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第4話 王国の崩壊(2)

 ストレーナーは悪態をついた。


「一体、なんだっていうんだ! ここは平和な世界なはずだろう!!

 安心で安全で、幸福に満ちた世界だろうが!!

 こんなの、聞いていないぞ!!

 どりぁあああああああああっ!!」


 肉体バカ。その言葉がとても合うほど、彼は目いっぱい力任せに敵をぎ払う。

 しかし、大業おおわざが多いがゆえに、小回りがくリザードマンにふところに飛び込まれると……。


「グバァッ!!」


 リザードマンがキバを向けて、ストレーナーの頭を粉々に食べようと襲いかかった。

 その時、兵士達に護られていたアルカディアは、そっと両手を組んで祈りをささげた。


「どうかお願い! ストレーナー先生を食べないで!

 お願いだから離れて!!」


 ぱぁあああっ!! と光が放たれると、リザードマンは吹き飛ばされて遠くに転がり落ちた。


「アルカディア様!!」


 ストレーナーは、アルカディアの前に立って彼女を守る体制を取った。


「……フッ。光の力か…。面白い」


 声が響いたあと、空間がゆがみ、一人の青年が現れた。

 腰までの漆黒のロングヘアに、冷たい光を放つ紅色ひいろの瞳。頭には2本のツナが生えている。

 足が長くスラリとした細身の体をした青年。

 歳はアルカディアと同じくらいであろうか。


「魔王様!!」「あの女……手強てごわいです!!」


 リザードマン達は魔王と呼んだ青年にけ寄ると、一斉いっせいに深々と頭を下げた。


「ふむ。確かに厄介やっかいだ」


 魔王と呼ばれた青年は、端正たんせいな顔を少しゆがめて微笑ほほえんだ。


「くそぉっ!! 父上が生きていれば!!」


 カーディナル国王は舌打ちをした。

 世界を救った大魔法使いの存在は、ついこの間、寿命じゅみょうを迎えて天にされてしまった。

 人々を闇の世界から救い出した唯一無二の存在は、もうこの世界にはいないのだ。


 彼が亡くなる前、カーディナル国王は、大魔法使いベネディクトから伝えられていた言葉があった。


『どうか、アルカディア姫をよろしく頼む。

 この先……。私がいなくなった後、再び魔物が来る時代があるかも知れぬ。

 しかし、希望を捨てなければ、必ず世界に光は戻るものじゃ。

 アルカディア王女を死なせてはならぬ。

 彼女こそが、この世界においての希望であり、平和の象徴であるのだから』


 それから、大魔法使いベネディクトは、このようにも言っていた。


『それから……王子についてじゃが……。

 彼もまた特別な存在になるだろう。

 開花は遅いかも知れぬが、彼もまた、この世界に光をもたらす存在となるだろう』


 国王は、その言葉を思い出すと、首を横に振って苛立いらだちをあらわにした。


(アドニスがやって来ても、なんの役に立つというのか! あいつは魔法一つ、ろくに覚えられない腰抜こしぬけであるというのに!!)


「アドニス! 帰って来て! お願い、アドニス!!

 あなたの姉である、アルカディアを助けてちょうだい!」


 王妃が声の限り叫ぶと、魔王はうるさそうに首を横に振り、王妃を吹っ飛ばすほどの衝撃波を撃った。


「ぎゃあああっ!!」


 血を流して苦しむ王妃を見て、魔王は姫に声をかけた。


「おい。アルカディア。貴様、母親は大切か?」


 アルカディアは震えながら、小さく頷いた。


「フッ。ならば、話は早い。こちらに来い!」


 魔王は衝撃波を兵隊達に撃ち放つと、陣形を吹き飛ばして、ゆっくりとした足取りでアルカディアに近づいた。


「ダメだ! 姫、行ってはいけない!」


 ベネディクト国王がアルカディア姫の前に立つと、魔王は衝撃波で国王の腕を吹き飛ばした。


「グギャアアアッ!!」


 ベネディクト国王はあまりの痛みに、のたうちまわった。

 アルカディアはこの惨劇さんげきに、涙をポロポロと流した。


「さあ。いい子だ。お姫様。

 お前は私と共に来るのだ。そうすれば、これ以上、死人しびとは出ないであろう」


「いや……! わ、わたしは……!!」


 ガクガクと震える王女。魔王は自分の指先を、そっと彼女のかみからめた。


「……光の存在か。それでも、恐怖をびれば、このようにれることもかなう」


「い……いや!! 助けて!!」


 泣いて逃げようとするアルカディア。


「さあ! 連れて行け!! 彼女を闇に閉じ込めるのだ!!」


 リザードマン達は魔王に敬礼をし、一斉に王女に飛び掛かる。

 その時、バンッ!! と扉が開き、アドニスが現れた。


「アドニス! アドニス、助けて!!」


 5匹のリザードマンにらわれて、アルカディアは泣き叫んでいた。


「姉さんに……さわるな!!」


 入ってきた少年を見て、アルカディアの涙が止まった。


「え……? ど、どういうこと?? あなたはだあれ?」


 その一言に、魔王は唖然あぜんとした。


「お前の弟ではないのか?」


「そんな子、知りません!!」


 アルカディアの代わりに、マティーニが叫んだ。

 アドニスは、信じられない一言に衝撃を受けた。

 まさか、自分の母親から、『そんな子、知らない』と言われるとは……。


「え…? な……なんで?? 僕は……」


「来ないで! けがらわしい!!

