腕と触手と霊嬢と 2
「「「「──うおぉぉぉぉぉぁぁッ!!」」」」
プ鱗隊長の号令を受けて、プレイヤーたちの怒号と足音が響く。
半分か、それ以上は同じクランのメンバーなのかな? なんというかこう、我らっならず者傭兵部隊! みたいな風体の人たちを中心に、とくに血気盛んな一団が私たちの横を抜けて突っ込んでいった。
ヘラジカ戦のときの森と町のみんなのような、純粋な怒りと生存本能ではない。もっと俗っぽい、プ鱗隊長の言葉を借りるなら“名をあげたい”という欲だ。まあ、それはそれで全然いいと思う。だって……
「「「「──どわぁぁああああっ!?」」」」
雑に薙ぎ払われてるのを見てもあんまり心が痛まないから。
これがプレイヤー、『来訪者』のいいところだよね。命が軽い軽い。
「ですよねー!」
「知ってた!!」
「はい足切り完了ォ!」
「敵は腕なんですけどねーっ!!」
ほら、一歩引いて様子見してた方々が口々に叫んでいらっしゃる。
あ、私とプロミナさんとプ鱗隊長は予備動作見て回避余裕でした。というかこれ避けられないのはさすがに戦力にならない気がする……なんて、伝わらないのをいいことに、私も内心で好き勝手言っておりますけれども。
「焦るなっ、ヘイトは『月の触手』に向いてるっ!」
「俺らは隙みて殴るだけでいいっ!!」
「楽してPV映り込んじゃうよォ〜〜んっ!!」
彼らも彼らでこっちを利用する気満々なわけでして。
縁もゆかりもないやつらとの共同戦線なんて、このくらいの距離感でちょうどいいってなもんよ。
「──ルミナちゃんっ!」
というわけでプロミナさんの手を取って、彼女の翼でともに飛び上がる。とりあえず[ヴェグレラの左腕]の人差し指にフックして接近、こちらを掴もうと動く指のあいだを縫ってかわし、プロミナさんを真上に放り投げつつ、本日初の『月光波』ァ! うん、全然ダメージ入ってねぇ!
「じゃっ……こういうのはどうかし、っらァ!!」
上からの追撃、両手に焔剣を携えたプロミナさんの落下刺突は、爪と指のあいだに剣先を刺し込むとかいうあまりにも非人道的なものだった。見てるだけで痛い! 体力の減りこそ微々たるものだけど、一瞬指をのけぞらせた左腕は、初めて明確にヘイトをプロミナさんへと移す。
「当たるかバァカッ!」
瞬間的に爆炎を吹かし、迫る指先を紙一重で回避したプロミナさん。そのまま飛んで離脱……というわけではなく、背中のブースターを消した彼女を再び私が捕まえて引き寄せる。
「よっ……とォ!」
そしてまた焔剣による斬撃。手のひら側から中指の第二関節を切りつけ、かと思えばまた翼を展開して飛び上がる。繋いだままの触手に引っ張られ、私も上空に飛翔。でもでもやっぱり焔の翼はすぐに消え、二人揃って自由落下──に合わせて攻撃っ。
「──、──」
苛立たしげな[ヴェグレラの左腕]の手の甲に回り込んで、ぺちぺちざくざく。
まだ私とプロミナさんを結ぶ触手は繋がったまま。
「いくわよルミナちゃんっ!」
一声とともにプロミナさんが、今度は斜め下方向へと推力を発生させる。一気に降下──ではなく、左腕の小指に巻きつけておいた私の触手に任せて振り子のように位置転換っ! 甲に気を取られていた敵の虚を突く形で再び手のひら側に回り込み、『汚濁球』へ向けて──
「『陽焔反応──指向熱風』ッ!!」
右手の焔剣にのみ力を収束させた、自爆の派生技! にっ合わせて三重『月光波』ァ! !さっきのも足して計四発、そう地味に連射数が増えてますっ! ちょっと前からね!
