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第五章

案外あっさり...と...


5.簡単な探し物


日向に簡単に霧椰さんの話をしてもらっていたら外は真っ暗になっていた。

時計を見れば10時過ぎ。夕飯はまだ...お腹空いた...。

何か食べ物と台所に向かう。その時...。


グゥー...。と2人の腹の虫が耐え切れずに鳴いた。


「お腹空いたね?」

「う...うん」

「何か作るから待ってて」


久し振りにまともに台所に立って包丁を持った気がする。毎日コンビニ弁当とかだけだったから。

日向はどんな物好きなんだろう...?聞いてみるか。


「日向ー...ひな」

「スゥー...」


ソファーに横たわり寝息を立てながら就寝。

私は料理する手を止めて日向に毛布を掛けて、もう一度台所に戻り簡単に調理をして終わらせる。

調理した物を皿にのせラップをかけてテーブルの上に置く。

カップにインスタントコーヒーを入れお湯を注ぎ砂糖とミルクを少量ずつ。

それを飲みながらベッドに向かう。私も疲れた。


きっと日向は私にぶつかる前もずっと探してたんだろうな...霧椰さんの形見。


カップをテーブルの上に置いて私も眠りについた。

久し振りにいい夢が見れそうな気がした...。


多分それは単なる気だけだと思う。



チュンチュンと鳥が窓を横切る。朝だ。

カーテンから差し込む光に目が覚める。眩しい...。

目覚し時計を見れば9時過ぎ、ヤバイと思ったのは一瞬。よく考えれば今日は土曜。部活に入ってないから休み。

まだ寝れると毛布を被り直して寝ようとする。


台所からトントンとリズムよく音が聞こえて来た。

何...?


ゆっくりと視線を変えると、台所には日向の姿。


「日向...?」

「おはよ千、ご飯ありがとう。今千の分作ってるから待ってて」

「ん...」


ベッドから起き上がりソファーに移動する。

目の前に湯気の上がるコーヒーを置いて『待っててね』と微笑んで戻って行く。


「あんま美味しくないと思うけど」

「別にいいよ...私の方が不味いと思うし」

「冗談、千の料理美味しかったよ」

「ありがと...それ食べたら探し行こうね、鍵」

「うん」


はいどうぞとこれまた久し振りに見た光景が広がる。

半分寝ぼけている状態だが日向が作ってくれた食事を口に運び、また運び。

沈黙を作りながら、間食。


「どお?」

「ん、美味しいです」

「ありがと」

「さて着替えて行きますか」

「そうだね」


日向はもう着替え終わっている様子で先に外に出て行く。

私も簡単に服装を整えて外に出る。

先に外に出ていた日向に声を掛けようとした。その時隣の家の主人が顔を覗かせた。


日向は一瞬、いや固まった。


「あら、おはよう千ちゃん」

「おっおはよう御座います...奈津実さん」

「其方の方は...」

「あ、私の家の反隣に引っ越して来た雅紀日向君です」

「あっぁと、雅紀日向ですっ」

「私は余殃奈津実、宜しくね」


日向の目は奈津実さんに釘付けだった。何で如何したの。

奈津実さんはふっと微笑んでドアを閉める。

以前日向は硬直。私は後に回り日向を強く押した。


我に返り日向は驚いた表情で私を見る。

驚いてるのはこっちなのに...。


「如何したの...?」

「霧椰...?」

「え...」

「あの奈津実って人...千以上に霧椰に似てる...」


私以上にそっくりな人。

此処ら変では私と奈津実さんは実の姉妹だろうってぐらいにそっくりだと言われている。

でも奈津実さんにはちゃんとした両親がいる。私にだっている。

だから赤の他人。唯運命的に似てしまっただけ。


日向は真剣な眼差しで奈津実さんの部屋を見詰めている。

私は掛ける言葉も見付けられずにただただ無言。


「霧椰の生まれ変わりは彼女かもしれない...」

「奈津実さんが霧椰さんの生まれ変わり。よかったじゃんすぐに見付かって、あとは鍵があれば完璧だよ」

「千...」


何故だか体が震えた。何故だか怖かった。如何してか判らない。

「もう少し探そう」と日向は私の腕を引いて場所を変える。

けど結局は。ねぇ日向...。


どうせ奈津実さんの事考えてるんでしょ?


「いないね、霧椰さんに似てる人...」

「あぁ」

「やっぱ奈津実さんだよ霧椰さんの生まれ変わりはっ!」

「そうかもな」


何か日向を応援して行くと同時に胸が苦しくなるのは気のせいかな。

きっと気のせいだよ。思い込みすぎ。


これ以上日向の沈んで行く顔見たくないよ。

でもでも...。それでも...。


「行こうよ。奈津実さんの処」


私は無意識に日向の腕を掴んでマンションに戻る。

奈津実さんの部屋の前に立つとよりいっそう沈黙は深くなる。

チャイムを押しても返事はない。留守かなぁ。


自分の部屋のポストを見ると手紙が突っ込んである。


中には鍵と手紙...奈津実さんからだ。


「一週間家を留守にするので鍵を預かって下さい。お土産をお楽しみに♪ 余殃奈津実」


一週間も...。日向が喜ぶチャンスなのに。

私は奈津美さんから預かるように頼まれた鍵を取り出し、鍵を開ける。


「千っ!何を...」

「奈津実さんにはよく部屋に入れてもらってたから大体室内は判る」

「でもっ」

「霧椰さんに逢いたいんでしょっ!だったらこれくらいしなくちゃ」


強気に言いのけ部屋の中に入る。

日向は後から恐る恐ると入って来る。私はぐるっと辺りを見回して、ある物に気付く。

綺麗な鍵が丁寧に机の上に置かれている。特徴的な綺麗な鍵...。


日向は私よりも前に出て鍵を手に取る。

私は何故か辛かった。悲しかった...。如何して。


彼が探してた物が見付かるんだから喜んであげればいいのに。

如何して喜んであげられないの...逆に凄く。


辛いんだけど。


「千」

「何...よ...」

「僕はまだまだ君に世話になりそうだよ。この鍵は探しているのじゃない、彼女も霧椰の生まれ変わりなんかじゃない」

「それって...」

「彼女の心は霧椰じゃない、きっと...絶対この鍵はあの箱の鍵じゃない」


日向はそっと微笑んで『探しに行こうか』と手を差し伸べる。

私はまだまだこの人と運命を共にする。


少しだけほっとしている私がいた...。



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