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カリネ  作者: あしゅけーね
傲慢
15/17

傲慢の汚泥


『ビータス!!!』


 鳴り響く機械音。湧き上がる高揚感。傷の痛みも忘れて立ち上がる。体が軽い。今なら何でも出来るという錯覚に陥る。


「電子ドラッグじゃねえか」


 何故変身する時に機械音声が入るのか。それはこの変身ベルトが特定の音を体に響かせ脳波を操り感情を高めるという仕組みで変身させるからその音を他者に聞かせないため。

 この変身の仕組みは脳を無理矢理活性化させ外付けで高揚感を与えるのだから電子ドラッグでなくて何だというのか。それもこの感じ依存性がある上に無理矢理脳を刺激するため脳機能も傷つけてるな。自分から寿命を削ることになる。


「関係ねえか」


 今ここでこいつを倒せるなら関係ねえ。

 ああでもこの戦いが終わったら聖奈にこれを使わせるわけにはいかないか。常時変身し続けるのは怪人域においては有効かもしれないが、先も言ったように寿命を削るのだ。そんなもの開発者であろうと使わせるわけにはいかない。


「随分とおめかししたじゃねえか」


 俺がヒーローに変身したことで怪人としての異能が働いたのかトドカヌヒビの顔は泥の仮面が貼り付き視界も呼吸も塞ぎ、耳当てで聴覚まで封じられている。裸であったその体は泥で出来た拘束服がまとわりつき、手足に限らず全身がベルトできつく縛り上げられ、首輪から伸びる八本の鎖によって地面へと縫い留められていた。


「俺はそんなに弱いってかよ」


 スターレインと戦っていたときよりも拘束がきつくなっている。すなわち、俺は戦う程でもないと判断されたのだろう。

 実際、腹の傷は塞がったわけでもねえしさっきボコされたせいで全身が痛いし、何よりこのベルトによる変身じゃポジティブオーラが弱い。スターレインがヒーローとしては弱い方なのもこれが原因だろう。強力なヒーロー、怪人は纏うオーラも強大だ。


「つっても、その逆は正しいとは限らねえ」


 貧弱なオーラのヒーロー、怪人は弱いのか。いや、そうではない。確かに、オーラが弱いなら怪人、ヒーローとしての性質は弱いが本人の力量でカバー出来る。まあ強大なオーラを纏う奴はそれなりに経験積んでることが多いからそっちも本人の力量は高いが。

 そして貧弱なオーラでも怪人、ヒーローが必ず一つは持つ異能の使い方次第では強力なものとなる。


「こんな風に!!」


 あからさまに速度も威力も落ちた泥の槍を余裕で躱し、動けなくなったトドカヌヒビに拳を叩き込む。

 自分がどんな異能を持つのかは変身したらすぐにわかる。俺で言えば音の操作であり、聖奈でいえば足の炎がそれになる。

 ではヒーロー“ビータス”の異能は何か。


『怖い』『なんで』『愚図で愚鈍』『勝てるはず』『なんで動けない』『嫌だ』『来ないで』『誰か』『誰か助けて』


 ビータスの異能は『共鳴』。自己と他者の感情の共有。一度拳を交えれば相手の感情───トドカヌヒビでいえば傲慢と敗北を読み取り、そしてこちらの憎悪を押し付ける。


『なんで』『私ばかり』『何回目』『こんな雑魚』『動けば倒せるのに』『動けない』『なんで』


 流れ込むのは少女の記憶。生身で怪人を圧倒できる実力と確信がありながら、怪人の敗北の気配(ネガティブオーラ)に飲まれ立ち上がることのできない少女の姿。


『届かない』『痛い』『怖い』『気持ち悪い』『悲しい』『悔しい』『動いて』『また、助けを』


 涙を見られた。失禁する様を見られた。傷付くところを、気を失うところを見られた。それでも彼は助けに来た。いつも、いつでも助けを求めてしまうから。それに答える彼に縋ってしまうから。そして彼は応えるのだ。

 自分ならちっぽけな虫だと嗤うのに。軽蔑し、そして興味を失い義務だからと差し出す手を、彼は真っ直ぐ嗤うことなく笑いかけながら差し出すのだ。その差がより少女を惨めにさせた。


