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第五話 潜入、王都


 王都アークライド――王国最大の都市にして、腐敗の中心。


 石畳の大通りには笑顔の商人と華やかな貴族が並び、街角のパン屋には朝から行列ができていた。

 だがその裏で、路地裏では浮浪児が死に、騎士団は貴族の犬と化し、そして“影”は誰かの喉元に刃を当てていた。


 そんな街の片隅に、フードを目深に被った“死んだはずの男”が降り立つ。


「……変わってねぇな、この腐った匂い」


 レイ・ヴィオルは再び、王都に帰ってきた。



 身分証を偽り、傭兵団の連絡網を使って潜り込んだ王都。

 レイはかつての仲間が今どうなっているか、そして「黒槍作戦」と呼ばれた陰謀の真相を探り始めていた。


 最初の標的は、元小隊長――デラン・カストロ。


 レイが“裏切り者”として告発された時、最も強く糾弾した男。

 同じ隊で酒を酌み交わしたことすらあったが、掌を返すようにレイを処刑台に送った張本人だ。


「……あいつは、今じゃ警備隊長様か。皮肉なもんだ」


 街の中心、衛兵詰所の一角。

 その執務室で、デランは派手な制服に身を包み、女給に肩を揉ませながら安酒をあおっていた。


「まったく、王都の治安は最悪だってのに、俺がやらなきゃ誰がやるってんだよ。なぁ?」


「はい、隊長……お強いです……」


 女の愛想笑いに満足げに頷きながら、デランは手元の報告書に目を通す。


「“黒の森で不穏な動き”。チッ、またレイの亡霊でも出たか? くたばったってのに、しつけぇ奴だ……」


 その瞬間、彼の背後の窓が“音もなく”開いた。


 冷たい風が室内に流れ込み、デランが不快げに振り向く。


「ん? 窓……?」


 そして――次の瞬間、後頭部に鈍い衝撃。


「が……っ!」


 頭を押さえ、倒れ込むデラン。その前に、フードの男が静かに立っていた。


「……死んだはずの男が、帰ってきたぜ」


「レ……レイ!? てめぇ……生きて……!?」


「おかげさまでな。お前のおかげで、色々と学んだよ。“正義”ってのは、声のデカい奴が勝ち取るもんだってな」


「ま、待て! あのときは命令だったんだ! 上からの圧力があって、仕方な――」


 レイは静かに拳を振り上げ、次の瞬間にはデランの顔面を机に叩きつけていた。


 鼻骨が砕け、机に血が飛び散る。


「俺が今“命令”を無視したら、あんたは許してくれるのか?」


「く、くそっ……お前なんかが、何ができる……!」


 デランは叫びながら、腰の剣を引き抜こうとする――が、次の瞬間、レイの足が椅子ごと彼の腹部を蹴り飛ばしていた。


 床に転がった彼の首元に、冷たい刃が突きつけられる。


「“黒槍作戦”。お前も噛んでたな? 話せ。……でなきゃ、今ここで喉を裂く」


「し、知らねぇ……ただ、ただ俺は命令に従っただけで――! た、高官の命令だ! 文書を見ただけで、それ以上はっ……!」


「文書? それは誰の手で届いた?」


「……エルン……エルン・ハルトの名が……!」


 レイの目が細まる。


 エルン・ハルト――現在の王国宰相、王に最も近い男。そして、“作戦”の首謀者。


「上等だ。次はそいつに会いに行くとしよう」


「お、おい、俺はもう……もう何も言わねぇ、だから助けてくれっ!」


 レイは無言で、彼の頭を打って気絶させた。


 殺しはしない――まだ利用価値がある。



 その夜、レイは古びた教会の地下室に身を潜めていた。

 そこはかつて彼が所属していた騎士団の訓練場の一部。今は使われておらず、誰も寄り付かない。


「“エルン・ハルト”。やっぱり、お前か……」


 文書と、デランの証言が一致した。だがそれだけでは足りない。

 奴を潰すには、確固たる証拠と、逃げられない舞台が必要だ。


「なら……踊らせてもらうぜ、“宰相様”」


 その瞳に灯る光は、かつての優しさを捨てた――復讐者のものだった。


 王都の夜が静かに、更に黒く沈んでいく。


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