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カリネ  作者: あしゅけーね
傲慢
16/17

勝利の逃走


 第三の怪人域。まあサブプランは用意してあるだろうから第二のトドカヌヒビがあるのは想定内として聖奈が第三の怪人域と呼ばれる程の怪人になれるのか。


「あらぁ、まだ元気ねぇ。その怪我じゃ立つのも精一杯でしょうにぃ睨んじゃって」


「………」


 何も言えねえ。反論が出来ねえとかじゃなく立ってるだけでやっとのこの状況で口を開くことすら難しい。少し気が緩めばすぐに倒れてしまう。


「ふふっ、じゃあね、さようならぁ」


 ゆっくりと歩いてくる。伸ばされるその手をただ睨みつけることが精一杯で───


「今度は、間に合いましたよ」


 伸ばされた怪人の手がただの人のそれに戻る。こんな事ができるのは、そしてこの声は───


「真木さん!?」


 揺らめく炎を纏う怪人がそこに立っていた。


「久しぶりですね蛍。ずっと探していたんですよ」


「久しぶりだねー真木さん。いつ以来だっけー。お嬢様が怪人になって以来?」


 ここだ。踏ん張れ俺。ここが気合いの入れどころだ。気合い入れてもっかい変身しろ。じゃなきゃ逃げることすらできねえ。


「ヘーまだ変身できたんだ。でもふらふらじゃん。変身しなくても勝てるよー」


「させると思いますか?」


 燃え盛る炎が、俺とマネクアクイの間に立ち塞がる。複数相手ならともかく一対一の戦いであれば変身解除は強力で、真木さん本来の戦闘能力も高い。俺達が勝てたのは数の利があったうえに不意打ちが決まったからであって、それぞれが個々に戦えば負けていただろう。


「坊っちゃんは二人を連れて逃げてください。麓に車がありますから」


「真木さんは?」


「ここで22年分の恨みをぶつけます。すぐ追い付くので先に行ってください」


 怪人の膂力とはいえ怪我を庇いながら気を失った人を二人も運ぶのはキツい。


「行かせると思う?」


「通すとお思いで?」


「すーぐに仲間が駆けつけるよ」


 そうだよな。他者を信用しないとはいえ、要であるトドカヌヒビを守り通すのに手数は多いほうがいいのだから仲間を呼んでねえ理由がねえ。


「ハッタリです。貴女は他者も転移させられるでしょう。でも誰も連れてこなかったということはそれだけ慌てていたということ。そして今連絡するような素振りもないし、そんな隙は与えない。とはいえ異変は察知されているでしょうから急いでください坊っちゃん」


 急げって言われても腹の傷庇った上で二人抱えてたらこの速度が限界なんだけど。


 *


 なんとか麓まで逃げ切れた。時折上の方で巻き上がる炎を見るに真木さんはまだ戦っているのだろう。もうすぐバイクを停めたところだ。恐らく車もここに停めてあるだろう。斜面を突っ切って降りてきたから正確な位置は分からないが、二時間の道のりを十分まで短縮出来たのだから火事場の馬鹿力というのは凄まじい。だがここまでだ。


「クソッ」


 血は止まっている。止まっているが流れた量が多すぎた。怪人として生身では考えられない身体能力に頑丈さがあっても、限界は来るらしい。ここで倒れたら俺と、トドカヌヒビはどうでもいいとして聖奈までやられてしまう。それだけは、避けねえと。


「………」


 目が霞む。倒れてもいねえのに天地がひっくり返る。足が一歩も動かねえ。寒いのか暑いのかさえ判別が……


「っ…!」


 朧に映ったのは白い人影。白衣って感じではないし恐らくヒーロー。考えられるのは一つ、あの子供だ。夕暮れに出会ったあの子供。恐らく、マネクアクイ側のヒーロー。


「ねぇ…」


 クソッ、もう立ってられねえ。でも戦うしか…!!


「死んじゃうの?」


 駄目だ。もう、意識が───


 *


「がふっ、ごっ、ごほっごほっ」


 目が覚めるなり口の中に飛び込んでくる液体にはげしく咽る。見る限り今変なカプセルの中にいるっぽい。AShかこれ。


「…目覚めた!!」


「目覚めましたか。良かった……」


 聖奈…?真木さん…?真木がここにいるってことはマネクアクイは撒けたのか。


「安静にしてください。傷口は縫ったとはいえ体力と血を失っているのですから」


「……縫った?」


「はい、縫いました。ただ最善を尽くしましたが手術室程清潔ではないので後で病院行ってください」


 縫えるんだ。医術の心得あるんだ。医師免許あんのか。


「マネクアクイは」


「今は追っては来ないでしょう。ですが新手が来たので殺せませんでした。いずれ現れるはずです」


 新手……ヒーローか。そういえばあのとき現れたのはマネクアクイ側のヒーローのはずで……見逃された?何故。


「俺はどうやってここに辿り着いた」


「自力で辿り着いたんじゃないのかい?車の側に倒れていたけど」


「いや、途中で力尽きた。少なくとも車は見てすらいねえ」


 あの時点で周りに車なんてなかった。少なくとも俺には見えなかった。だとすれば考えられるのは一つ。あいつが運んでくれたのだ。


「……なるほどね」


「なにか言ったか?」


「いいや、なにも」


 おい聖奈、お前の親父大丈夫か。

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