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カリネ  作者: あしゅけーね
憂鬱
3/17

無自覚アイディール


 噴き出る炎を掻い潜り肉薄する。今の真木さんとは明らかに違う若々しい女性のボディラインを描いて燃える炎は触れたら火傷では済まさない、と言わんばかりに天地を焦がす。


「関係ねえ!!!」


 ぶん殴れんなら関係ねえ。殴れるならいつか倒れんだから。

 拳が突き刺さる。毛皮が燃える。されどダメージは与えられた。


「あっついんだよ!!」


 炎の体はこちらが殴り付ける度にこの身を焼き、こちらにダメージを与えてくる。多分こっちの拳の方が向こうの炎によるカウンターよりは威力は高いだろうが、炎の体は怪人としての身体機能。まだ異能の方を見せてはいない。


「強い、のですね。私が知らない間にこんなに成長して」


「そっちこそ。結構手応えはあったんだがな」


 イイのが数発入ったはずなんだが、なんで何もなかったかのように振る舞えるんだ。おかしいだろうが。


「……あなたはソルニティのソルフレアを食らったことがありますか?私以上に熱くて、眩くて、それでいて優しく手を引く光でした。あなたはムーンジャンパーの月下大砲を受けたことがありますか?ソルニティとは違って、冷たく、暗く、それでも前に手を伸ばし続ける、強く背を押す光でした」


「何が言いてぇ」


「あなたはご両親に比べて弱い、ってことですよ。それも私が戦った、成長途中のお二方よりもね」


 当然だ。最強のヒーローであった二人よりも強いわけがねえ。


「そんなお二人が成し得なかったトドカヌヒビの討伐。あなたに成し得ますか」


 チラリ、と穴の空いた壁からこちらを見ている聖奈を見る。


「当然だ。あいつが出来るって言ったんだから俺はそれに賭ける」


 信じる訳では無い。けれど疑うわけでもない。俺だけじゃトドカヌヒビには勝てないのはわかっている。だからこそ、出来ないことを出来る可能性が僅かでもあるのなら、俺はそれを躊躇う気はない。


「そうですか。ですが───」


 ───あなたには光がない。


 その言葉とともに伸ばされた指先が俺を指し示す。そして───


「は?」


 俺の体は元の人の体に戻り、胸の内には誰に向けるでもない羨望が渦巻いていた。いや、頭の中に見ず知らずの少女が浮かぶ。恐らく10歳前後であろう背丈に、それでいて誰も彼もを虜にするような凛々しさと可愛らしさが同居する顔立ち。きっと彼女がお嬢様なのだろう。だとすればこの感情は真木さんのもので───


 ───キツすぎるなこれ。


 *


 side─加藤聖奈


「聖奈」


 お父さんが呼んでいる。まだ何も言われていないけど、何が聞きたいのかは分かる。


「行くよ。私たちは行く」


「今日、出会ったばかり……でもないか。小さい頃……葛原君たちが生きていた頃に何回かあってるね。いやぁ、あの時は……」


「覚えてない」


 ソルニティやお母さんが生きていた頃と言われると十三年以上前、私は四歳以下だ。その頃の記憶なんて薄ぼんやりとしか覚えていないし、覚えている中の同年代の子はどれも彼と合致しない。


「……なら初対面と同じだ。初めて会ったばかりの子になぜ頼ろうとするんだ」


「分からない。でも、彼は私と一緒だと思うから」


 少なくとも、お父さんとは違う。お母さんを殺した相手を助けたいなんていうお父さんとは。


「コード01」


 手にした『星空の留め金(スターリーバックル)』を腰に当てる。


星輝(starly)降誕(birth)


 炎が包み込む。一瞬の浮遊感と多幸感。それに伴う高揚感。一度高く昇って、その身を焼きながら落ちる私は流星。


「変身。スターレイン」


 灼熱が包み込む。体に降り注ぐように現れる岩は、私の足を、腕を、顔をすり抜け包み込み、赤く白く燃えていく。


「その変身も未完成なんだろう?僕が作った訳じゃないから分からないが、出力的になにかを削っている」


「ヒーローとして戦えるならそれでいいの」


 例えいずれ燃え尽きるのだとしても、一瞬、たった一瞬だけでも何よりも輝ければいい。トドカヌヒビを殺すという、最高の輝きを。


「───あなたには光がない」


 一歩、外に踏み出せば既に趨勢は決まったようなものだった。いや、彼の目には困惑が浮かべど諦めの色はないからまだかな。

 まぁ、私が来たのだから負けることはないが。……これが三回目の怪人戦だけど。一戦目は余裕で勝って二戦目でアイツにボコボコにされたけど。


「聖奈お嬢様……ですか?」


「そうだよ。でも今の名前はスターレイン」


「流星群ならメテオシャワーでは」


 ホント、親子なんだね。いや、万人がつい言ってしまいたくなるのかもしれないだけだけど。


「聖奈、邪魔すんな」


「いいや、する。私も行くんだから」


 置いていくなどとは言わせないし、言う気もなかっただろう。その証拠にこちらに割いていた意識を完全に炎の怪人に移す。


「そうだな。二人でやるんだ。ぶっつけ本番もいいが練習はしとくべきだな。頼むぜ、相棒」


 出会って半日も経ってないのに相棒呼ばわりは距離感がおかしいだろうがこの男は。まぁ、それは───


「任された、相棒」


 それは私もそうらしい。

 出会って半日でこれとか我ながらチョロい。けれど、こいつとは大冒険を繰り広げた仲間のような感覚もあるのだから。


「コード03」


星輝(starly)噴炎(burst)


 右足の炎が赤く燃え上がる。そのまま地面を蹴り上げ、大きく足を振りかぶる。


「メテオ───」


 隙が大きく、本当に止めでしか使えないが高威力な必殺技。当たればただではすまないだろう。それを分かっているであろうに、炎の怪人は避けようともしない。


「羨め」


 ただ指を指し一言。されどこちらに一切の変化がないため、伸ばした足を振り下ろす。


「───フレーズ!!!」


 爆蹴一閃。炎の孤を描きながら振り下ろされた足は炎の怪人の肩をうち、そのまま地面へと叩きつけた。

炎の怪人の異能は”羨望の共有“であり相手が現在抱いている感情を別の物にすることで変身を解除させる

スターレインはその変身の都合上スターリーバックルによって無理やり高揚の感情を抱かせているので羨望を共有したところですぐに高揚に押し流されるため変身は解除されない

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