昨日
どこのテーブルも新人歓迎会と言う名前の宴会でいっぱいだった。
おれたちのテーブルも同じだ。
右も左も分からない新人が曖昧な笑顔を貼り付けたまま勃起した陰茎みたいに立ち尽くしている。
おれはそれを眺めながら、やはり曖昧な笑顔でいつもは飲まないビールを舐めた。
大して旨くない。
いつまでもチビチビやってると不味くなるので一気に流し込んだ。
ゲップは油っぽいポテトフライの味がした。
二次会に行くと言う若手を見送る。
そいつらに混ざるほど若くも無いが、遊んでこいと金を握らせるほど老けても無い。
中途半端なもんだ。
自己紹介のついでに勢いで叫んだ「今年度の目標はちゃんとしない事です」は、ややウケの余韻を引きずって店から最寄駅までの長い影になっている。
駅までの影は大体がそんな感じだ。
飲み会の楽しかった記憶だけが折り重なって揺れている。
知らない会社の壮年管理職が赤い顔で笑う。
「むかしは万札を振ってタクシー呼び止めたもんだよ」
知らない会社の新人が真顔で驚く。
「えぇ?じゃあ儲かるんすね、タクシー」
左様、と頷く壮年に見る斜陽の白髪が語る往年の経済事情。
どちらにも属せないおれはヒョーガキと言う脛の傷を擦り切れた靴下で隠しながら歩く。
賃労働の疲労を慰労するはずのビールは電車の中でニンゲンたちの過去と未来に撹拌される。
気持ちが悪くなる。
「過去とか未来とかよく分かんないし」
現在だって不明瞭だ。
気持ちが悪くなる。
だが家に帰るまでマーライオンは我慢した。
今までに何度かみた酔客の嘔吐を思い出す。
それは紫の固形だったりドアが開いた瞬間に歩きながらだったりした。
おれは違う。だからダメなんだ。
あいつらはどれほど飲んだんだ?
おれは飲めない。だからダメなんだ。
あいつらはどれほど飲んだんだ?
おれも飲むべきだ。
飲み干したジョッキに吐いて椅子の下に隠したりした方がいい。
おれも飲むべきだ。
他人に迷惑をかけろ。
他人を信用しろ。
飲めないならいまここでパンツを脱げ。
チンポを出せ。
チンポを!!
押し出されるように電車を降りて交番にいる巡査たちに挨拶をする。
「こんばんは!ご苦労様です!」
そいつは本心だ。
でも苦笑いする制服たちはおれを捕まえたりしない。
何故ならまだパンツを脱いでないからだ。
何故ならまだ婦警さんを脱がせてないからだ。
例え俺が何を考えていようと実行するまでは逮捕されない。
つまりおれの中で婦警さんが全裸になって放尿したって構わないと言うことだ。
帽子とかハーネスは付けたままで、婦警さんの割れた腹筋とパイパンを考えるながら、でもそれは本当じゃない。
おれは相変わらずマーライオンを我慢してる。
そっちの方が重要だ。
制服。
ちゃんと出来ないひとがちゃんと見える為の衣類。
制服。
ちゃんとしない為の細かいルールを考えてしまう。
制服。
せめてちゃんとしてないフリしたい。
真面目なんてのは褒め言葉じゃない。死ねば助かるのにその一歩が踏み出せない。
でも落ちてゆく紙を掴もうとするよりは、落ちてから拾う方が容易いから本当ならそうするべきだ。
薄暗い階段を上がりドアを開くと付けっぱなしだった電気の光がおれを出迎える。
ウンザリする。
おれは「ちゃんとしてぇ」って言いながら女の部屋で朝から酒を飲んで、日がな一日なにかを書いて、女が仕事から帰ってくるのを待ってたい。
たまには駅までは迎えに行くよ。
きっとその女は同僚の誘いを
「猫に餌あげなきゃならないから」
って言って帰ってくる生活にすこし疲れ始めたあたりで、俺はそれを察して「煙草買ってくる」って言ったまま、二度と帰らないクソ野郎をやりたい。
カップ麺で塗り潰した夜が笑う。
セックスが足りない。アイスクリームを食べたい。
だが眠ればそれも終わる。
眠れば終わる。




