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20_ルビの異能


 ルイとルビは、家庭教師の指導のもと、竜木の根元で竜の力をコントロールする鍛錬をした。


「四秒かけて息を吸って、四秒止めてください。それから、八秒かけて息を吐き出して」

「ふぅ……」


 木の根元で呼吸法を練習するふたりを見つめながら、イースも釣られるように息を止めたり吐いたりしていた。


 竜病は、とりわけ竜の血が濃く、力が強いものに現れやすいと言われており治すには、竜の力をコントロールできるようにならなくてはならない。

 ルイは竜病の皮膚症状が起こらず、力のコントロールもすぐにできるようになったらしい。


「竜の力は目に見えないエネルギーです。それが、体内を循環するイメージをしてください。力のコントロールにおいて、最も肝心なのは――イメージです」

「「はい」」


 ふたりの返事が重なる。

 一時間ほど瞑想をしてから、教師が合図を出した。


「そろそろ今日の瞑想は終わりにしましょうか。お二人とも、気分はいかがですか?」

「少し、身体が軽くなりました」


 ルイに続いて、ルビも答える。


「僕も、身体が楽になった気がします」

「それはとてもいい兆候だよ。ルビくんは、家でも瞑想や呼吸法を練習しているそうですね」

「はい。知人に教えていただいたことは毎日実践しています。それから、竜族やこの病気のことも……姉様が買ってくれた本で勉強していて」

「立派だね。では、竜の異能のことも多少は知っているかい?」

「はい、先生」


 ルビがこくんと頷くと、教師は改めて竜の力について説明した。

 竜族はごく稀に――異能と呼ばれる特別な力を行使することができる。特に、ルビのように竜病の症状が出るほど力が強い者は、発現率が高い。


「ルイ様、ルビに力を見せてあげなさい」

「分かりました」


 そう言ってルイは、片手を前にかざす。するとその直後、氷の塊が前方にものすごい勢いで伸びていった。

 広範囲の芝生をあっという間に凍りつかせた威力に、鍛錬を見守っていたイースは言葉を失う。ルビが小さな声で「すごい……」と呟く。


 教師は懐から小瓶を取り出し、ルビに声をかけた。


「君も自分の力を知りたいですか?」

「ぼ、僕にもあんなことができるんですか?」

「彼と同じ能力ではないかもしれませんが、何らかの素質はあると思います」


 少し悩んだあと、ルビは「知りたいです」と答えた。


「では、この小瓶の液体を飲んでください。これは普段君が飲んでいる竜木の葉より、強い効果がある樹液を薄めたものです」

「飲むとどうなるんですか?」

「竜の力を一時的に引き出せます」


 そこで、イースが思わず口を挟む。


「すみません、先生。飲んで体調が悪くなったりしませんか?」

「竜族が本来の力を取り戻すだけだから大丈夫です。もし何かあっても、私がついておりますので。それに、自分の力は知っていた方が良いでしょう。突然現れて驚き、暴走させた方もおられますから」


 特に、ルイのような危険な力の場合、暴走したときに他人を傷つけることもある。自分がどんな異能持ちか把握しておくのは、ルビのためになると理解した。


「そうですか……」

「ああ、それからこの液体は、あなたのような精霊族でも飲めますよ」


 竜木の樹液は、竜族以外の種族が竜族の番を探すときに役立つという。


 通常、異種族は番を感知する直感が弱い。しかし、この樹液を体内に取り込むことで、一時的に自分のエネルギーが竜族と共鳴するのだ。

 飲んだ状態で番に会えば、身体に変化が起きて感知できるという仕組みになっている。


「ですから竜木の樹液は、『運命探しの秘薬』と呼ばれて市場でも出回っております。君も試しに飲んでみますか?」

「い、いえ……私は結構です」


 異種族がたくさんの竜族の中から番を見つけるのは、砂の中からあるかも分からないダイヤモンドの粒を探すようなものだ。

 それに、サリアスの件があってから番がトラウマになっている。それもあって、運命の相手を探す気には到底なれなかった。


 ルビが樹液を少し飲む。だが、目に見える変化は起こらなかった。小首を傾げるルビに、ルイが助言した。


「瞑想のときと同じように、イメージしてみろ。力を身体の外に出す感じだ」

「イメージ……」


 目を伏せ、意識を集中させたそのとき、ルビの足元で枯れていた一輪の花が、鮮やかな緑を取り戻し、再び花を咲かせた。その変化に、ルイと教師が驚愕する。


「先生、これって……」

「治癒能力です。竜族の中でも大変貴重な力ですよ……!」

「やったな、ルビ! お前、相当すげーぞ」


 ふたりが賞賛を口にしたとき、ルビがよろめいた。イースが慌てて身体を支えると、その拍子にルビの手に握られていた瓶が振り上げられ、残りの樹液がイースの目にかかった。

 けれどイースは、構わずルビに声をかける。


「ルビ! 大丈夫!?」

「だい……じょうぶ。たぶん、初めて力を使って身体がびっくりしたんだと思う。それより姉様、樹液が――」

「平気よ」


 ルビはイースに支えられながら、教師に尋ねた。


「この力があれば、姉様の役に立ちますか?」

「ああ、もちろんだとも。治癒能力はどこに行っても重宝されます。お姉さんだけでなく、病気や怪我で困っている大勢の人々の役に立ちますよ」


  それを聞いたルビは今までに見たことがないくらい、嬉しそうな顔をしていた。感無量なのはルビだけでなく、イースも同じで。


「よかったね、ルビ」


 そう微笑みながら、イースは未来に希望を抱いた。この異能があれば、イースがいなくなっても食べていくことができるかもしれない。

 イースの笑顔に寂しさが乗ったのを、ルビは静かに見つめ返した。


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