知りたい
ま、普通にリアルで話せるんですけどね〜〜〜〜ッッ!!!!
「──初日にしては上々の成果じゃない♡?」
「たしかに」
城探索一夜目を終え現実世界に戻ってきた私は、夜食のイカソーメンをつまみながら甘愛とビデオ通話を繋いでいた。多機能端末から投影されたホログラムの甘愛のほうはといえば、にこにこしながらコンビニスイーツを開けている。でけぇエクレア。
「ちゅるぅー……っと、『月導』が通ったのは収穫だったね」
「シンプルに、看破“魔術”じゃないから通った……って考えていいのかしら♡ それとも……」
「どーだろなぁー……」
例によって私自身、『暴く月導』についてあんまりよく分かっていない。ぶっちゃけ、よくある看破魔術と同じようなもん、くらいのノリで使ってる。
“月光とはそれそのものが神秘であり、そして同時、秘されたものを暴く導べでもある”
「……何回読んでも不親切なテキストだよ、ほんと」
「ワタシは好きよ♡?」
「だろうね」
魔術にしろ武術にしろ、普通はもう少し具体的な説明文ってのが用意されてるもの……らしい。
たとえばプロミナさんの『焔輪洞観』なら“太陽を視座とし、光輪を通して見える者たちのステータスを暴く。陽光の強さに応じて出力が変動し、最大時にはあらゆる隠蔽・抵抗を焼き切る”だとか。
ゲームコンセプト的に数字はほぼ出てこないけど、なにがどうなってどう作用するのか、とかは読めばだいたい分かるようになってる。
「……ワタシの調べた限り、看破系の魔術はテキストに“ステータスを覗き見る”旨が明記されているものがほとんど」
「ほへぇー」
“亡霊”としてここ数日、看破魔術食らいまくってるだろうからね……効かないとはいえ調べはするか、そりゃ。
「でも『暴く月導』は……♡」
テキストを読む限り、少なくとも暴く対象は“秘されたもの”であって“ステータス”に限定されていない……と。
思い返せばヘラジカ戦では、『暴く月導』は『汚濁』の弱所を見抜き『収斂月光波』をそこへと導いていた。あのときは当たり前のように使っていたけれど……なるほどたしかに、あれは単なるステータス看破魔術もどきではあり得ない挙動だったかもしれない。
「──そもそも。ルミナってずっと、最初から持っているモノとその拡張で戦ってるようにワタシには見えるのよね♡」
甘愛の声音が少し変わった。より甘く、もったりとしたものに。
手に持ったエクレアの見た目を楽しみつつ。
しかし、私が最初から持っていたものか……
……最初の最初と言うなら、『月光』とそれに付随する顕界度や秘匿状態という概念。そして触手ボディ。『月光波』と『暴く月導』だって、ほとんど最初から持っていたようなものだろう。
『月光波』は束ねて『収斂月光波』になった。『月光』は顕界度の上昇や開示状態への移行といった段階があると判明した。
「つまり『月導』も……」
その内になにかを秘めているんじゃないか? それに気付きさえすれば、より多くの導きを得ることができるんじゃないか?
