第一章
彼に逢ったのは...。
1.最初で最後
目覚し時計の音で目覚めた。薄暗い部屋。暖かな布団。
冷たく乾燥した空気をそっと吸い込み布団から出る。床は氷のように冷たい。
物音一つしない部屋の中をぐるっと見回し、目を瞑る。そして開く。何も変わらない。
また多分昨日と同じような一日が幕を開けた。
朝食を軽くすませて身支度をして、外に出る。
如何してこうも私の一日は何も進化がないのだろう。
マンションのエレベーターに乗り込み、1階のボタンを押す。
ガタッと変な音がしただけで異常なし。1階に到着。
ゴミ捨てに行く顔見知りの人に軽く挨拶をし学校に向かう。
車も人通りも少ない道を私は唯無言で歩く。雀が頭上を飛んで行く。
それを目で追い、飽きると下を向く。
肩から下がって来る鞄を片手で直しながら前に進む。
学校が見えて来た。
また何もなかったと私は少し残念に思いながらあと少しの道のりを歩く。
最後の曲がり角に差し掛かる。きっと此処にも何もない、スルー。
と思い早歩きで角を曲がろうとした瞬間。
「わぁっ!」
ドンッと何かにぶつかった。悲鳴を上げたのは私じゃない目の前に転んでいる彼。
「あっ!ごめん、大丈夫???」
「私は大丈夫だけど...君は大丈夫なの」
「うん、僕は平気だよ」
ニコニコ笑いながら私の言う事に答える。
見た事のない顔だった。転校生と一時思ったが制服も着ていなければ鞄も持っていない。
別の人。
彼は腰を持ち上げて砂を掃い、もう一度私を見て微笑み。
「また逢えるといいね」
「....は....ぁ」
「じゃあね」
また逢える筈もないのに。
と私は内心に抱きながら学校へ向かう。
彼に逢うのはこれが最初で最後だろに...。