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カリネ  作者: あしゅけーね
虚飾
9/17

記憶の軌跡


「着いたぞ」


「やっと?お尻痛いんだけど」


 確かに尻と腰が痛い。ちょくちょく休憩挟んだとはいえ丸一日乗りっぱなしではな。境界域よりマシとはいえ道路の整備状況もあまり良くなくてガタガタだし。


「さすが、お父さんが作っただけはあるわね」


 今現在俺たちは東京、世田谷区の端にある元々住んでいた家───ヒーローソルニティこと葛原直人の家の前にいる。聖奈のお父さんである裕司さんが作った新素材が試験的に使われていたらしく、十余年経った今でも大きな劣化は見られない。

 他の家が怪人域出現のときの混乱で壊される中、この家だけは無事で残っているようだった。


「人の気配は……ねえな」


「じゃあ今日はベッドで寝れるわね。昨日みたいに浴槽の中で寝るのはいや」


 我儘言わなきゃ昨日もベッドで寝れたろうがよ。

 裕司さんから貰った鍵を差し込み捻る。カチリ、という音を立てて鍵が開いた。家の中は真っ暗で、廊下の先すら見えない。


「電気は…点かないのね」


 まあ電線も何もぶっ壊れてたし。怪人域内部がそれなりに復興しているとはいえ人も資材も足りないだろうから再建できるのは限りがあるだろう。だからここいら一帯は打ち捨てられたのだ。


「あ」


 声の反響を聞く限り人はいない。一応目視でも各部屋を確認したが人が入り込んでいることはなかった。まあ今の家屋にも使われているガラスや衝撃吸収材の試作品が使われているのだから侵入は困難だろう。


「よし、今日はゆっくり寝れそうだな。ここまで一切侵入されてなかったことを考えるとここは安全と言えるだろう」


 幽霊みたいに壁をすり抜けられる異能やあるいは単純にテレポートできる異能を持つ怪人であれば入ってこれるだろうが、家の中には荒らされた形跡がなかった。すなわち、そういった異能を持つ怪人はこの付近にはいない。今はいないってだけで今後現れないわけではないが少なくともこれまでよりは警戒のレベルを落としてもいい。


「やった!ふかふかのベッドで寝れる!!」


 いや、寝具は傷んでるんじゃねえかな。十数年放置されてたわけだし。


「ダメだった。さすがに十三年も放置されてたらボロボロ」


「だろうな。まあ毛布があったしそれで我慢してくれ」


 多分父さんか母さんが使ってたやつ。トドカヌヒビ討伐作戦で急に引っ越すことになったから置いて行ったのがまだ残っている。


「ま、安心してゆっくり寝れるだけでも違うだろ。変身しっぱなしでキツかったろうし今日はゆっくり休め」


 ネガティブオーラとポジティブオーラは気を失ったり眠っている人間には効果がない。まあ人間の感情に作用するのだから感情が発生しない気絶中とかは何も起こらないってのはわかる。

 怪人域の正体もトドカヌヒビのネガティブオーラなので眠った状態であれば影響はない。ただ一度怪人域に呑まれて怪人化すると何故か睡眠の必要がなくなる……というか睡眠が取れなくなるし気絶も出来ないので無力化するには殺すしかないのだ。

 ベルトの力もあるとはいえ聖奈はヒーローに変身できる。ヒーローに変身できる者はネガティブオーラに耐性があるはずだから眠るくらいの時間なら問題ないだろう。


「おやすみ」


 ああ、おやすみ。


 *


 締め切ったカーテンの隙間から射し込む光が朝を告げる。いつの間にか熟睡していたらしい。万が一に備えて浅く眠るはずだったのだが……生家ということで予想以上に安心してしまったのかもしれない。それに最近今の家にも帰ってなかったしな。

 腕時計によれば時刻は七時半。聖奈はまだ寝ている。ま、急ぐわけでもない。ゆっくり寝かせてやるべきか。


「よいしょっと」


 昨日までと比べてだいぶ楽になった体を起こし書斎へ向かう。結構体にガタが来ていたんだな。


「どれだっけ」


 裕司さんから預かった鍵の束。その中から書斎の鍵を取り出す。

 重い音を立てながらゆっくりと扉を開く。古びた紙の匂い。ざっと背表紙を見ればどれもこれも怪人に関する本。トドカヌヒビ討伐作戦直前の本もあればかなり古いものまである。きっとお嬢様とやらをそれだけ戻したかったのだろう。まあ当の本人に殺されてるんだが。


「日記、最新の日付は……微妙だな。知ってる情報しかねえ」


 トドカヌヒビはヒーローに勝てないとか、ヒーローに負けるたびにネガティブオーラが強力になるとかそんなことしか書いてねえ。そんなのヒーロー連合が公開している怪人図鑑に載っている。


「探るならもっと前……トドカヌヒビが怪人化した頃だ」


 一年、二年と遡る。そして見つけたのは最新の日付から十年も前の日記だった。

 そこに書かれていたのはある一人の少女が怪人になるまで。なんでもできた万能の少女が、それでも心に抗えず堕ちる様。その決定打は彼だった。何気なく隠していた正体が割れたとき、少女の受けた衝撃は計り知れず、落ちた卵が割れるように殻が砕けたという。

 正直自意識過剰だろ、高々知人が今まで助けてくれたヒーローだっただけで堕ちるかよ、って思うが本人に会ったことがないのでなんとも言えない。


「………マネクアクイ?」


 トドカヌヒビが怪人になる直前、姿を現した怪人。トドカヌヒビが怪人化したあとも度々姿を現していたようで……。


「こっちも、こっちにも」


 ざっと流し読みしていただけだから見逃していたが、この十年間度々マネクアクイの名前が上がっている。こいつ父さんのこと好きすぎか。

 いやまて、日記の描写を見るにこの怪人は倒されてはいない。そしてソルニティはヒーロー連合所属のヒーローだった。そんなヒーローの前に数回現れているのだから名前持ちのはず。というかマネクアクイという名前自体が父さんが勝手に呼んでいただけじゃなくヒーロー連合によって名付けられた可能性が高い。


「聞いたことねえ」


 怪人図鑑にも載っていなかった。まるで誰かがその痕跡を消したように。ああ、そういえば日記にはテレポート出来るって書いてあったな。それなら警備が厳重なヒーロー連合に忍び込む事が出来ても不思議じゃない。


「っ…!」


 人の気配。ゆっくりとこの部屋に近付いてくる。ひたひたとわざとらしく足音を立てながら。


「誰だ!!」


「えっ、な、何!?」


 聖奈だった。いやまあ普通に考えたらそうだよな。テレポートできるならわざわざ足音立てて気付かせる必要ないもんな。

マネクアクイさんはネガティブオーラ内でのテレポート出来ないから今必死に東京に向かって走ってるところ。

出会ってすぐに出発するとは思わなかったからゆっくり歩いていたところに主人公のバイクの音が聞こえてきたもんだから大慌て。

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