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カリネ  作者: あしゅけーね
憂鬱
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彗星の咆哮


「メテオ───」


 スターレインが振り上げた足を勢いよく下ろす。変身解除は効かなかったのか、それを切り札としていたらしい炎の怪人の肩を撃ち抜く。


「───フレーズ!!!」


 こちらから意識が逸れたからか、それとも攻撃を受けたからかは分からないが、心に纏わりつくような羨望の恋慕は消え去った。


「『雷鳴(ライメイ)』」


 再び怪人と化した咆哮が炎の怪人を痺れさせる。趨勢は決した。俺たちの勝ちで文句はないだろう。


「ふっ、ふふっ。油断…油断ですか。あの日からそれだけはしないと思っていたのですがね」


 痺れているはずの体で、万力を込めて押さえつけているはずのスターレインを押し退けて、炎の怪人は立ち上がる。


「では、今度はこちらからも……参ります」


 一歩、踏み出したかと思えば一瞬でスターレインの背後に回り、投げ飛ばす。見えていなかったのか、受け身すら取れずに転がって行くスターレイン。ヒーローも怪人も頑丈なのでこの程度で後遺症の残るような怪我をしたりすることはないが、結構痛いだろうなあれ。


「考え事ですか?」


 一切目を離していないのに、気付いたら懐に入られていた。警戒していたのに、その一挙手一投足があまりにも自然で美しすぎて、一瞬だけそれを受け容れるのが当然だと思ってしまった。それだけ美しい動作。風に流れる花びらのような、見えているのに掴めない動き。


「ぐっ!」


 喧嘩殺法()とは違う、明らかに鍛錬を積み、精練された動き。十数年育ててもらっといて何だが、そんな素振りを見せたことは一切なかった。


「なっ、めんなァ!!」


 強撃に痺れる腕を放置し、蹴りを入れる。


「甘いですよ」


「予想済みだ!!」


 結構いい蹴りだったはずだがあっさりと防がれる。いや、なんで殴りで伸ばしきった腕で蹴り防げんだよおかしいだろ。

 防がれること自体は想定していたため、次の動きに移るのはスムーズだ。


「やれ、聖奈!!」


「なっ、もう!?」


 俺の掛け声に思わずといった風に振り向く炎の怪人。その視線の先には変身を解除し倒れ伏す聖奈の姿が。

 困惑を浮かべる炎の怪人にすかさず拳を叩き込む。片足を上げて踏ん張りが利かない姿勢から繰り出される拳は、一撃で気絶させる威力こそないもののかなり綺麗に入った。炎の怪人が思わず蹌踉めいてしまう程には。


「振り向いちまうよなぁ。アイツがどんな武器持ってんのか知らねえだろうし」


 俺も知らねえけど。でも聖奈がスターレインに変身出来るの知らなかったようだし。


「今度こそやれ、聖奈!!」


「もう引っ掛かりませんよ」


 チッ、だろうな。まあ、それが狙いでもあるが。


「寝てろや!!『(ライ)───」


「効きません」


 すっと、こちらに指される人差し指。間に合うか……?


「───(メイ)』!!!」「羨め」


 間に合った。

 轟音が大きく響き渡ると同時に変身が解除され、炎の怪人の一撃が腹に打ち込まれる。


「決着ですね。やはり貴方達を向かわせることはできない」


 決着、そうだ決着だ。だがそれは俺たちの敗北ではない。そう確信できるだけの信頼が何故かある。


「がっ、げぶっ……はぁ、はぁ……やれ………スターレイン」


「またですか。無意味な───」


「コメット───」


 ブラフを使った。看破されていても用いた。あえて彼女の無様を晒させるその罠が、白い彗星として飛来する。


「───フレーズ!!!!」


 炎の怪人の頭が、真っ赤に燃え上がる。いや元々燃えているが、それ以上の炎を揺らめかせ、吹き飛んでいく。

 二回、三回とバウンドして転がり、ようやく落ち着いた頃には変身は解け、見慣れたメイド服の初老の女性がぐったりと倒れ伏す。


「ちゃんと学んでんじゃねえか」


 そもそも、スターレインは気絶などしていなかったのだ。炎の怪人が起き上がった時には足の炎は一つ残っていたはずだから、気絶したとしてもすぐに復活できる。そこをあえて変身解除することで気絶したふりをし、俺がブラフとして呼び掛けることで炎の怪人に聖奈が気絶していると誤認させた。その後『雷鳴(ライメイ)』の爆音で変身音を誤魔化し、先程見せたような跳躍力で一瞬で距離を詰めて一撃当てた。これが先の奇襲の全てだ。


「あんた大丈夫なの?生身で殴られてたけど」


「手加減されてたみたいだ。そっちこそ大丈夫そうには見えないが」


 慣れないうちは一日に二度ですらキツい変身を三度行ったのだ。聖奈は見るからに疲弊していた。


「私は大丈夫。それよりも───」


「そうだ真木さん!」


 恐らくスターレインが何も考えずに全力で蹴り飛ばしたであろう彼女の安否を確認する。


「死んでは、いないみたいだね。怪人状態だったからか目立った外傷もなし。内臓や脳は詳しく調べないとなんとも言えないけど、軽く見た感じでは問題なさそうだ」


「あんたも、戦うか?」


 目の前の男───加藤裕司はふるふると首を振った。


「いいや、僕は戦えないからね。止めておくよ。それより彼女を運んでくれ。話の続きをしよう」

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