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月の触手は健全に遊びたい 〜魂の姿がアバターに表れるVRゲーム──え、私の魂って触手の化け物なの?〜  作者: にゃー
第三章 封印城攻略

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封印城攻略前線


 さて、今回の甘愛(あま)のように最初の段階ではスタート地点から動けないってのは、出自としてはたまにあるタイプだ。私だって円形山岳に囲まれてるって意味で、若干そっちよりのスタートだと言えなくもない。


 んで、この手の出自では大抵、スタート地点から出るための条件ってのが設定されてる、らしい。

 有名どころだと西の大陸のオートマタさんとかで、古代遺跡の奥深くで目覚めた彼女の脱出条件は“彼女自身がマスターと認めた存在とともに遺跡を抜ける”だったらしい。

 これが、ぇあー……いわゆる正規ルート? 的なやつ。当然、正規じゃないルートもある。一番シンプルなのはたぶん、ステータスとか魔術、武術を伸ばして物理的に突破するやつ。

 有名どころだと西の大陸のオートマタさんとかで、開始二週間かそこらで「待つの飽きた。自分のマスターは自分で探しにいく」とか言って遺跡の壁全部ぶち抜いて出てきたらしい。


 ……えー、まあともかく。今回の遠征がどう転がるかは、甘愛本人もまだ分かっていない解放条件次第というわけだ。

 そのへんどうするかなぁー……とか考えてるわずかなうちに。一日と半分で、つまり二日後の昼ごろにはもう、プロミナさんは城の最寄りの町まで到達していた。


 東の大陸は東西に伸びたざっくり楕円形で、『ナーナ』の町はどっちかというと北西寄りの内陸部にある。だからたしかに、周りを囲う円形山岳さえ越えられるのなら大陸の西端──封印城まで行くのはそう難しくはない。とはいえ、マジでできる限りずっと飛び続けてくれたというのは本当にありがたい限りだ。

 せめてもということで、道中がぶ飲みしていたらしい非戦闘時専用魔力回復ポーションと、城下町(って言っていいのか?)の宿──スポーン地点設定のお代は色をつけて私が出させてもらった。『結わえ草』でのバイト代の使い所さんですよ。


 てわけで夜にログイン、スポーン地点をプロミナさんの中の『月輪草』に設定するだけで、私はなんの苦労もせずに封印城の膝下まで来ることができてしまったわけです。

 さすがに都合の良い女扱いし過ぎか? という気もしたけれど……でろっとした表情で「ぅぁ゙……たまんない……っ♡」とか言ってるプロミナさんを見れば、まあこれでいいのかもしれないとも思ってしまった。


「っ゛、ふぅ♡────さぁて、ツラ拝んでやるわあの女……!」

 

 一息つき、かと思えば対抗心を燃やしだした天使さんと二人、城下町から少し離れた丘陵地帯からゲームスタート。

 ……いやね、さすがに町中で触手の化け物がにょろついてたら騒ぎになっちゃうかなぁと思ってね。プロミナさんが街を出てから召喚してもらった。一応、見た目がモンスターって自覚くらいはありますのでね。


 大陸西端あたりということで、少し潮の匂いというか、臨海地域特有の空気が触手の身にも感じられる。昼間だったら遠くに海も見えたかもしれないけど、あいにく今宵の月は三日月よりもなお細い。新月の夜ももう目前、といった塩梅だ。

 だもので件の封印城も、その目の前に寄り集まった簡易キャンプの群れも、遠くからでもそれぞれの明かりがよく見えた。

 後者の、ランプや松明や焚き火なんかの陽気な光のほうへと、ひとまず近づいてみる。というか城の真正面に集まってるもんだから、近づかざるを得ない。

 

「──お? 新しい挑戦、しゃ──」


「……おいおいおい嘘だろ」


「ひっ」


「…………しょ…………っ」

 


「──触手だ……触手が来たっ……! 『月の触手』が来やがったぞ……ッ!!」


 

 んで、くそビビられた。

 

 キャンプ群の外縁にいたプレイヤーたちが、夜目にも分かるほど顔を引き攣らせている。大声を上げたのはそのうちのごく一部だったけど、そこから騒ぎが波及していくのなんて一瞬だ。


「『月の触手』と、擬似天使……!」


「マジで『ナーナ』から出てきてるじゃねぇか!?」


「ぉ、『汚濁』を、狩りに来た……のか……?」


 もともと、近づくにつれ分かるほど喧騒に塗れた空間ではあったけど、私とプロミナさんが現れただけでそれが別種のものへと変貌してしまった。

 プロミナさん以外のプレイヤーとゲーム内で接触するのは初めてだけど……なんだろ、ほんとに怖がられてるんだな私って……

 

 …………いや、これはきっとあれだ。そういうロールプレイだ。触手の化け物にくそビビりRP。きっとそう。そうに違いない。私は悪くない。むしろファンタジーな世界に没入する楽しみを提供してあげているとすら言えようか。感謝したまえよ人間ども。


