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月の触手は健全に遊びたい 〜魂の姿がアバターに表れるVRゲーム──え、私の魂って触手の化け物なの?〜  作者: にゃー
第一章 月の触手

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触手

少しのあいだだけ毎日投稿、ストック切れたら不定期更新になります。

よろしくお願いします。触手百合は良いぞ。


 人はみな、魂の姿というのを持っているらしい。

 その人の本質、本性、欲望あるいは渇望、そういったものたちが凝固した、ある意味で本当の姿とも言えるもの。


 ……あいや、オカルトとかスピリチュアルなアレじゃなくってですね。ゲームの話。今日サービス開始で、今から私が始める『INTO:deep anima』──略してイデアなんて呼ばれてるVRゲーの設定といいますか。


 ゲーム開始前の馬鹿長くて妙ちきりんな個別アンケートの結果を元に、そのプレイヤーの魂の姿とやらが勝手に構成されアバターになるんだとか。

 キャラメイクなんて自由に好きなようにできて当たり前のこの時代になんとも挑戦的というか、一周回って前時代的な雰囲気さえ感じる。楽といえば楽かもしれないけど。キャラメイク細かすぎて面倒くさい敷居高い、でも自分好みのキャラで遊びたい……みたいなワガママさんにはありがたいのかもしれない。かくいう私もその一人なわけで。

 

 ともかく、そうして定まったアバターは実際にゲームを開始して仮想空間に入るまで確認することもできず、そして私は今まさに、そのゲームスタートのコマンドを選択したところ。


「おっと……」


 簡素な待機画面からわずかな暗転を挟んで、膨大な情報が詰め込まれたゲームの世界へと放り込まれる。声が漏れたのはその直前の一瞬だけ。


 ──直後に視界に映ったのは夜の森。

 

 不気味さはなく、むしろ、木々の隙間から降りる月の光が静謐さすら感じさせてくれる。植生的にそう寒い場所でも、逆に熱帯地という感じでもなさそう。ここが私のスタート地点かぁ。うん、ロケーション◎。


 けっこうお金かかってそうなゲームというわけで、当然グラフィックは美麗この上ないんだけども……さてそれよりなにより大事なのは私のアバターの姿ですよ。

 じつのところ始まった瞬間にもう、私にはある種の察しがついていた。人間じゃない。亜人とかその範疇も余裕で踏み越えてる、おそらく人型とは程遠い形状。人以外になる類のVRゲームをやったことがあったからこそ気付けた感覚だ。

 なんなら、視界の端に映る自分の体の末端とかから、具体的にどういう存在なのかまで予想がついてしまっているけれども……ともかくそれを確かめるために、私はちょうど近くにあった小さな泉のようなところへと向かっていった。


 地面をころころと、猫に弄ばれる毛玉のように……いや、荒野を流離うタンブルウィードのように転げて進む。これで視界が回転しないのは一体どういう仕組みなのか。この体の特性なのかゲーム的な配慮なのか……とか考えている少しのあいだに泉の前まで到着。

 水はよく澄んでおり、射す月明かりもいい塩梅。まさに「まずはここで自分の姿を確認してください」とでも言わんばかりだ。ご厚意に甘えてふちから体を伸ばし、水面を覗き込む。


 

 触手。

 

  

 うねうね〜と揺れている触手。

 全身がただそれのみで構成された塊。

 勝手に動き回るタイプの陸イソギンチャク。


 そういう存在に私はなっていた。

 どうやらこのゲーム、私の魂の姿は触手の化け物だと言いたいらしい。人によっちゃバチギレ案件だぞ。


 ……いやまあその、一応、触手の化け物のなかではまだマイルドな造形だとは思う。


 赤黒かったり毒々しかったり、なんか血管みたいなのが脈打ってたり……あるいはこうー、ナニとは言わないけど卑猥な形状をしていたりだとか、そういったグロテスクな要素は一切ないし。

 色味自体はすごく綺麗な銀一色。白っぽくも見える。あるいは薄青くも。ちょうど、泉の水面を照らす月明かりにそっくりだ。タコのような吸盤の類はおろか、ほんの少しの凹凸すらもない。淡く輝く銀の筋。流体のように揺蕩うさまはどこか水銀のよう。そういう意味では神秘的とすら言えるかもしれない。


 

 ………………け、けっこうイケてるじゃん。



 無数の触手を伸ばしてみたり揺らしてみたり、色々とポーズを取ってみたり。これがまたなんとも説明しがたい感覚なのだけども、リアルの体とはまるで異なるこのアバターも、迷うことなく操作することができる。それはやっぱりこのゲームの親切仕様なのか、それとも──


「ひっ、きゃあああっ……!!」


 ──内側に没入しかけていた思考が、女性の悲鳴に引き上げられた。

 

 聞こえ方からしてわりと近く、恐怖に引きつった声音。そもそもこの体はどこで視てどこで聞いているのか、なんて疑問は浮かんではすぐに消え、次の瞬間にはもう、私は半ば反射的に動いていた。

 プレイヤーかNPCか、そんなことはどうでもよくて、ただどうしてか、その声にひどく魂を引っ張られた気がしたから。


 急く心そのままに、先程と同じくタンブルウィード走法で悲鳴のしたほうへと向かう。

 

 ごろごろ……ごろごろ……

 ごろごろ……ごろごろ……


 ……ええぃまだるっこしいっ我ながらまるで緊迫感がない! 急く心とは!?

 

 くそぅこうなりゃ立体機動じゃ!蜘蛛男にできて触手女にできない道理はなァい!!

 触手、伸ばす! 枝、掴む! 跳ぶっ! 以下繰り返しっ!!

 触手の機動力が低いなんてのはなァッ、触手で高速機動する想定をしてないやつのセリフなんだよァッ!!!


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― 新着の感想 ―
触手で高速移動をする想定が日頃できてるやつは異常者だと思うんだよな!? 魂の形が触手なだけあって触手の取り扱いが上手い。さすが。
魂が触手ってクトゥルフ神話系の怪物由来だったりするのか?
さすが魂の形が触手だわ
感想一覧
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