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1限目

この話には、胸糞悪い展開、ちょっぴり残酷な描写。

そして、それを笑う残忍な世界観が含まれます。

そういったのが苦手な人は読まないことをおすすめします。

なお、このお話は1限目の授業風景です。

次回以降、2限目、3限目と続いていくでしょう。

「先生は悲しいです。この中にサトシくんを殺した人がいます」

 教室の中が騒めく。誰が殺したんだ。犯人は誰だ。と教室のいたる所から聞こえる。

「静かにしなさい」

 先生は叫んだ。

 騒がしかった教室が静まり返る。

 生徒達もこの深刻な状況に気がついたのか静かになる。

 重苦しい雰囲気が教室を支配する。

「先生が怒ってるのは、サトシくんを殺した事じゃありません。殺した事を黙って、謝らないことを怒ってるんです」

 先生は言った。優しくも強い言葉で言った。

 生徒は互いに顔を見合わせる。お互いが疑いの視線で周りを見た。

 少し経った後、教室に動きがあった。

 生徒の一人が手を挙げた。

 先生が手を挙げた生徒に声をかける。

「どうしました? ケントくん」

「僕、誰がサトシくんを殺したか知ってます」

 ケントくんの勇気のある一言に教室が騒めく。

 生徒全員がケントくんの次の言葉を待った。

「ケントくん。教えてくれますか」

 先生は優しい声でケントくんにかけた。

 教室の生徒の視線がケントくんに集中する。今か今かとケントくんの言葉を待つ。

 ケントくんは黙ってしまう。日頃、目立たないケントくんだ当然かもしれない。

「ここで言いにくいなら、後で先生と二人っきりの時に教えてくれればいいですよ」

 その言葉にケントくんの顔が明るくなった。

 教室の生徒は少しつまらなそうな顔をした。

「では、サトシくんの事は少し置いといて、授業を始めましょう」

 先生のその言葉で授業が始まった。

 教室の中が騒がしくなる。

「はい、静かに道徳の授業を始めますよ。今日のテーマは『なぜ世界はくだらないのか』です」

 生徒達がそのテーマについて考え始める。

 そんな中一人の生徒が姿勢よく手を上げ、先生を呼ぶ。

「はい、アサイさん」

 アサイさんは、元気よく返事をすると、立ち上がり先生に質問する。

「本当に世界はくだらないんですか」

 先生は驚いた顔をする。そして直ぐにその顔は喜びに変わった。

「とっても良い質問です。そうやってテーマを疑って掛かることは、凄く大事なことです。皆さん、アサイさんに拍手を」

 暖かい拍手が教室を包む。

 アサイさんは恥ずかしそうに顔を赤らめながら席に座る。

 アサイさんは、頭がいいね。やっぱり、クラス委員だけあるよね。

 アサイさんに対する賞賛の声で教室が騒がしくなる。

 そんな賞賛の声に紛れて生徒が先生に疑問を投げかける。

「先生は『世界はくだらない』と思うんですか?」

 教室の空気が凍りつく。生徒達は知っている。先生がルールには厳しいことを。

 先生はその生徒を叱る。

「こら、意見がある時は手を上げるのがルールです」

 怒られた生徒はションボリとした顔をして黙ってしまう。

 先生はそれを見て、呆れたのか、ため息をついた。

 教室がピリピリとした空気が流れる。

「先生が言ってしまったら、それが答えになってしまいます。それじゃあ道徳の授業にならないので皆さん考えてください」

 先生の言うことを素直に聞く真面目な生徒たちは黙って考え始める。

 先生はその様子に満足したのか暖かい笑みを浮かべて生徒たちを見守る。

 少し時間が経ち、生徒たちの意見がまとまり始めた頃を見計らい先生は言う。

「では、発表してくれる人」

 誰一人手を上げない中、一人の生徒が手を上げる。

 教室にいる生徒たちは期待の眼差しをその生徒に向ける。

「リカさん」

 先生がその生徒を指名する。

「私はこの世界は糞ったれで、実にくだらない世界だと思います」

 リカさんは元気よく宣言する。

 周りの生徒は興味深そうにそれを見守る。

 先生はリカさんにその先を促す為に言う。

「理由を聞いてもいいですか」

 リカさんはそれを受けて、カバンから鈍器のような斧を取り出す。

 叩き切る。と言うよりは、叩き潰すと言った方が良い。

 そんな、凶悪な斧をリカさんは笑顔で振り上げ、隣の席に座っていたケントくんに振り下ろした。

 ケントくんの頭は、トマトのように弾けて、辺りに赤い染みを付けた。

 リカさんは満足したように言う。

「こんな風に人が死んでも何も変わりません。そして、人を殺しても何も変わりません。何も変化のない世界なんて飽き飽きします。だから、私は世界が糞ったれだと思います」

 教室が静まり返る。誰も声を発することができない。

 その状況は先生の手を打つ音で壊された。

 先生はリカさんの発言を称え拍手をする。教室にいる生徒も先生を見習い拍手を始める。

「実演を添えたとても良い演説でした。ただ、教室を汚したのはいただけませんね」

 先生がそんな冗談を言うと教室は笑いに包まれた。

 そんな空気を打ち破るようにアサイさんが手を挙げて発言する。

「大変です。ケントくんが死んだからサトシくんを殺した人がわかりません」

 先生はアサイさんに優しい笑みを返す。

 そして、優しい言葉をかける。

「リカさんが言ったじゃないですか、誰が死んでも何も変わらない。もしかして聞いてなかったんですか」

 先生はアサイさんに近づく。アサイさんの席に行く途中にリカさんから斧を借りる。

「人の話を聞かないせいとはいけませんね」

 そう言って先生はアサイさんに斧を振り下ろした。

 それを見ていた生徒が口を揃えて言う。

「先生も教室を汚してるじゃん」

 先生はそれに照れ笑いを浮かべる。

「こんなに教室が汚れたら授業どころじゃないですね」

 先生のその言葉に生徒達は期待で目を輝かせる。

 生徒達は次の言葉を知っている。

「時間もちょうどいいし終わりにしましょう」

 先生のその宣言に生徒達は喜びの悲鳴をあげる。



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