森の奥へ 2
さてまずは一頭目っ、明らかに鉄砲玉だろってな愚直過ぎる挙動で正面から突っ込んできたやつを数本の触手で引っ掴み、暴れられる前に首をへし折るっ。今の私は技量素養110超え、身体素養も三桁が近いわけでして、初オオカミ戦のときとは違うのだよ!
続いて半秒ズレで左右から挟撃してきた二、三頭目を触手柔術で吹っ飛ばすっ。同時に、絶命を確認した一頭目の死骸を本命っぽい四頭目に投げつけましてぇーっ? 跳んでかわして牙を剥く四頭目、だけどもこちらはもう『月光波』発射済みでーすっ!
「グルァ゙──」
首が折れた個体、投げ飛ばされた個体×2、上半身が吹き飛んじゃった個体。四頭がアルファの足元に叩きつけられたのはほぼ同時。
くくく、他愛もなうわあぁ吹き飛んだ半身が再生していってる……下半身から『汚濁』がこぼれ出るように広がって、再びオオカミの形になっていく。首が折れた個体も、ぐりゅぅぅうって感じで無理やり元通りに。残り二頭も何事もなかったように立ち上がる。
それら全てが、アルファの一吠えによってもたらされた。
ちぎれても再生するとかいよいよ化け物だなぁ…………いや私もだろうがってのは置いといて。
首を折ったときには、たしかにごきんっというイヤな感触があった。あんななりでも侵蝕元の生物の体は残っているらしい。そしてだからこそ、こうやって再生するさまがいっそう埒外で悍ましく見える。
「ヴゥゥゥ゙ッ゙……!」
「グルァ゙!」
そうしてすっかり元通りになった四頭揃って、アルファの前に立ちこちらを憎々しげに睨んできた。少なくとも二頭は全損したはずの体力もみんな元に戻っている。
……まあなんだ、再生するのは厄介だけども、見ていて一つ安心できた点もある。
上半身が吹き飛んだオオカミは、自分自身の内にある『汚濁』で体を再生させていた。
つまり、この黒濁りした地面から無限に『汚濁』が供給されてるとかってわけじゃない。
いや正直、考えたからねその可能性も。そうでないってだけで気は楽だ。侵度Ⅳアルファ由来か、それとも侵蝕された群れオオカミ全体としての能力なのか、それは分からないけど……ともかく無限ゾンビアタックはない、と。
「オ゙ォォォオッ!!」
さて一瞬のインターバルも終わり。第二ラウンドじゃァ!
さっきの攻防で学習したのか、四頭のオオカミはより複雑な連携を見せながら再び私に襲いかかってきた。
正面左右だけでなく背後にも回ろうとしてきたり、同時攻撃と波状攻撃の緩急をつけてきたり。あとなんか口から汚濁の塊みたいなきったねぇやつを撃ってきたり。ほぼゲロでしょこれ。
で、それらすべての行動が、アルファ個体の指示によって統率されている……んだけど、その肝心のアルファは攻撃に参加せず、傷ついたり絶命したオオカミに一吠え浴びせて無理に戦線復帰させてる。そして当人は、まるであの繭だか蕾だかを守るように動かない。
随分と狂犬的もとい強権的だ。いや部隊の指揮官とかって意味でならおかしくもない気もするけど……え、オオカミの群れってこんなんだっけ? もうちょいアットホームな感じだと思ってたんだけど。
群れで狩りをするという性質が歪められてるふうにも見える。これもまた『汚濁』の影響か。
まあなんにせよ、あっちが獣の群れならこっちは触手の化け物だ。一匹でこいつら全員以上の手数を持ちしし者! 後ろに目はなくとも後ろにも触手は生えているのだ。四頭程度、どこからどうこようとも返り討ちよ!
「グギュゥ゙ッ……!」
もう何度目か、どれがどの個体かも分からなくなっちゃったオオカミを『月光波』で粉砕する。
肉片もとい『汚濁』片が飛び散って、そしてまたそれらが結合し再生。こいつら、少なくとも頑強さに関してはあのヒグマには遠く及ばない。殺す気の一撃を入れればしっかり死んでくれる。ただ再生するってだけで。
……一応、このまま相手の再生リソースが尽きるまでひたすら殺し続けるというのも一つの手段としてはある。あるんだけども……それはなんというか作業感が否めなくなってしまうし、このあとあの繭っぽいやつが控えてるのも考えると、あまり消耗はしたくない。主に集中力とかリアルな体力とかって意味で。有限だろうとはいえ終わりが見えないのは疲れるからね。
てわけで一回、短期決戦を試してみましょう。
こういうのはねぇ、頭を倒せばチームも瓦解するって相場で決まってるんですよぉっ。
ここまで私はほとんどその場から動かず、あくまで迎撃と反撃に徹していた。
もちろん、私が“動ける”ことくらいこいつらも勘付いてはいるだろうけど……でも実際に突然高速機動を繰り出せば、初撃に限り反応の遅れが生じたっておかしくはない……はずっ。
ってわけでいきまーす!
まずは背後から飛びかかってきた一頭の首根っこを掴み、振り回して前方に叩きつける。死骸を正面に投げつけ、その影に隠れるようにして一気に跳躍っ!
横にいた一頭は距離的についてこれない、前にいた個体が死骸を避けたころには私は横を通り抜けてる、その斜め後ろにいたやつはすれ違いざまに触手で弾き飛ばして無力化。アルファまでの道は開けたっ!
「ルォ゙ォァ゙ッ!!」
ここで軽めの『月光波』っ、ああさすがにアルファ、見えてるか。まあそうだよね!
そもそもこの『月光波』、飛翔速度は結構速めとはいえ見えない避けられないってほどじゃない。俊敏な生物なら普通に見切ってくる。なので牽制、誘導、近接での追い火力とかが主な使い道。
そして今のは思いっきり牽制!
しかし避けられるつもりで撃ったんだけど……よほどあの繭を守る意思が強いのか、アルファはその場を動かず口から『汚濁』を吐いて相殺してきた。
それならむしろ好都合、再びこちらを見やるアルファ──の前足を触手で掴めるくらいにはもう近づいておりましてェ!
「クキュゥン!?」
お前もわんころみたいに鳴くのかよっ! なんて思いつつフック&体当たり、からの拘束っ。アルファの全身に絡みつき、逃げられないようにしながら一緒くたに地面をタンブルウィード!
「グッ、ヴッ゙、ヴゥ゙……!!」
四肢の関節へ逆方向に負荷をかけつつ、首も絞めつつ、『汚濁玉』(いま適当に命名)を吐かれないように口も拘束。ちょうど撃とうとしてたのが口内で暴発したらしく、ぼごっと汚い音がなって苦しんでいた。ラッキー。
ここまでくればもうお分かりですねっ? そうおなじみ『月光波』ァ!
二発を同時に、アルファの心臓めがけてゼロ距離で撃ち込む!!
「ガッ──」
さあさあどうだっ!?
体力ゲージ自体は一気に全損まで持っていけたけども……正直お前まで再生能力持ちだとダルいクソボス認定せざるを得ないぞっ!
「ォ゙、オォ──」
[『ノクトの森』のハイイロオオカミ アルファ 死骸]
良かった、その辺りは真っ当なやつだったらしい。
『汚濁』が溶け落ち、私の触手の中で元の姿に戻って動かなくなったオオカミ。
こんな泥モヤまみれのままよりも、触手に抱かれながらのほうがまだ幸せな死にざまだったろう。たぶん。