「──、──」
……………………うーん。
痛がってはいるな、うん。
とりあえず、プロミナさんとの連携はぶっつけ本番だけど問題なさそう。
『点火天翼』の高速飛翔は強力だけど消耗が激しい。魔力と、それ以上に集中力の。だから吹かしっぱなしにするのではなく、要所要所での瞬間機動に使う。その穴埋め、隙消し、敵との距離・位置調整諸々は私の触手でサポートし、同時に私もプロミナさんの急制動の恩恵に預かる。
消耗を抑えつつ長時間の空中戦闘を可能にする、天使と触手のイケてるコンビネーションというわけだ。
いぇーいっ甘愛見てるぅーっ? これが触手の化け物の戦いかたでーすっ!!
あ、あとあれ。プロミナさん、さすがにこの状況じゃ触っても奇声をあげなくなって助かった…………ちょっと物足りないとか思ってませんよ?
……ぇあー、まあとにかく。
こうして私たち二人が空中で気を引き続けているあいだに、地上のプレイヤーさんたちもちくちくと攻撃を加え続けているわけなんですけれども……
「ガン無視されるのもそれはそれで寂しいッ!」
「てかこれ、オレら画角に入らないんじゃねっ!?」
「たぁしかに!?!?」
「たしかに過ぎて、カニになったわね……」
「くそっこうなったら声だしてけ!! 声の出演枠狙ってけ!!」
ええはい、下から聞こえてくる元気な声どもが状況を物語っていますね。
そもそも、この戦闘がPVに選ばれるかなんて分からないのに……まったくお手本のような皮算用っぷりだ。
──まずこの[ヴェグレラの左腕]とかいうボス、叩きつけや薙ぎ払い系の攻撃時以外は基本的に直立している。ちょうど肘のあたりを接地面にして、どーんと。なので地上からの、とくに近距離攻撃は前腕下部にしか届かず、当たってもほとんど無反応。
ヘラジカ、そして勇者さんたちが倒した[ヴェグレラの右腕]の前例からして手のひらの『汚濁球』に弱所があるのは確実だけど、そこに攻撃を届かせるのがまず難しいという。遠距離技撃ってもしっかり対処してきますからね、この左腕。
空中戦できるのが私とプロミナさんだけってのもいただけない。有翼種が一人もいないんだよねぇ〜。城内探索じゃ強みを活かしづらいから、翼持ちのプレイヤーたちは攻略にあんまり参加してなかった、って感じかなぁ。
一応、私が触手で何人かピックして無理やり空中戦に参加させるって手もあるけど……はたしてちゃんと適応してくれるのか、という懸念は拭えない。下のプレイヤーさんたちひとりひとりの力量とか知らんからなぁ……
なんにせよ、減り具合からして膨大な体力を持っているこの左腕の化け物を相手に、弱所を狙わず勝つのは難しそう…………ってかほんとに体力多いな。いま下で鉄塊みたいな大剣もったおじさんがなんかすごそうな武術使ったけど、体力ゲージはほんのちょびっとしか変動してない。
フィーリングの話になっちゃうけど、なんか勇者さんたちが倒した右腕よりだいぶ体力高めな気がする。そもそも右腕はほとんど床を這うように動いていたというか、地下空間の広さ的に直立できないっぽかったし。
右と左でステや挙動に差異があるってだけ? いや、あるいはもしかしたら──
「……どうやら、数でゴリ押しというわけにはいかなそうだなっ……!」
地上から聞こえるプ鱗隊長の声、ああこれやっぱりプレイヤー側の人数に応じて体力の最大値が変動する感じ?
大型ボスとしてはまあ、ありがちな仕様ではある。でもそれが適応されてるってことは、この人数制限なしの屋外戦闘も正規ルートのうちの一つってことなのだろうか。
人数制限はあくまで“探索”にかかっていること、不壊オブジェクトである城が粉々になったこと……とかを鑑みればあり得ない話じゃないか──ぁあいやっ、てかっ今そのへん深く考えてる余裕はないっ! だってこいつ執拗に私狙ってくるから!!
おいそのスケール感でデコピンすな! 風圧だけでけっこうなうわぁっこいつ[剥離残滓]飛ばしてきやがったっ! ばっちぃっ!!




