死にかけの君と僕と
月明かりが仄かに照らす足元に、僕はシャベルの先端をカツカツと突き立てていた。
夜露に濡れた黒い土は幾分掘りやすかったが、それでもまだ硬くザクザクと軽快な音を立てることは無い。
そして数時間も掘り続けているものだからもう腕が疲れて疲れて仕方が無い。
土で汚れた手で額に浮かぶ汗を拭う。きっと、今、僕の顔はどろどろに汚れてしまってるのだろうな。
夜の闇の中でそんなことを気にしたって仕様がないのに、それでもそんなことをついつい考えてしまう。
もう駄目だ。キツい。
掘る手を止め、白い溜息を吐きながらシャベルの柄にもたれかかっった。
ふと、視界に「君」がぼんやりと映る。「君」は先程からずっと静かなまま黒く横たわっていた。
真白い吐息を吐くことも無く、「君」はごろんと横になって微動だにしない。
しばらくの間、動かぬ「君」をじっと見つめていたが、身体が冷えてきたので再びシャベルを手に穴を掘り始めた。
数時間後にようやく掘り終え、一息吐いて僕は「君」の方へ歩み寄る。
そして「君」を抱えて再び穴へと向かう。
僕に抱えられた「君」の身体には微かに煙草の臭いが残っていて、僕は顔をしかめる。煙草は苦手なのだ。
そのまま僕は、穴の中へ「君」を放り込む。
「君」は悲鳴を上げるでもなく、乱暴な扱いに文句を言うでもなくただ黙って穴の底の方に転がっていった。
そんな「君」の上に僕は土を掛ける。穴の上からシャベルでざらざらと土を落としていく。
もう「君」は見えなくなった。そして僕は穴を埋めた。
シャベルで埋め跡を硬く叩いて均す。
最後に手頃な太い枝を地面に突き刺して、作業は終わった。
*
月明かりが仄かに照らす足元に、僕はシャベルの先端をカツカツと突き立てていた。
夜露に濡れた黒い土は幾分掘りやすかったが、それでもまだ硬くザクザクと軽快な音を立てることは無い。
そして数時間も掘り続けているものだからもう腕が疲れて疲れて仕方が無い。
柔らかい土はもう随分と前に掘りつくされてしまった。今残っているのはこんな土の硬い場所だけ。
疲労感とシャベルの重みが身体に堪える。寒空の下だというのに汗が出る。
もう駄目だ。キツい。
掘る手を止め、白い溜息を吐きながらシャベルの柄にもたれかかった。
ふと、視界に「君」がぼんやりと映る。「君」は先程から絶え絶えの荒い息を吐きながら、横たわっていた。
暗くてよく見えないが、腹を押さえる「君」の手は止めどなく漏れ出す血を止めようとしているのだろう。
僕はポケットから煙草を取り出して火をつけ、白煙を夜闇に漂わせた。
「穴は、まだかな。それと煙草の臭いは苦手なんだ」
死にかけの「君」が僕にそう話し掛ける。息も絶え絶えだというのにその声は良く通っていた。
「もうすぐだから静かにしてなよ」
僕は「君」にそう告げると、煙草をもみ消し、シャベルを手に再び穴を掘り始めた。
数時間後にようやく掘り終え、僕はシャベルの柄にもたれかかり煙草で一息吐く。
気付けば「君」の荒い息の音ももう聞こえなくなっていた。僕は「君」の方へ歩み寄る。
「君」の身体を抱え上げると重く、そして冷たい。「君」はもう息絶えていた。
僕はそのまま「君」を穴の中に転がし込む。
そしてもの言わぬ「君」の上に土をざらざらと落として行く。
もう「君」は見えなくなった。そして僕は穴を埋めた。
シャベルで埋め跡を硬く叩いて均す。
最後に手頃な太い枝を地面に突き刺して、作業は終わった。
僕によく似た「君」を埋める作業はもう終わった。
*
僕は煙草に火をつけ、疲労感に満たされた身体に煙を染み込ませていった。
遠くでタアン、タアンと二発、銃声が聞こえる。
この街ではよくあることだ。そう、不死の街ではよくあること。
代わりならいくらでもいる。死んでも代わりがすぐに補充される。
だからこの街には銃声が絶えない。
毎日のように生みだされる死屍は、土の下に葬られる。
屍体を埋めるのは代わりの自分。
屍体を埋めるのは自分の仕事。それが生まれて初めての仕事。それが当たり前の仕事。
ここは不死の街。
こんな月の綺麗な日、この丘の上からはよく見える。街を埋め尽くすように立つ十字架がよく見える。
そして、またタアンとどこかで銃声が鳴った。
何を言いたかったのか伝わりにくかったかもしれませんね。