『痛い』『なんで』『私のせい』『私のせいだ』『私が傷つくのも、周りが傷つくのも』『なんで』『なんで立ち向かう』『私にはできないのに』『私にはできなかったのに』


 並び立つと思っていたのに親友に先を越された。自分はできないのに、ヒーローとしてその背に庇われた。それどころか、変身すらしていない生身の男にすら庇われた。

 少女にできなかったことを、少女より弱い彼女らが行った。そこにどれだけの覚悟があったか、壊れた少女は察することもできなかった。いや、しなかった。自分に覚悟がないと気付けば残ったチンケなプライドも消えてしまうから。あるいは、そこで壊れきってしまえばよかった。


『やだ』『なんで』『どうして』『失いたくない』『誰か助けて』『なんで』『嘘』『そんな』『笑って』『妬ましい』


 少女の大切な人が、少女の最も恐れるモノになった。失いたくない一心でいつもは躊躇うSOSをすぐに出した。それに応えたのは目の前にいた取るに足らない彼だった。変身したその姿はいつも少女を庇っていた背中。少女が届かなかったその背は、少女に届く筈もないと思っていた彼の背だった。


「知るか」


 共鳴の心は他者の追体験。きっと今頃彼女は俺の感情を読み取っているだろうけれど。互いに過去を、感情を知って何かが変わるわけでない。

 もはや泥の拘束具はほとんど剥がれ落ち、少女は先程のように裸体を曝す。すなわち、手加減なしの全力の姿。されどその拳は迷いが生まれ、先のような切れ味はなく、泥がほぼ溶けたことから槍による追撃もない。


「何泣いてんだ」


 それまで無感情だった少女の頬を伝う涙。無機質なその顔に流れるそれは今までの怪人らしさが消えてきていることの現れか。


「巫山戯るなよ。お前にはその資格もねえ」


 何が届かなかっただ。何が敵わなかっただ。気付かなかっただけだろう。お前が負けた彼らはお前を目指してた。父さんは日記に残して、母さんなんてお前の記憶ですらわかりやすい。お前はそこに立ってたことに気付かずただ立ち尽くして転がり落ちただけだ。


「そんなお前に涙を流すことが許されるわけねえだろ!!」


 ヒーローも怪人も感情によって変身する。そしてビータスの異能は互いの感情の共有。それぞれが異なる感情による変身であればそれぞれの感情に不純物が混じりあって弱まり、そして───


「終わりだ」


 最後の泥の一欠片が消え去り、スターリーバックルに罅が入る。『共鳴』によって互いの感情が等しく混ざり合い、その結果としてどちらも変身を維持できずに同時に生身へと戻る。

 そして最大の懸念点。怪人“トドカヌヒビ”はヒーローに負けると再怪人化する。変身の強制解除がヒーローに敗北の条件に当て嵌まるか否か。


「変身……しないか」


 体を押し潰すような怪人域のプレッシャーが消えた。すなわち怪人域は、それを発生させていたトドカヌヒビのネガティブオーラは消えたということ。

 俺と、聖奈の勝ちということ。あとはとどめを刺すだけだが、もう一歩も動けない。


「………真木さんの頼み、結局断れねえんだよなぁ」


 結果としてはそうなってしまったけれど、もし俺が今動けたとしてとどめを刺すことが出来るかは怪し───


「あらぁ、ずいぶん懐かしい名前ねぇ」


「っ!?」


 新手の怪人!?いつの間に!!


「怪人域が消えたからぁ、急いで跳んで来たのだけどぉ、まさかお嬢様を倒しちゃうなんて」


 全身口だらけの怪人、“マネクアクイ”。そうだ、父さんの日記に書いてあった。奴はネガティブオーラのないところならどこにでも現れるって。怪人域は“トドカヌヒビ”のネガティブオーラだから、それがなくなれば怪人域を作り出したこいつが来ないわけがなかった。


「そうねぇ、貴方は殺してぇ、そこの娘は怪人にしようかしらぁ。第三の怪人域になれるかしらねぇ」

怪人域内ではテレポートできないから仙台から東京までマラソンしてた黒幕。直線で突っ走るため車などは使っていない

ルートが違うから主人公達とはすれ違わなかった

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