あまあまデート
投稿が遅れてしまってすみません……
もしかしたら今後はこれくらいの時間、18〜19時くらいの投稿になるかもしれません。
さてさて、プロミナさんあらためイカちゃんとのアレコレ──天使騒動だとかプロミナ騒動だとかイカロス騒動だとか言われてる──からだいたい一週間くらい、の朝。
なんとなーく落ち着きを取り戻した私は今ちょうど、明 ノソラとしておはよう朝活配信の真っ最中。毎日の日課、もはやルーティーンとすら言えようか。
「──ってわけでー、今日はこれから親友ちゃんとデートだから、午後配信はお休みでーす」
〈ぎぃいいいいいいいいいっっっっ!!!!!〉
〈まーたイカロスが負けてら〉
〈おっ、今日も負けてんねぇ〉
〈脳破壊の申し子 無敵イカロス〉
〈ノソ×友かノソ×イカか〉
〈圧倒的ノソ友優勢〉
〈どちらもあり得る。それだけの話っす〉
あれやらこれやら準備する私の様子は今、明 ノソラの形を取ってARとしてリスナーさんたちの視界に映り込んでいることだろう。なんかあれだよね、昔はトラッキングするにも体のあっちこっちに機材を装着しなきゃいけなかった? みたいな話だし、つくづく恵まれた時代に生まれたなぁという感じ。
イカちゃんが発狂してるのはまあ、甘愛の話をするときのお約束みたいなものなので。
「なので申し訳ないけど『ウミウシ☆ラプソディー』の続きはまた後日やるということで。すまぬ」
〈やらんでいい〉
〈なにが悲しくてウミウシとその餌の恋愛シミュレーションゲームなぞ眺めにゃならんのじゃ〉
〈せめて擬人化して〉
朝活配信までリアタイしてくれるのは、チャンネル登録者さんの中でも特に熱心な人たちばかり。コメント上では憎まれ口ばっかりだけど、私のこと推してるのはバレバレだ。かわいいねぇ。
さらにさらに、ありがたいことに先の天使騒動でチャンネル登録者数はそれまでの二倍ほどに増え、比例してコメント欄も活気が増している、気がする。
もろもろ含めた最大瞬間風速は例の配信だったけども、それ以降も同接数・再生数は以前の私とは比べ物にならないくらい増えたままだ。つまり、遠巻きに観察してる人たちもまだ一定数いる。一応こちらも様子見でコメント制限は継続しつつ、そういう登録者さん予備軍のみなさんもどうにか取り込めないかと考えているこのごろです。
ま、今日は甘愛とのデート最優先なんですけどね〜。
「ってわけで、今日もお仕事の人もそうじゃない人も、何事もなく一日過ごせますように。あ、イカちゃんは夜に向こうで会おうねー」
〈うん。昼間のナーナは任せて〉
〈私信やめなさい〉
〈他の女とデートしてるあいだに良いように使われる無敵イカロスであった──〉
〈一声かけられただけで尻尾振るイカロスサイドにも問題があるのでは?〉
〈デートの土産話待ってるっす〉
ではでは配信はこのあたりで〜、いざ出陣っ。
◆ ◆ ◆
「──おはよう明里♡ 待った♡?」
「んーん、今ついたとこ」
うーむ、今日も親友が激マブい。思わず古語が出てしまった。
丈長の、シックなドッキングワンピースを着こなすお姉さんのご到着である。いや同い年だけども。
私? ロングのワイシャツにチノパンのどシンプルスタイルです。た、高見えとか意識してんだよこれでも。
ちなみに本当にいま到着したところ……というか甘愛との待ち合わせはいつもお互い同時につくのが常だ。たぶんテンポとかが合うんだろう。
駅で合流、そのまま電車に乗って数駅先のデパートに、ってのが今日のプラン。
「甘愛は今日も美人さんだねぇ」
「ありがと♡♡」
今日も今日とておっとりとした細目が、楽しそうにたわんでいる。人混みになびく長い黒髪の艶も絶好調。美しい漆黒というのはまさに甘愛の髪のことで、同じ黒でも『汚濁』なんぞとは比べるのも失礼なほどだ。
170超えの長身にメリハリの利いたスタイル、シュッとした顔立ち、つまりはどえらい美人さん。姫カットがなんの違和感もなく似合い散らかしている時点で、その造形美ってやつがうかがえるだろう。
「じゃあ行きましょうか。楽しみねぇ♡」
「お手柔らかに」
さてさて本日、午前中はショッピング、おもに夏服を買いにいきます。
いやぁーもうそろ汗ばみやすい季節になってきますけども、ここのところイデアにハマりすぎてすっかり服の新調を忘れてしまっておりまして。そもそも根がインドアだからね……ってな話をしたら甘愛がコーディネートしてくれるってんでそれに甘える次第。んで甘愛の服は私が選んじゃう。完全私の好みで。甘愛はすんげー美人なのでなに着ても似合っちゃうんですねーこれが。
さすれば電車に揺られてついた先、でけぇデパート内のテナントを二人で見て回る。
なんでもかんでもってわけにはいかないけども、今回は懐に余裕があるのでちょっとばかし値の張るやつでも買えちゃう。ということを伝えたら、甘愛はいつも以上に楽しそうに私を着せ替え人形にし始めた。まあ、良いでしょう。
