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月の触手は健全に遊びたい 〜魂の姿がアバターに表れるVRゲーム──え、私の魂って触手の化け物なの?〜  作者: にゃー
第三章 封印城攻略

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東の封印城


 ────触手、入ッ城!!

 

 ぇあー、ほら、なんか各々脳内で良い感じのBGM流しといて。


 ……配信者になって以降すっかりくせになってしまった独り言を脳内で垂れ流しながら、私はついに東の封印城へと足を踏み入れた。


 

 お城とはいってもありえんクソ馬鹿デケェというほどではなく、いやもちろんデカいはデカいんだけども、少なくとも「豪華絢爛きらびやかァ! ヒャハハッ毎日酒池肉林血税ドブ捨てパーティーだぜェ〜〜ッ!!!」ってノリではなさそう。むしろ静かな、言ってしまえばおどろおどろしい洋館めいた雰囲気を過分に纏っている。


 外壁外門をくぐれば申し訳程度の庭園、そこを突っ切ればすぐにも居城の正面入り口、外観的には左右対称な造りの封印城は、少なくとも入ってすぐのエントランスも同じく左右対称に作られていた。


「……雰囲気はあるわね」


 綺麗ではある。過美ではなく厳かな上品さという意味で。だけどもどこか埃臭く、うら寂しく、薄暗い。今ではプレイヤーたちが盛んに出入りするようになったはずなのに、それでもなお、人の気配というものが定着していない。そんな静かな城。

 

 に、乗り込みますは我ら、触手、天使、レオパの三人組。まあ標準的なパーティーですね。


「──右か左か、はたまた上か……」


 そのセンターは僭越ながら私が務めまして。右手側で呟くのは、いつもの腕組みポーズのプロミナさん。

 

 外から見る限りでは四階建てくらいのこのお城、実際いざ踏み入ってみれば目の前には、二階へ続く馬鹿広い正面階段がデーンと。その左右には一階の各フロアへと続く分かれ道。当然ほかにも小道がいっぱい。庶民なので当然、どれがどこに繋がってるのかなんて知識は持ち合わせていない。くすんだレッドカーペットに足を任せるなら、上に向かうべきなのだろうか、はて。


 一応、南の勇者さんたちの功績を元にするなら、攻略上のゴール地点はむしろ地下なんだけども……だからって素直に一階を探索すればオッケーという話でもないのがこの東の封印城。そもそも私の目的は甘愛(あま)との合流であって、最悪、ここにいるであろうボスエネミーは無視していいっちゃいい。


「ま、情報見る限りじゃどっから行っても同じっぽいけど」


 しかしこの、個人的な友人を迎えに来たという目的は、少なくとも現時点では他者に伝えないことにしている。これは甘愛本人とも話し合って決めたこと。


 この表現が正しいのかはさておいて、甘愛はほら、いわゆる一般人だ。完全なる。細々とはいえ配信者やってる私とか、そのネームドファン兼イデア有名プレイヤーたるイカミナちゃんさんとはまた違うカテゴリー。あれでSNSとかも完全にROM専だし。

 そのうえで本人も「今の封印城の状況とかワタシのアバターとか諸々鑑みると、ちょっとややこしい話になりかねないかもねぇ〜♡」って判断したわけだ。基本的に私の判断より甘愛の判断のほうが信用できるからね。


「ルミナちゃん、どっちがいい? 一階? 二階?」


 そんな私たちの考えを尊重して、プロミナさんも現状は“とりま城攻略しに来たわよ〜”くらいのノリで喋ってくれている。助かる。いやね、イカちゃんだって本当にマジで人のこと一切鑑みないヤバ女ってわけじゃないんですよ。やればできる子なの。私がちょっと甘やかしすぎちゃってただけで。


 ってわけでじゃあ、ぇあー……そうだね、せっかくだからレッドカーペットのど真ん中歩いちゃいましょうかってことで、二階に続く階段を触手で指す。

 「オッケーっ! 先鋒は任せて!」と元気なプロミナさんがずんずん進み、その後ろを私が転げて続き、殿をプ鱗隊長が少しの金属音とともに務める。プ鱗……プリン……薄暗い城内で見てみれば、たしかに薄黄色の地とカラメル色のマーブル模様がプリンぽく見えなくもない……か?


