2限目
生徒達に先ほどまでのテンションは無かった。
二限目が始まると先生は一番初めにこう言ったのだ。
「教室が汚いので掃除をしましょう」
そう言って、先生はケントくんとアサイaさん指差して言った。
もちろん、片方は先生が出したゴミだと反論する生徒もいた。
そんな生徒には一つも二つも変わらない。そんな横暴な理論を使って誤魔化すのだった。
ケントくんとアサイさんを焼却炉に持って行く、そんな一番辛い仕事を押し付けられた生徒は口々に文句を言う。
「本当に重たかったんですよ。次は他の生徒を使ってくださいね」
先生はゴミを捨ててきてくれた生徒に優しい笑みで答え労いの言葉をかける。
「ありがと、タケシくんのお陰で教室が綺麗になったわ、ついでに死んだアサイさんの代わりにクラス委員もやらない」
「勘弁してくださいよ」
タケシくんは苦笑いを浮かべ先生のその要求を断る。
先生は少しだけ残念そうに言う。
「タケシくんならぴったりだと思ったのに」
タケシくんが二つのゴミを捨てて来たお陰で教室は綺麗になった。
勉強のできる環境にもなった。
後はクラス委員が決まれば元通りの環境になるだろう。
「では、教室も綺麗になったので算数の勉強を始めたいんですが、その前に新しいクラス委員を決めます。誰か立候補は居ませんか?」
誰も立候補する生徒はいない。
そんな面倒事を引き受ける生徒はもう死んでしまっている。
生徒の間で無言の責任の押し付け合いが始まる。
今、醜い争いが始まった。
「僕はリカさんが適任だと思う」
タケシくんは言った。その言葉に生徒達は賛成の声をあげる。
誰かに責任を押し付けれるなら、押し付けたほうが楽と誰もがわかっていた。
「でも私は……」
リカさんが何か言うのを遮って一人の生徒が手を上げる。
教室の視線がその生徒、アイさんに集中する。
「どうしましたか」
「私が代わりにやります。アサイさんは私の友達でしたから」
生徒達から明らか安堵のため息が漏れる。
自分に白羽の矢が立たなかったことを素直に喜んだ。
「本当にアイさんやってくれるの?」
「はい」
元気良くアイさんは返事をする。
「では、クラス委員も決まったので算数の授業を始めましょうか」
クラスの中から小さくブーイングが聞こえる。
クラス委員に成りたくないのと、授業を受けたくないのは別問題だ。
「その前にいいですか?」
アイさんが手を上げて言う。
「なんです」
「クラス委員が何をやるのか解らないんで、授業の終わりでいいんで教えてください」
「それもそうですね、では授業を始めましょうか」
そう言って、算数の授業は始まった。
「時間もないので前回の復習問題をやりましょう」
今度のブーイングは教室に盛大に響いた。
前回の授業は難しかったからそれも仕方がないだろう。
「では、教科書の34ページの問題5を皆でやっていきましょう」
◇◇◇
授業の終了を告げる鐘が教室に響く。
緊張の糸が切れ、教室が少し騒がしくなる。
「授業は終わります。アイさんは私のところにきてくださいね」
先生の終了の言葉を聞き生徒が早足に教室を出ていく。
2時間の授業を終え、溜まったフラストレーションを吐き出しに校庭には走っていく。
教室にはアイさんと先生が残る。
先生はいつもの調子で言う。
「クラス委員の仕事のお話ですよね。お話にカッターナイフは必要ないと思いますが」
「先生はなんでアサイさんを殺したんですか?」
アイさんはカッターナイフを先生に向けながら言った。
「アサイさんは私の一番の友達だったんです」
先生は今まで誰にも見せたことも無い悲しい表情をする。
先生は悲しい表情をしていう。
「友達を亡くすことは悲しいですよね」
「自分が殺してなんでそんな風に」
「悪いことをした子を罰する。それが先生の仕事です。それで、生徒を不幸にしてしまったのなら……」
二人の間に無言の時間が訪れる。
「アイさんは、私を殺したいんですか」
「私は先生が憎いです」
先生はアイさんの手を取りながら言う。
「そんなに憎いなら」
先生はカッターナイフを持った手を自分の首に持って行く。
「私が死んだらアイさんは幸せになれますか?」
首にカッターナイフの刃が沈んで行く。
肉が切れて中から赤い液体が飛び出し、アイさんの顔を汚す。
「生徒の幸せが先生の幸せです」
アイさんの手が震える。赤い液体が震える手を流れ落ちる。
先生の体がアイさんの方に崩れ落ちる。
アイさんは目元に涙を貯めて言う。
「先生ありがとう、私、幸せになるからね」
アイさんは動かなくなった先生をゴミ箱の中に入れてから、校庭に向かって駆け出した。
教室を出る前にゴミ箱の中の先生向かって告げる。
「先生が死んで、幸せになれるかわかりません」
そこで一旦区切って言う。
「でも、頑張ります。私が幸せになれないと。アサイさんも先生も死んだ意味が無いから」
アイさんは決意を固め教室を後にした。