 私は、悪魔の子供なんて、産んだ覚えはありません!!」


「お母様!! 僕ですよ!! アドニスです!!」


「ウソをおっしゃい! そんな闇に染まったような容姿の子なんて、私の息子とは認めません!」


「お母様。……ここで、そんな事をいうなんて…。

 もし、この子がわたしの弟だったら、あまりにもひどすぎます!

 それに……今、ここで助けに来てくれた方に対して、あまりにも失礼ですわ!!」


「……姉さん……」


「アドニスなら、知っているわよね?

 わたしの大切なミニハープが、お城のどこにあるのか……」


 魔王は、2人のやりとりを半ば呆れて見ていたが、そろそろ限界だと、首を横に振った。


「そんなものはどうでもいい。

 とにかく、姫よ。貴様は私と共に来るのだ!!

 フフッ。特別に可愛かわいがってくれる!!」


 魔王がアルカディアの手首をつかむ。

 その様子を見たマティーニ王妃は、声を限りに叫んだ。


「18禁は反対です!! 娘の貞操ていそうは、彼女が許可した男性のみに受け渡す事を誓ってちょうだい!!」


「なっ!? 誰が18禁だと言った?!

 ……そ、そんな事は……。私は……まだ…(ゴニョゴニョと声が小さくなる)」


 ほんの一瞬、魔王にすきが見えた。

 アドニスは思い切って、一直線に魔王に向かってタックルをした。


「うっ!!」


 壁に激突して背中を打った魔王は、小さくうめいた。


「帰れ!! 帰ってくれ!!」


 アドニスは精一杯の声を張り上げた。


「姉さんを殺すなら、僕を!! 僕を殺せ!!

 姉さんは殺さないで!! お願い……だから!!」


 涙で顔をぐちゃぐちゃにさせながら、アドニスは魔王の胸ぐらをつかみながら懇願こんがんした。


「ぐすっ…うっく…! ずびっ。ひっく…!

 僕の……命は奪ってもいいから!!

 姉さんの命だけは、助けてよぉおおお!!」


 涙だけならまだしも、鼻水までらしている。

 リザードマンが、アドニスを背後から引き離した。


「離せよ!! 離せ!!」


 アドニスは手足をバタバタさせて、泣きわめいた。

 その時、アドニスの鼻水が飛び散って、リザードマンのよろいに、べちゃりとくっついた。


「うわっ!! バッチィ!!」「汚ねぇ!!」


 ギャーギャーと騒ぐリザードマンの軍団。

 ……どうやら彼らは綺麗好きらしい。よくわからないが。


「……まったく。本当に……なんてヤツだ。

 たいして強くもないくせに。この私にいどもうとするとは……」


 悲鳴をあげるリザードマン達に、わんわん泣きわめくアドニス王子。

 ……魔王はこの光景を見て、思わず吹き出してしまいそうになったが、無理矢理、笑いをこらえた。


「……フッ。まったく。おめでたいヤツだな。貴様は。

 ……わかった。今日のところは引き下がるとするか……」


 彼はゆっくりと立ち上がると、アドニスに背を向けて去ろうとした。

 ーーだが、次の瞬間、魔王の背後から地獄じごくの底から響き渡るような声がした。


『ダメだ! そのような事は許さない!!』


 それと同時に、魔王の足元の影がグニャリと大きく広がっていく。

 まるで人格が変わったかのように、魔王は恐ろしい形相になり、一気に衝撃波をち放った。

 ものすごい爆音ばくおん閃光せんこう。そして、耳をつんざくような城の人々の悲鳴がこだました。

 城の壁は粉々に吹き飛び、美しい花壇も庭園も、全て吹き飛び、城は形を無くし、それは城下町にさえも及び、すべてを無へと変貌へんぼうさせる巨大な魔法であった。


(もう……ダメだ…!! 僕は……また…!

 また、何もできずに……死んじゃうのかな……)


 死を覚悟した瞬間、アドニスの意識はなくなった。

※すみません。一部、あとから台詞を足しました。

付け足した台詞が、有るのと無いのとでは、物語の重みが変わるので。

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