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第3話 覚醒(2)

「ドウシテ」


 いきなり、コウモリがしゃべったので、アドニスは驚いた。


「うわっ!」


 アドニスは、音に敏感なコウモリが驚かないように、両手で口をおおかくした。

 このコウモリは普通のコウモリと大きさが変わらない。翼を広げても、両手ほどの大きさしかない小さな存在であった。

 コウモリはアドニスと同じ視線になるように飛びながら、瞳をじっと見つめて問いかけた。


「ワタシハ、暗黒ノ存在。やみコウモリ。オマエ達ヲ殺ス…」


 アドニスはそれを聞くと、うん。とゆっくり頷いた。


「さっき、暗黒の世界へと変えてやるって、魔王という存在が言っていたもんね」


「ダッタラ、ナゼ!? ワタシハ、オマエヲ!!」


「ねえ、お腹は満たされた?」


 急に話題を変えられて、闇コウモリは困惑した。


「ナニ…? イヤ、ソノ…。オイシカッタ」


 照れたように言う闇コウモリに、アドニスはにっこりと微笑ほほえんだ。


「それなら、よかった!!」


 闇コウモリはじっとアドニスを観察した。

 魔王にこの少年の事を伝えようか、どうしようか…。

 しかし、攻撃をされてもいないし、敵として見ることが出来ない存在を、脅威きょういの存在と呼べるだろうか?

『そんなヤツは放っておけ』

 多分、魔王はそう言うだろう。面倒ごとはコチラも起こしたくはない。

 闇コウモリはそこまで考えると、先ほどの問いの続きを、再びアドニスへ投げかけた。


「ナゼ、オマエハ、ワタシヲ殺ソウトシナイ?」


「どうして? うーん。なんでかなぁ?

 僕さ、その……好きなんだよね。生き物が!

 トカゲとか虫とか昆虫とか…。

 さっきの虫には悪い事をしちゃったかな……。

 虫さん。ごめんなさい。成仏してください」


 アドニスは細い石を拾うと、縦向きに立てて小さな墓石のように見立てた。


「ハイ??」


 まったく理解が出来ない。この少年は何者なのか。

 しかし、こんなにも自分のことや、小さな生き物を大切にしてくれる存在に出会ったのは初めてであった。


「オマエ……。死ヌゾ。ソンナ甘イ考エ方デハ……」


「僕のおじい様がさ。伝説の魔法使いって呼ばれた存在なんだけど…。

 おじい様、亡くなる前に言っていたんだ」


『この世界は不思議だ。自分が思うように世界は動いていく。思いが現実になる世界である』


「って。……もし、さ。おじい様が言ったように、世界が僕の思うように動いてくれるとしたら……。

 君だって、僕だって、大切な命を持っているから、それならさ。争わずに、一緒に過ごせたらいいなぁ。

 って。えへへっ。そんなふうに思ったんだ!」


 その瞬間、闇コウモリは胸を打たれた。

 この美しい瞳を持つ少年を、自分はまもりたい。

 敵であるのに闇コウモリは、確かにそのように思った。


「オマエ。ラ・フェスタ王国ヲ、知ッテイルカ?」


 闇コウモリに言われて、アドニスはにっこり微笑んだ。


「うん。僕のおうちだよ」


「ジャア! オ前ガ、ポンコツ王子!!」


「うるさいなぁ! そうだけど…。みんなから、ポンコツって言われているよ。どーせ…」


 やや不貞腐ふてくされて言うアドニスに、闇コウモリは微笑んだ。


「気ニイッタ! 仲間ニナル!」


「え? 僕の仲間に? わあ! ありがとう!!」


 嬉しそうに笑うアドニスに、闇コウモリはアドバイスをした。


「早ク王国ニ戻レ! 今スグ、逃ゲタ方ガイイ。

 オマエノ姉ガ狙ワレテイル!

 我ラガ魔王ハ、光ノ存在ヲ恐レテイル。

 オマエの姉は、光ソノモノノ存在ダ。

 コノママデハ、姉ハ、魔王ニ殺サレルダロウ!

 早ク、行コウ! 早ク!!」


「な、なんだって!? 姉さんが…魔王に狙われているだって!?」


「ソウダ!」


 しかし、アドニスは立ち止まってしまった。


「オマエ……。行カナイノカ?」


 不思議そうにアドニスを見る闇コウモリを見ながら、アドニスはとても不安そうな顔をした。


「怖イノカ?」


 問いかけに対して、アドニスは首を横に振ると、闇コウモリを真っ直ぐに見つめた。


「あの! お城が襲われるなら…!

 きっと、めちゃくちゃ大きな音も出てるよね?」


「ソウダナ」


「じゃあ行けないよ! 君はここにいて!」


「ナニ?」


「……だって……僕は……」


「何ダ、早ク言エ!!」


「僕は君の体が心配なんだ! 無理をしてほしくないんだ!!」


「!!」


「……僕、一人で行くよ。君が倒れるのは……イヤだから…」


 アドニスは震える手をぎゅっと握りしめた。

 一目で怖がっているのが分かるほど、アドニスの両足はガクガクと震えている。

 闇コウモリはその様子を見て、アドニスにこう話した。


「ワタシハ、闇コウモリ。普通ノコウモリトハ違ウ。

 音ノ防御モ、アル程度の攻撃ノ防御モデキル。

 ……タダ、フイヲ突カレルト弱イダケダ。

 初メカラ、防御シテイケバ、問題ナイ」


 アドニスの顔がキラキラと輝いた。


「わぁ! ホント?! 良かったぁ!」


「共ニ行クカ? 連レテ行ッテクレルカ?」


「うん! もちろんだよ! 一緒に行こう!」


「ワタシガ防御ヲスル! アトニ続ケ!」


 闇コウモリは防御魔法を唱えた。

 アドニスを誘導するように前を飛ぶと、アドニスはそれに続いて、ラ・フェスタ城へと急いで向かった。

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