「……ルミナちゃん、無視して突っ切る? それとも──」


 自分を鼓舞していたら、少し腰を折った姿勢でプロミナさんが囁きかけてきた。『月光讃華』のローブは、松明の暖色にはあまり染まっていない。

 いや、それともなに? なにする気? ──なーんて、こっちがゆらゆらする少しのあいだに(周りのプレイヤーたちはさらに怖がってた)、人をかき分けて誰かがやってくる気配。キャンプの奥のほうから、騒ぎを聞きつけた……恐らくこの集いの中心的なプレイヤー。


「──うおぉマジか……ぁ、あ、いやすまない、つい驚いてしまってな。俺も、みんなも」


 私たちの前に進み出てきながら、その男性プレイヤーさんは比較的冷静に声をかけてきた。いや一瞬、漏れてましたけどね。まあまあまあ、ともかく会話はできそうな相手だ。良かった。


「初めまして、『月の触手』そして擬似天使。俺はマスタードプ鱗という者だ」


 ややくたびれた中年ボイス、チェインメイルに包まれたガタイのいいアバター、さながら傭兵騎士とでもいった雰囲気の男性。顔はちょっとトカゲだけども。ほらあれ、レオパ。声や体格に反して瞳はつぶらだ。

 ってもまんま爬虫類ってわけではないし、あくまで元の要素ちょい強めの擬人化くらいの塩梅。きれいに背筋の伸びた直立二足歩行だし。手足や指がどうなっているのかは……鎧に覆われていて分からないけど。


「封印城攻略の音頭を取っているクランの、いわば夜間の取りまとめ役とでも思ってくれ」


 封印城攻略、その中心として動いているクラン、なんならこのマスタードプ鱗さん──とりあえずプ鱗隊長とでも呼ぼう──などなどの情報は、一応事前に仕入れてはいる。SNSであったり、甘愛であったりから。


「で、その……そちらも城の攻略にきた、という認識で良いんだよな?」


 他方、あちらさんは私たちの行動理由なんて知らないわけだから、そりゃあまあ“恐怖! 突如としてキャンプに現れた触手の化け物!!”ってな反応にもなっちゃうのかもしれないけど。プ鱗隊長もよく見れば顔がちょっとひきつっている。


「…………」


 ……あ、プロミナさんこの人とは喋ってオッケーよ。よろしくお願いします、って意味を込めてマルのポーズを向ければ、お口チャックを解いたプロミナさんが応対してくれた。約束守れてえらいっ。


「……そうね、まあそんなとこ」


 まさかダメなんて言わないわよねぇ? なんて言葉が喉まででかかってた気がする、ってか視線に若干乗ってる気もするけど……まあ、よしとしましょう。我慢できてえらいっ。


「……そうか」


 プ鱗隊長のほうは、安心したような拍子抜けしたような、なんとも言えない表情に変わったけど。まさか私が突然この場で暴れ出すとでも思ってたわけじゃあるまいに。


「入城時の仕様や内部の情報などは? 我々は得た情報は共有公開している。もし必要であれば……」


「ありがと、でも大丈夫。ネットに出てるぶんは頭に入ってるわ」


「なら問題はないか。では、同じく城攻略を目指すものとして健闘を──」


 と、またここで一度、プ鱗隊長の表情が動いた。


「──……いや」


 自分の言葉を自分で遮って、わずか考え込み、そして決意する。その一連の流れが、彼自身の纏う雰囲気を変えた。


「……?」


「もし差し支えなければ、だが……」


「……なによ?」


 プロミナさんも異変を感じ取ってか、声と視線に力が宿る。私も一応、身構えておく。プレイヤー同士だし、いきなり殴りかかられるってことはシステム上ないだろうけど、それでもね。

 両者、少しだけ張り詰めた空気。喧騒はいつの間にかすっかり止んでいて、かわりに、周りのプレイヤーたちが固唾をのむ音すら聞こえるような。


 そんな一瞬の沈黙ののちに、マスタードプ鱗隊長は重々しくこう言った。


 

「…………俺も、同行して良いだろうか?」


 

 ……いや。

 なんですかその、祖国を守るため悲壮な覚悟で悪魔との契約に踏み切る騎士みたいな顔は。作画が凄いことになってますけども。


※マスタードプ鱗隊長は紳士的なレオパなので百合のあいだには挟まりません

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― 新着の感想 ―
スポーンするたびに信者に快楽を与えてくれる触手さんすっご……
ネームド野郎がでた!New 末尾の注釈がなければ読者も警戒しただろう 只の勇者だったかw 月は三日月より細くと油断させてきてるが 太陽の光のあたり具合なだけで そこに月そのものはあるんだよねー 見え…
自分から触手に同行しようだなんて、なんて献身的な人柱なんだ……
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