「──明里は相変わらず体型のバランスが凄く良いから、なに着てもどんな髪型でも似合うわねぇ〜♡」
中肉中背も言いかた次第。
我ながらなんの変哲もないミディアムヘアも、色が抜けすぎない程度にブリーチした暗めのグレーカラーも、甘愛の口車にかかればなんかすごいイケてるヘアスタイルみたいに思えてくる。
「いや、甘愛には負けるが」
「あらぁ♡♡」
なにせ本人が、ものすごい美人さんだからねっ。
◆ ◆ ◆
ってな感じでまあ、ひとまずの買い物を終え──午後にたぶん第二回が開催される──、遅めの昼ご飯くらいの時間に来ましたるは〜……スイーツビュッフェっ。ひぃ〜ッおっしゃれぇ〜ッ……!
「──すみません、二人で予約している大千本槍ですけれども〜」
「はい、大千本槍様ですね。お待ちしておりました」
デカデパート内でも、ちょっと水準高めなレストランやらが並んでいる一角。その中の一つとなれば、受付のお姉さんもどこか洗練された所作で私たちを迎えてくれた。
……かと思いきや。
「……あの」
「はい?」
「その……カッコいい苗字ですね」
ほう、この店員さん、理解っていらっしゃる。
甘愛の肩に身を寄せつつ、同意。
「ね。超イケてますよね」
「ええ、とても」
「ありがとうございます〜♡」
大千本槍 甘愛、カッコいいとかわいいが合わさり最強に見える。我が親友は姓名からしてイケてるのだ。
となぜか私のほうが得意げになりつつ、店員さんの案内を受けて少し奥のほうの個室へ。予約すれば個室も取れる、ちょっとだけ良いとこさんなお店でごさいます。どっかのホテル? かなんかとの提携なんだって。すげーや。
まあ私も? イデアのプレイヤーPV第一弾でけっこう収益いただきましたからね? まあまあまあ? たまにはね?
席でプランの説明を受け終わるや否や、私と甘愛は揃ってふたたび立ち上がる。んで各々プレートを一枚といわず携えて、気になったものを好きにとって、戻る。神速を尊ぶってやつだ。甘い匂いにつられたとも言える。
「ほい」
「はい♡」
明らかに甘愛のほうが量が多い。
しかも、私は一緒に軽食類も選んだのに対して、甘愛のプレートは全部が完全スイーツオンリー。ケーキっぽいのだけでも定番のいちごショート系からショコラ系から……なんだあれ? あ、かぼちゃか。ほかにもプリンにフルーツタルトにティラミスにプチシュー、その他諸々エトセトラ。
見てるだけでカロリーの暴力にノックアウト寸前。グラマーな甘愛に言わせてみれば「カロリーも上手く扱えばメリハリ体型の建材」らしいのだけども。代謝も体型も普通な私には分からない領分だ。
「えーでは、いただきます」
「いただきま〜す♡」
昼食というにはデザートすぎるけども、たまには私も女子力を上げなくてはね。
「おお、さすがに美味い」
「〜っ♡♡♡!」
一口目から甘愛はもうすごい幸せそう。声にならない声を上げている。
気持ちはわかる。美味じゃ美味じゃ。
空腹もあって、しばらくはお互い喋るよりも食べるほうに集中してしまった。「うまっ」とか「〜っ♡♡」とか「甘愛も食べる?」とか「あ〜♡」とかそういうやりとりはあったけども。
一度皿が全部空いて二周目に入ってから、雑談多めになってきた。いや甘愛さんはペース落とさずガンガン食べまくってますがね。ともかくその話題はといえば、自然とイデア方面へ。
「結局、開示状態の条件ははっきりしないままねぇ〜♡」
「だねぇ」
この一週間で検証してはみたものの……少なくともプロミナさんの『焔輪洞観』では、もう『月影の秘匿』を暴くことはできなくなっていた。単純に同じ看破魔術を二度は食らわないということなのか、それともほかにも条件があるのか。そもそもいまだに『月光』も『月の触手』もなんなのか分かってないのだから、なんでも思い通りにいくとは思わないほうがいいんだろう。
有線テレパス自体はその、こう、すごい良い感じなので、どうにか再現できればなあと思いつつ、しかし実数値700オーバーはさすがにインチキ臭いよなあという気持ちもあり……いやあのときは脳汁ドバドバハイテンションモードで麻痺しちゃってたけども。
「ワタシは良いと思うけどねぇ〜♡ 他を隔絶する、明里だけの圧倒的な力♡」
「甘愛はそういうの好きそうだもんねぇ」
「大好き♡」
中学二年生になる前から厨二病だったからなぁ。
甘いもの好きも昔から。私に対して甘いのも同じく。ってか甘愛しかりイカちゃんしかりネネカさんしかり、私の周りって私に甘い人ばっかりな気がする。自己肯定感が高まる〜。
「──ふふ、夜までに帰してあげないと、ネネカさんが嫉妬しちゃうかしら♡」
「そっ、れは……まあ、そうかも」
む、ネネカさんのこと考えてたのが読まれたか?
