白昼の月
そして四日後。
私は初めて、日中にイデアへログインした。
配信がお休みの今日の午後を指定してみれば、ちょうどプロミナさんも予定がないってことで決定。場所は前回と同じく『ナーナ』と『ノクトの森』のあいだの草原。昼間に来てみれば、これがまたなんとものどかな雰囲気だ。夜であればほぼほぼ満月のタイミングだけど、まあ当然、月なんて見えるはずもない。
「条件、色々飲んでくれてありがとっ。正直助かったわ」
すでに待ち構えていたプロミナさんが、にやりと笑いながら近寄ってきた。
時間帯以外に彼女が出した条件は二つある。
一つ、決闘の様子を配信させて欲しい
一つ、『太陽教団』の団員から数名、決闘に立ち会わせて欲しい
一つめの配信に関しては……この前の焼き鳥騒動が関係している。
SNS上であの話が広まった結果、プレイヤーたちのあいだで“『太陽教団』の擬似天使は『月の触手』の配下になった”みたいな噂が流れ出した。で、この手の噂は本人が口で否定しようともそう簡単には消えやしない。
それがプロミナさん的にはどうにも我慢ならなかったのか、「月の触手とは戦うために接触していた。馴れ合うつもりはない。その証拠を見せる」とか宣言しちゃいまして。だから今回の決闘を生配信でSNS上に載せたい、と。
……いやこれねぇ。私がそこまで協力する義理、ないっちゃないんですけどもねぇ。
ぇあー、そのぉー……「お願い月の触手ぅ……お金? いくら払えばいい? あ、それかほらっ、あんたが勝ったらなんでも言うこと聞いたげるとかどう?だから、ね? ね?」とか涙目になりながら言われちゃうと、いやいや(な、なんでも……!?)とか思ったりなんてしてませんけれども、しかしええ、はい。
ほらあれ、一個許しちゃうともう一個二個くらいええかぁ……みたいな気になっちゃうというか。それで配信にオッケーを出してしまい、ついでにNPC間でも広く決着を知らしめるためって理由での教団員立ち会いも、流れで許可してしまった。これが馴れ合いでなければなんなのか。
なんだかんだで甘やかしちゃうの、なんでだろうなぁ…………私がチョロいのか? いやいや、プロミナさんがあんまりにも哀れっぽく懇願してくるのが悪い。うん、きっとそう。
「天使様、必ずや勝利をっ」
「我ら、その瞬間を見届けさせていただきます……!」
「『太陽教団』の威光を……っ」
「ん、まっかせときなさいっ!」
ともかくそういうわけでプロミナさんが連れて(運んで?)きた『太陽教団』の団員さん三名が、それはもう熱烈なエールを彼らの天使様に送っている。曰く、カゴに入れて空輸してきたとのことだけど……それが天使のやることなのか、というのはさておいて。
声的に男性二人女性一人、みんなローブにフードまでしているものだから顔はよくうかがえない。プロミナさんのローブから金糸の刺繍を引いたような、それでも陽光が眩く照る白一色の装い。
……しかし、あの感じだとむしろ教団員さん側から立ち会いを申し出た可能性が高いか? 前にプロミナさんが、月の触手のこと話したらみんなめちゃ対抗意識燃やし始めた〜的なこと言ってたし。やっぱり太陽信仰の徒としては、月ってのは見逃せないものなんだろうか。
「──なんだか大事になっちゃった気がするけど……」
──はいぃぃさてではでは続いてこちらの立会人っ。そうですネネカさんですっ。
ふんわりと微笑む彼女たっての希望で、普段は寝てるだろうこの時間に一緒に来てくれましたぁ!
「……でも。どうせ戦うなら、触手さんには勝って欲しい……っていうのは、わたしのわがままかな?」
いえいえいえもうまったく! このルミナ、ネネカさんの御前とあらばいつでも全力で戦わせていただく所存ですので!!
「ああでも、やっぱり無理はしないで欲しくもある……昼間だから、ね?」
こちらもフードで日差しを遮りつつ、それでも慣れない陽の光に目を細めているネネカさん。羽織っているローブはどこか青白く、同じ白でも『太陽教団』のそれとは真逆にすら思える。私はこっちのほうが好み。
「……とにかく、みんなの分まで応援してるから。触手さん」
ぐっと拳を握るかわいすぎお姉さんに、頑張りますのポーズで返す。どんなポーズかって? こう、あれだよ、うねうねやんだよ。それで通じるんだよ私とネネカさんのあいだじゃ。
ぇあー、ちなみにネネカさんの言葉通り、当初は町のほかの皆さんも俺も私もと手をあげてくださったんですけどもね。みんな出張っちゃったら町そのものに影響が出ちゃうんじゃないかってことで、代表してネネカさんが。
んで代わりにと言っちゃなんだけど、今回はアルファちゃん率いる『ノクト』のハイイロオオカミちゃんたちが、わざわざ森から出てまで様子を見に来てくれていた。
「グルゥウウウッ……!!」
……いや様子をというか、みんな揃って思いっきり威嚇してますけどもね。この前プロミナさんも連れて森を歩いたときの比じゃないくらい、明確に敵意を持って『太陽教団』の皆さんを睨みつけている。
こっちもこっちで、THE・昼属性なやつらには過剰反応しちゃうんだろうか……いやでも、ここまで露骨だと少し考え込んでしまいそうになる…………っと、気付けばプロミナさんから決闘申請が、ボーッとしてる場合じゃないか。
「──時間は無制限。どっちかの体力が尽きるか、降参するまで。いいわねっ?」
マルのポーズで返す。
勝つにしろ負けるにしろ、恐らくこの一戦で、私とプロミナさんの戦いにはひとまずの決着がつくだろう。予感ではなく確信。それをひしひしと感じながら、私は承認の文字をタップした。
「っしゃぁっ! やってやる、やってやるわよっ……!」
少し離れた距離、正対する位置関係、互いがそれぞれの構えを取る、配信はもう始まっているはず。
頭の中で鳴るカウントダウンは、それ以上余計なことを考える間もなく進んでいって。
「──ッ!!」
そしてゼロで、私もプロミナさんも、弾かれたように前に飛び出した。