 ってのはまあ、さておきまして。


 階段を登りきって……なんだろ? 踊り場? みたいな空間からその場のノリで左折。右手に客間なのかなんなのか分からない部屋が連なる長廊下を進むこと少し。左手側に並ぶ窓の外に視線を向けてみれば、もうこの時点でこの城の異常性が見て取れた。


「……どう見ても四階よね、ここ」


 プロミナさんの言葉通り、二階に上がったはずの私たちは今、四階の廊下を歩いている。地面が遠く、月の位置が少しだけ近い。

 ここまで寡黙について来ていたプ鱗隊長は、すっかり慣れた様子でため息を一つ。

 

「まあ、こういうことだな」



 つまり端的に言うならば、城内の空間が歪んでいる。

 


 四大陸なべて全ての封印城には、いくつかの共通項がある。

 パーティー人数制限、探索時間制限、そしてなにかしらの空間系ギミック。


 一つめは、“一組”として扱われるプレイヤーの人数が五人までに制限されてるやつ。

 二つめは、外から入ったプレイヤーが一日に城内にいられる時間(ボス戦中は除く)が決まってるやつ。

 三つめは……ここは大陸によって差異はあるけど、東だと“知らない内に城内の別の場所に転移させられてる”ってやつ。


 城内には何人だって同時に入れる。ただし一と三の影響で、一緒に行動できるのは基本的に五人まで。たまに転移のはずみでほかの組と鉢合わせたりもするけど、狙って合流するのは無理だし、気付いたらまたはぐれてる……らしい。


 ……じゃああと二人ぶん空きがあるだろって?

 ええはい、プ鱗隊長以外には誰も同行しようとしませんでした。なので私たちは即席三人パーティーです。いやいいんだけどね? もともとプロミナさんと二人で入るつもりだったから。


「マっジでなんも気付けなかったわね……」


 さておき、この東の封印城のギミックである『転移』はどうも、本当に完全ランダムっぽい。しかもパーティー内全員の意識の向きとかを感知して、だれも回避できないタイミングでまとめてどっかに飛ばされてる、らしい。つまり防ぎようがない。


「そういう仕様だ。転移させられること自体はもう仕方がない」


 これで転移にパターンがあるのなら、それを解明して目的地にたどり着くルートを構築すればいいだけの話。そうでないのだから、そもそもこの転移自体を無効ないし抑制する方法を見つけるのが、まあ正規の攻略法になるのだろう。んで現状、それはまったく目処が立っていない、と。


「どっかのオートマタみたいに壁ぶち抜けりゃ良かったのにねぇ」


「全くだ……ちなみにだが、『月の触手』の顕界度Ⅲとやらでゴリ押しというのは…………無理そうか、いや済まない」


 封印城はそれ全体が不壊オブジェクトっぽいし、そもそも顕界度Ⅲは現状、狙ってできるもんじゃない。ってわけでバツのポーズを取れば、プ鱗隊長もあっさり引き下がってくれた。さすがにそれ目当てで同行したってわけじゃなさそうだ。


「これはまあ、そもそもボスまでたどり着けないわけね」


「ああ、だが現場のモチベーションは高い。皆、武功を求めているんだろう」


 明らかに絡め手の苦手なプロミナさんは、早くもうへぇって顔をし始めている。でもプ鱗隊長の言う通り、東の封印城攻略のムーブメントは盛んになっていく一方だ。ゲームが、自分の所属するサーバーが盛り上がってるのは私としても嬉しい。

 だけども、だからこそ早めに甘愛と接触したいというのはここだけの話。いやね? 本人から聞く限り、そして実際ネットで情報を拾った限り、傍目にはちょっと紛らわしい感じになっちゃってるっぽいからね彼女のアバター……


「侵度Ⅴの戴冠者ってのは……たしかにあたしも、やり合ってみたいではあるけど」


「同感だ」


 ……ってかあれだ。プロミナさん、めっちゃちゃんと会話できてるな。


 一応彼女には私の許可の有無以外にも、“思い込みで突っ走らない”“暴走しない”“思ったことを思考停止で垂れ流さない”あたりを努力目標として言い聞かせている。


 会話を許した途端に個人情報が漏れたり相手を煽ったり……あとその、ぇあー……なんかいかがわしい言い回しになっちゃったりとか……そんなんなってたら意味ないからね…… 

 イデア内では無期限に私に従ってもらうとは言ったけれども、しかしいつまでも私の許可ありきじゃなにも変わらない。これこの通り本人も頑張って守ろうとしてくれてる。 

 なんだかちょっとだけ、子供を育てているみたいな気分だ。いや経験ないけども。


 今だって、私にかわってプ鱗隊長とやりとりしてくれつつ、ときおり(ちゃんとできてるでしょ?)みたいな顔でちらちらとこっちを見てくる。かわいい。えらい。すごい。

  

 見た目はカッコいい年上お姉さんなのにね。しかし実年齢は私の一個下。二十四歳女性。

 

 ……これなんかちょっと倒錯……いや、いやいやいや、これは極めて健全な、あー……ぇあー…………そう人材育成っ、人材育成なのだ。

 

 …………リスナーどもには犬の調教とか言われたけど。


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― 新着の感想 ―
生意気な大型犬を忠犬に調教する触手の鑑 魂が天使なあたりほんとに神に忠実な使徒なんだよね
無言の触手、触手ファーストプロミナ、解説プ鱗隊長 標準的とは一体? 犬の調教…リスナーのわかりみがスゴイ 言葉使えないのが主の方だけどw
目的を隠してボスにも行かないでって、なんで同行を許したの…
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