それが甘愛を連れ出す鍵になるというのなら、利用しない手はないだろう。
「ワタシだって知りたいのよ? 自分のステータスとか。だからちゃぁんと、全部、暴いて見せてね♡?」
本人すらステータスが見えず、[はかなき霊嬢 ガーベラ]という名だけしか分からない。
プレイヤーであるためランダム転移の影響を受け、しかし外から入ってきたわけではないため探索時間制限がなく外に出られない。
その美しさはさておいて、実体のない姿で自分が何者かも分からずに城の中を彷徨い続けるなんて、冷静に考えてなかなかのハードモードだ。私だったら確実に「クソゲーーーーッッ!!!」って叫びながらヘッドセット放り投げてる。
でもそんな出自にあって、楽しげに私を待ってくれているのが──つまりは甘愛の魂の一端なのだろう。
「まかしとき」
ならばそれに応えねば、親友の肩書きが廃るというもの。
「〜〜っ♡♡♡!」
ホイップクリームがあり得ないくらい詰め込まれたエクレアを頬張る甘愛は、それはそれは幸せそうな表情を浮かべていた。
◆ ◆ ◆
翌、夜。
今宵も突撃ィ封印城ッ! ……する前に、ちょっとだけネネカさんのところへ顔を出しております。
いやほら、それはそれ、これはこれじゃん。甘愛は甘愛、ネネカさんはネネカさんなの。
今日は『ノクトの森』に入って採取をする日ってことで、私とプロミナさんも一緒について歩く。お店のほうは新人二人が諸々準備をしているところだろう。
「成果はあった、ってことでいいのかな?」
「多分ね」
私を挟んでやりとりするネネカさんとプロミナさんという構図は、ここ最近ではもうすっかりお馴染みと化している。それは森歩きの最中にも変わらない。
いよいよ夜闇に消える寸前のほっそい月が、それでも木々の隙間から明かりを落とすのは、ここが私のテリトリーだからだろうか……なーんて。
「お友だちさん、早く連れ出せるといいね…………そうしたら、またお店にいてくれるようになるし」
私の脳内イキリ発言なんて聞こえるはずもなく、右隣を歩くネネカさんは今日もふんわりと微笑んでいる。
しかしアレですね、後半の小さな、だけども私に聞こえると分かっている声音のつぶやきがこう、非常に愛おしいですね。バッチリ聞こえてまっせという意を込めてマルのポーズで返してみたら、嬉し恥ずかしみたいな顔ではにかまれた。とても非常に愛おしいですね。
「……協力してるあたしが言うのもなんだけど、あんた嫉妬とかないの?」
対する左隣のプロミナさん、鋭い目つきをさらに細めて問いかける。
ネネカさんに対しては以前と同じ遠慮のない物言いのままだけども、当のネネカさん自身がそれを良しとしているので私からはなにもしない。これが二人にとって丁度良いコミュニケーションなんだろう。
「もちろんありますよ? でも……」
「司教としての信仰心とか、なに、布教心? みたいなのが勝ってる感じ?」
「いえ……もっと単純な話です。向こうの世界のルミナさんについて、もっと知りたいなって」
「??」
「プロミナさんは、ルミナさんと個人的なお友だちってわけじゃないんですよね?」
「んギィッ……!!!」
突然の一撃! でも事実なので否定はできない。
「昔からのお友だち、親友さんなら、わたしの知らないルミナさんのことをたくさん知っているだろうから……いろいろとお話、聞いてみたいなぁって」
“いろいろ”ってところに、それこそいろいろな感情が乗っていそうな声音だ。
それを飲み込んででも私を、宇野 明里でもあるルミナを知りたいと言ってくれるのは、すごく嬉しい。もしかしたらネネカさんは、こっちの世界とあっちの世界という隔たりの本質を理解しつつあるのかもしれない。それは一度、私と深いところで繋がったからなのか、どうなのか。
なおプロミナさん……イカちゃんのほうはといえば、顔を歪ませながら「いや……たしかにそうだけど……」「でもあたしとノソラちゃんは友達とかそういうのとは別次元の関係で……」「あたしには最初の視聴者っていう唯一無二のポジションが……」とかぶつぶつ呟いていた。
まあまあ、私はイカちゃんが好きでイカちゃんは私が好き。それでいいじゃないですか。
「──バウッ!」
ほれみろ、私の心の声を肯定するようにタイミング良くオオカミちゃんたちも姿を現した。
しかし、もうそんなに歩いたのか……じゃあそろそろ城に向かいましょうかねぇ。
ってわけで、お〜しゃおしゃおしゃおしゃっネネカさんをよろしくねぇ〜……と、撫でくりまわしつつアルファちゃんに護衛をお願いする。今さら理由もなく町民を襲う獣なんてこの森にはいないだろうけど、まあ一応はね?
相変わらずわんころみたいにきゅんきゅん鳴いて私に腹を晒していたアルファちゃんは、しかし撫でくりタイムが終わるやすっと立ち上がり、めちゃくちゃクールな顔でネネカさんにひと吠えしてみせた。
うーむ、頼りになる。




