ていた。服は肌にベッタリと張り付いていた。
なんだか、悪い夢でも見ていた、そんな気がする。
いつから寝ていたのか記憶がない、それ以前に今日の授業まで思い出せない。時計の針の位置から今が4限目の途中ということだけ分かった。
授業に戻ったほうが良いのだろうか、自分の容態が分からないから判断に困る。体の調子は良かったが、記憶の調子が悪い。どうした物だろうか。
そんな事を考えていると保健室の扉が空いた。
「もう、起きて平気なのか晃?」
そこにはよく知った人物がいた。
「悟史か、多分大丈夫だよ」
悟史はその返答に満足したのか笑顔で保健室に入ってくる。
「突然倒れて心配したんだぞ」
そうか、僕は突然倒れたのか、記憶になかったから素直に驚いてしまう。
そんな僕の表情に智史も驚いた表情をする。
「なに驚いてるんだよ、自分のことだろ? 頭でも打ったか?」
なるほど、本当に頭を打ったのかもしれない、それならこの小さな記憶喪失も納得がいく。
「なんで、そこで納得するんだよ気色悪い」
悟史が汚いものを見るような視線を送ってくるが気にしない、それよりも何があったかを聞くほうが先だった。
「頭を打ったからかは知らないけど、今日の記憶がないんだよ」
「嘘だろ、本当かよ」
自分では冗談のようなことを言うが、人の冗談のような話は信じれないようだ。まあ、当たり前かもしれないが……。
俺だって冗談であってほしい。
俺の真剣な顔に気づいたのか、悟史も真剣な顔をする。
「マジかよ。お前、3限目の授業中に突然倒れたんだぜ」
もっと、他に言うことは無いのか、何か大事なことを忘れてる気がする。
「他にか、そうだな、これは覚えてるか?」
前置きはいいから早く話してほしかった。記憶が抜けてるっていうのは、何かこう、夢と現実の間にいるようでモヤモヤする。
「アキラ、君が僕を殺したんだよ」
そう言う、サトシくんの顔には大きな穴が空いていた。
◇◇◇
アキラくんは突然ベッドから飛び起きた。
そんな様子を見ていた保健室の先生が驚きながらも優しく声をかける。
「驚いた、突然起きるんだもん。もう体は大丈夫なの」
アキラくんは息を乱しながら言う。その顔は死人のように青白い。
「なんだか、悪い夢を見ていたみたいなんです」
「夢、ですか」
そう言って、何かを考える保健室の先生、アキラくんはそれを黙って見つめる。
時計の針の進む音だけが保健室に響く、重たい空気、時間が長く感じられる。
「もう行っていいですか?」
耐え切れずにアキラくんは口を開けた。
「ごめんね、少し考え事をしちゃって、体調が悪いなら今日は帰っても大丈夫ですよ」
「そうですか、それなら体調も悪いので帰らせてください」
「それでは、早退の手続きをするので荷物だけ持ってきてください」
アキラくんはベッドから抜け出すと静かに保険室から出ていく。
保険室から出た時、突如、眩暈がアキラくんを襲った。振らつきながらも壁に体を預けることで、倒れることだけは何とか回避した。
顔色はますます悪くなっていた。
帰ることを選んだ事は良かったかもしれない。
アキラくんは教室に鞄を取りに行くためフラフラと廊下を進んだ。
授業中というのもあり、学校の中はとても静かだった。そのせいで、廊下を歩く音が巨大な音に感じられる。
何とか教室までたどり着く。教室の中では何時も通り、何事も無かったかのように授業が行われている。
教室の扉に手を伸ばした時、授業の終わりを告げる鐘がなった。それと同じタイミングで 教室からは授業から解放されたことを喜ぶ声が聞こえた。