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19 ルビとルイの初対面

 

 それから、イースとルビの、王宮での生活が始まった。

 王宮には騎士や使用人のための部屋が数百室もある。建物の中はとても清潔な上、食事も三食作ってくれるので、家事の負担が軽くなり快適な暮らしになった。


(あの安アパートでの生活も、楽しかったけど)


 早朝、目覚めたイースはカーテンを開けて、王宮の庭園の見事な景色を眺めた。

 相変わらず、隅々まで手入れが行き届いていて、色調豊かで、ひとつの芸術品を見ているような気分だった。


「けほっ、けほ。……こほっ」


 そのとき、イースは咳き込む。口を抑えた手には血が付着していた。


 このごろ、血を吐く頻度が上がっている。番から離れている時間が長くなっているせいだと分かっているが、ルビを『処分するつもり』と言ったサリアスの元に戻るわけにはいかない。


「姉様? その咳、風邪? 大丈夫?」


 イースの咳き込む音で目覚めたルビが、寝台から立ち上がって、こちらに歩み寄ってくる。イースは血で汚れた手を咄嗟に背中に隠し、作り笑顔を浮かべた。


「ちょっと喉が乾燥したみたい」

「最近よく、咳してるでしょ。ほんとに大丈夫?」

「大丈夫よ。心配しないで。ほら、ご飯にしよう」


 不安そうにこちらを見つめてくるルビを促し、テーブルに座らせた。


 ルビのためにも死にたくないが、もし自分が助からないなら、自分の死んだあとのことも考えなくては。

 誰か、ルビを任せられる人はいないかと考えたとき、浮かんだのはヴィルの顔だった。


「「いただきます」」


 ふたりはテーブルに向き合って、朝食を食べ始めた。イースの手作り料理と違って、王宮の食事はちゃんとおいしい。

 イースは柔らかな白パンをちぎりながら言う。


「今日はルイ様にお会いする日だけど、大丈夫そう? 体調が悪かったり、ちょっとでも嫌だったら無理しなくていいからね」


 先日ルイに、ルビが竜病を克服するために瞑想と呼吸法を練習していると話したら、一緒にやればいいと提案してもらった。


 人と関わることが少なかったルビに、同じ年代の子どもと交流させてあげたい気持ちはある。けれど、過去に他人にルビが傷つけられてきたのも知っているから、安易には勧められない。ルイは優しいが、ふたりが仲良くなれるとも限らない。


「行くよ。姉様が仕えてる方に、ご挨拶したいと思ってたんだ」

「そう?」

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ちゃんと挨拶できるよ」


 心配しているのは、ルビがルイに不敬を働くかどうかではなく、ルビが辛い思いをしないかだった。


「その心配はしてないわ。だってルビは私の――自慢の弟だもの」


 ルビを見つめ、愛おしげに目を細めた。そしてすぐに、イースの不安は杞憂だったと分かる。



 ◇◇◇



 ルビの皮膚の症状は、少しずつ改善してきているが、まだまだ目立つ。

 だから、イースはルビに黒いローブを着せ、肌を隠してできるだけ人目につかないようにして、ルイの部屋に連れて行った。


 いつものようにノックをして中に入ると、ルイが出迎えてくれた。


「――来たか」

「おはようございます、ルイ様。弟のルビを連れてきました」


 深くフードを被ったルビを見て、ルイは静かにこう言った。


「俺の前では隠す必要ない。だが、見せたくないならそのままでいい。あんたの気持ちが楽な姿でいろ」


 皮膚の症状はほとんど出なかったらしいが、ルイも竜病経験者で、理解がある。

 すると、少しの沈黙のあと、ルビはゆっくりと自分のフードに手をかけ、脱いだ。そして、ぎこちなく微笑む。


「お気遣いいただきありがとうございます。イースの弟、ルビです。姉がいつもお世話になっています」


 そう行儀よく挨拶したルビは、お辞儀する。ルイは、「そうかしこまらなくていい」と言って、ルビに近づいていく。向かい合うふたりはぴったり同じ背丈で、双子みたいだ。


 ルイは緊張した面持ちのルビを見据えながら、淡々とした口調で続けた。


「綺麗な鱗だな」

「綺麗……ですか? これが……?」


 イースがずっと思っていても言えなかった賛辞を、ルイは迷いなく口にし、ルビが戸惑う。


「恥じるものじゃない。誇り高き竜族の証だ」

「…………はい」


 ルビは心底嬉しそうに、ルイの言葉を噛み締めていた。


「俺はルイ。これからよろしく」


 握手を求めるルイに、ルビは応える。交わされた小さなふたつの手を見て、イースは胸が熱くなるのを感じた。


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