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月の触手は健全に遊びたい 〜魂の姿がアバターに表れるVRゲーム──え、私の魂って触手の化け物なの?〜  作者: にゃー
第一章 月の触手

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ノクトの森


 木々枝葉のあいだを、ビュンビュン跳んで進む。

 予想通り、声の主は泉からそう離れてもないところにいて、そのおかげでどうやら間に合ったみたい。ほんの少しだけひらけた空間に、一人の女性と獣の姿。


「グァ゙ゥ゙ッ!!」


「ひっ──」


 なにやら黒いモヤ、泥? をまとったオオカミ的なモンスターが女性に飛びかかったまさにその瞬間、私はその横っ腹に体当たりをブチかました。


「キャウンッ……!」


「──ぁ」


 わんころみたいな悲鳴をあげて地面を転がるオオカミと、見開いた目をこちらへ向ける緑髪の女性。まあそりゃ、いきなり木々のあいだから触手の塊がすっ飛んできたらビビるよねぇ……

 

 ともあれ、牙と爪が届くすんでのところでなんとかなった。やっぱり立体機動しか勝たん。全身軟体だから体当たりも着地も私にはダメージなし。女性の前に立って……座って? 丸まって? ぇあーとにかく後ろに庇う位置で、起きあがろうとするオオカミを注視する。気持ち的には睨んでいるつもりです。


[『ノクトの森』のはぐれオオカミ 汚濁侵蝕体 侵度Ⅱ]


 すると視界の端にポップアップされたオオカミの名前。これぜったい通常個体じゃないやつ。

 元々は立派な毛並みだったのだろう灰色の体は、泥ともモヤともつかないものに纏わりつかれている。目つきもなんというかこうイっちゃってて、けっこうな手応えのあった体当たりも実際どの程度のダメージだったのか窺い知れない。


「グルルゥゥ゙……ッ゙!」


 こちらを威嚇する唸り声も、なんだか変な濁り方してる気がするし。まさしく『汚濁』とやらに侵蝕されているというわけだ。

 こう正対してみると体格も立派なものというか、後ろ足で立ち上がったら人間の背丈なんて余裕で越えそう。くそ、私も伸び上がって威嚇し返してみるか。うにょーん。この体、なまじっか伸び縮みするぶんサイズ感が分かりづらいなぁ……


「ゥ゙ガァッ゙!!」


 私の威嚇がお気に召さなかったのか、オオカミはひときわ攻撃的な声とともに襲いかかってきた。私の後ろにはまだあの女性がいる。引いたり避けたりはできない、ので。

 渦を作るように触手を構え、接触の瞬間にいなして、相手の勢いを利用して投げ飛ばす。


「グルゥッ゙!?」


 くくく知らんのか? 触手は柔術も扱えるんだぜ?

 いやしかし本当に思った通りに動くなこの体……やっぱお金かかってるVRゲームってすごい。


「クキュゥン……!」


 さてまたしてもわんころめいた悲鳴を漏らしながら地面を転がるオオカミ。

 しかしすぐに起き上がっては再度突っ込んできた。不屈の闘志。そしてまた私に投げ飛ばされる。突っ込んでくる。投げ飛ばされる。それが幾度か繰り返されて、なのにオオカミは引く様子も力尽きる様子もない。

 あのモヤ──『汚濁』がクッションになって守っているのか、はたまたダメージを受けても無理矢理に体を動かされているのか、とにかく愚直に、攻撃衝動のままに何度も襲いかかってくる。ゾンビかなにかのようで正直怖い。

 相手の体力ゲージが見えないというのも不気味さと徒労感に拍車をかけている。これも『汚濁』の影響なのか、はたまた私の体にその辺りを見通す力が備わっていないのか……


 ……てか私、自分のステータスすらちゃんとチェックしてないじゃん。

 この体でなにができるのかろくに確かめもしないまま、悲鳴に引っ張られて飛び込んでしまった。投げや打撃以外の攻撃手段を持っているならぜひとも試してみたいところなんだけど……さすがに戦闘中に、後ろに人を庇いながらステータス画面を開くわけにもいかない。


 ぇあー、いっそ拘束して絞め殺す? いやでもそれだとかなり抵抗されそうか? 今は有利に立ち回れてるとはいえ、スタート直後で初期ステータスのままのこの体が、普通じゃないモンスターの抵抗にどれだけ耐えられるかも分からない。あとまあ、万が一にも『汚濁』が私にまで侵蝕してきたらヤだし。


 ──なんてごちゃごちゃ考えていたせいで、受けの姿勢が少し崩れてしまっていたみたい。いやあるんだよ、触手柔術にも姿勢とか体捌きってものが。たぶん。知らんけど。私さっきからずっとノリで体動かしてるけど。

 ともかくその隙をついてひときわ鋭く突貫してくる辺り、侵蝕されていてもさすがは野生のハンターだという話。


「ガアァッ゙!!」


 これはうまく投げられない。うっかり後ろとか横とかに放っちゃったら、女性が危険にさらされてしまう。受け止める、いや強引にはたき落とすかっ? 考えながらも体は反射的に、触手を一本横薙ぎに振っていた。これで弾けるか、それとも爪と牙で切り裂かれるか。

 ええいちくしょう、いっそなんか出ろっ!!

 

 ひゅんっ、スパァン。


 うわぁなんか出たぁ!?


「グル、ゥ゙──」 


 触手をひゅんってやったらスッってなんか、衝撃波? いや斬撃? みたいな銀色の光波が出てきまして、三日月みたいなそれがオオカミをスパァンと両断しちゃいまして。あ、オオカミの死体から『汚濁』が溶け落ちていきまして。

 

「──、っ」


 背後から息を吐く音が聞こえて、それで私も我に返れた。いちおう念のため、半分こずつになって地面に横たわるオオカミの亡骸を注視して……


[『ノクトの森』のはぐれオオカミ 死骸]


 うん、間違いなく死んでますね。『汚濁』もなくなってる。

 初戦闘、なんだかよく分からないうちに無事勝利、いぇーい──


 

「……あ、あの……」


 

 ──またしても魂が引っ張られるようにして、その一言だけで体が勝手に振り向いてしまった。

 改めて正面から見たその女性。いや実のところ、最初に割って入った瞬間から気付いていたことが一つある。

 

 この女性、いやお姉さん。めっちゃ美人。


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