以前ならこういうからかいはちょっと気恥ずかしいものだったけど、有線テレパスを経てある意味、気持ちに確信を得たからなぁ。ネネカさんの気持ちも、私の気持ちも。
「いやでも、甘愛との時間も大事ですよ?」
「♡♡♡」
ケーキの最初の一口を食べたときと似たような、いやそれ以上に幸せそうな音が返ってきた。ちょろくてたまに心配になるよ私は。
しかし、そんな私の言葉がなにかしらのキーにはなったみたい。甘愛は一旦食べる手を止め──フォークを離しはしなかったけど──、少し考え込んでから。めずらしく、ちょっとだけ申し訳なさそうな声音で、口を開いた。
「……その、実は少し、助けてほしいことがあって──」
「なにすればいい?」
「♡♡♡♡」
なんだそのひゃーっ♡ みたいな顔は。親友が困ってるんならそりゃ話くらいは聞くでしょうよ。
「ごめん、そんな深刻な話ってわけじゃないの♡」
「あ、そうなの?」
肩の力が抜けた。それで初めて、自分が少し前のめりになってたことに気付いた。
いやしかし、そうはいっても甘愛の顔には困惑の表情が浮かんでいて、なんというか珍しい。甘愛がなにかに困ることなんてそうそうないから。
「そのぉ……実はワタシ、数日前からイデア始めたんだけど♡」
「エッそうなの!?」
おずおず、といった様子で語られた内容にまずびっくり。
なんだよぉ早く言ってよっ甘愛と一緒に遊びたいのに〜。
「すぐに言う、というかすぐに会いにいくつもりだったのよ♡? いえ、なんなら明里のすぐ近くからスタートできるんじゃないかって、思ってたんだけど〜……」
「え、そんなん狙ってできるもんなの?」
「できる、と、踏んでたんだけどねぇ……」
甘愛がイデアに関してあれやらこれやら情報収集に勤しんでいるのは知っていた。なにか彼女なりの準備期間があるんだろうって待ってたんだけど……アレか、出自とかスタート自体をコントロールしようとしてたのか。
「幸い大陸は同じだったけど……ちょっと、そのぉ〜……問題というか♡?」
「どしたんどしたん」
しかしそんな用意周到な甘愛ですら、そう上手くはいかなかった、と。
そりゃそうか。あのゲームがある種の異質さを孕んでるってのは、もうみんな知るところだし。
「どうもワタシ、幽霊──地縛霊? みたいな出自で♡ スタート地点から出られないの♡」
「おうマジか」
また妙ちきりんな。いや私が言えたことじゃないけども。
「大陸のどのへん? ほかのプレイヤーとかはいる感じ?」
「そうね……ちょうど最近、人がよく来るようになったみたい♡」
東の大陸、最近プレイヤーがよく来る、つまり──どこだ? いや『ナーナ』と『ノクト』に籠もってるから全然分からん。引きこもり触手にはてんで見当もつきませんってことで、さくっとギブアップ。どこよ? と視線で促す。
「ふふ──」
甘愛はゆっくりとフォークを置き、意味深に一拍溜めてから、吐息混じりに囁いた。
演出好きの凝り性さんめ。
「──東の封印城♡」




