森の奥へ
──もう五日もネネカさんに会えていない。
寂しすぎてカラッカラに萎びてしまいそう。このままじゃ月の触手から月の乾燥春雨にジョブチェンジだ。
ただまあ……会えない理由も一つ、予想はついている。
ヒグマと遭遇して以降、あいつ以外の侵度Ⅲモンスターも度々見かけるようになった。いわずもがな、森のごく浅いエリアでだ。それと同時に、ネネカさんも含めた『ナーナ』の町の人たち──猟師さんだとかその辺りもまったく見かけなくなった。
つまり、いよいよこの『ノクトの森』が立ち入り禁止になってしまったかもしれん。
なんてこったい。
『汚濁』の影響拡大は留まるところを知らず、そりゃ町の人たちだって、そういう選択をせざるを得なくなってしまったんだろう。いくら森が生きる糧になってると言ったって、さすがに人命優先というわけだ。
なのでたぶん、ネネカさんももう森に踏み入ることができない。
それがいつまでかは分からない。『汚濁』が幅を利かせている限りいつまでも、かもしれない。
なので私は決めた。
場当たり的な対処じゃない、この『汚濁』を根本から排除してやろうと。
だってネネカさんに会いたいんだもん!
問題を解決して、なんの憂いもなくネネカさんと夜のお散歩デートを楽しみたいんだもん!
『ナーナ』の町のみんな、不純な動機ですまん!!
……ぇあー、まあそういうわけで向かうは『ノクトの森』の中心部ですよ。
時間が経つにつれて、本来は奥深くにいるはずのモンスターたちが、まるで溢れ出るかのように森のあちこちに姿を現すようになっている。より深く汚染された状態で。
ってことはまあ、普通に考えれば森の最奥に『汚濁』の元凶みたいなものがあるんだろう。それをどうにかしてやろうって話だ。
あのヒグマ──侵度Ⅲの中でもかなり強いほうだったと、ここ数日で分かった──を倒せたということもあって、私は今けっこう調子に乗っている。これも『汚濁』根絶を決めた理由の一つだ。
正直、私はこういうとき勢いのままがーっといっちゃっても良いかなとか考えちゃう性分だし……なにより、ネネカさんに会えないフラストレーションを、その元凶である『汚濁』にぶつけてやらねば気がすまない。
それに明日は一日フリーだからね! がっつり夜更かししちゃうよー!
さあさあネネカさんとの蜜月の日々を取り戻すため、いざゆかん森の深部へ……!!
◆ ◆ ◆
──とまあね、意気揚々と飛び跳ねていったのは良かったんですよ。
例の泉よりもうんと奥側、今まで踏み入ったことのない領域。うろついてる侵蝕体はもう当たり前のように侵度Ⅲの連中ばかりで、しかもそれなりの頻度で遭遇する。
それでもやっぱりあのヒグマほどタフなやつはおらず、そもそもここ数日の侵度Ⅲ狩りでさらにステが上がってたのもあって、連戦も危なげなく突破。私つえー!! とか思いながらやつらの痕跡や気配を遡って進むこと数時間。そこまではね、良かったんです。
……たどり着いた最奥も最奥、おそらく森の中心部に位置するエリア。
腐り落ちたように木々の退けられたその場所に、それは鎮座していた。
下を見れば土すらも侵蝕され黒く濁っていて、上を見れば空気中にも汚濁がばらまかれているのか、ひらけているはずなのに薄暗く、届く月明かりも弱い。
そんないやーな空間の中心にあるのは、蕾にも繭にも見える『汚濁』の塊。あのヒグマがペアでゆったり過ごせるんじゃないかってくらいデカくて、中にナニカがいると知らしめるように時折脈打っている。シンプルになんかキショくて、明らかに元凶でしょこれという代物だ。
「──グルゥ゙ゥ゙ゥッ!」
でもって、それを守るように立ちはだかるオオカミの一群。
この場の異物である私へと、彼らはすでに牙を向いて威嚇してきている。
[『ノクトの森』のハイイロオオカミ 汚濁侵蝕体 侵度Ⅲ]
まずこれが四頭。
[『ノクトの森』のハイイロオオカミ アルファ 汚濁侵蝕体 侵度Ⅳ]
んで群れを束ねるボスが一頭。侵度Ⅳですって。
「ゥ゙ゥ……!」
一見静かなアルファも、その左右に侍るオオカミたちたちも、みな一様にイッちゃった目で私を睨みつけてくる。
大きさやシルエット自体は最初の日に戦ったあのはぐれオオカミとさほど変わらず、アルファ個体がそれよりひとまわり大きいってくらい。
だけども、名前から想起されるような灰色の毛並みなんてものは面影すらなく、『汚濁』を纏ったオオカミというか、もはや『汚濁』がオオカミの群れの形を取っている、といったほうがしっくり来る容貌だ。元のオオカミとして生きているのかすら怪しい。
あのはぐれはむしろ、こんな姿に成り果てずにすんで幸運だったのかもしれない。
なんて考えてしまった私が、あるいは気に食わなかったのだろうか。
「──ヴァウッ!!」
中央に佇むアルファがついに一声吠え、それを合図に、群れは一糸乱れぬ動きでこちらへと襲いかかってきた。
……いいだろうやってやらァ! 泥人形どもめっ、触手は対多数戦にも強いってことを理解らせてやんよ!




