虚飾の月光
十二月、一月忙しかったから書き溜め作れなくて投稿できなかった
まあこのあとも毎週投稿できるかは怪しい
*
side───加藤聖奈
誰…?見たことあるような姿。というかあれムーンジャンパーだよね。最強のヒーロー夫妻の片割れにして彼の母親。でも、
「もう死んだはず…よね」
眼の前の彼女は色が怪人を示す黒色になっただけで、羽衣を纏う二足歩行の長身の兎という姿は変わっていない。
当然、その姿は彼も知っているはず。そう思って横目に彼の姿を確認すると、多少動揺はしつつも全裸のトドカヌヒビと対峙していて───
「へぶぁ!?」
速い!少し意識は逸れたが視線はずっと向けたままのはずだったのに見えなかった!!!
だけど、ただ一方的にやられているだけではない。やられるだけではいけない。
「私だって!」
ヒーローの、スターレインの戦い方はさっきトドカヌヒビと戦って掴んだ。討伐作戦以前はヒーローの育成に使われていただけはある。たった一回、たった一回戦っただけで得るものがこんなにもあったのだから。
「きゃっ……くっ……」
闘技場のような形状の旧トレーニングセンターを上下左右、縦横無尽に飛び回るムーンジャンパーモドキ。辛うじて目で追える速さ。けれどさっきトドカヌヒビと戦って槍の速さに目が慣れていなければ追えなかった。
けれど目で追えるだけではダメだ。防いで、反撃して、それからようやく足下に縋り付くことができる。
見ろ。考えろ。戦闘中の分析の仕方はさっきトドカヌヒビとの戦いで学んだだろう私。
「ここ、だぁ!!!!」
トドカヌヒビとの戦闘で掴んだこの体の使い方を最大限に活かし、半円を描くように振り上げた脚がムーンジャンパーモドキを打ち据える。必殺技ほどの威力は出てないが足の炎がないなかで出せる最高の威力。それがモロに入ったというのに一切ダメージを負った様子を見せない。
「手応えはあった。怪人状態でも骨の一本くらいは砕けたはず……痛覚がないの?」
目の前の怪人は答えない。答える気がないとも違う沈黙。まるで最初から喋ることができない様な………。
「まさか」
嫌な想像が頭を過ぎる。いや、そんなわけがない。そんなことは許されない。けれど現状はそうとしか思えない。
だからこそ動揺した。そんな人間として最低な行為を容易く行える存在がいていいわけがない、怪人とはいえ元は人間だったはずだろうと、そういう思考が一瞬脳を支配し空白を生む。
「まずっ───」
右手を高く掲げ、それから対象に向けて振り下ろす。資料で何回か見たことのある“ムーンジャンパー”の必殺技“月下大砲”の予備動作。一瞬の隙にもならないほど簡潔なその動きは、されど最大の威力を有す。月光、条件次第では日光を束ねて対象に降り注がせる文字通りの必殺の技。
極光が降り注ぐ。熱く、冷たく、闇夜を束ねる白光の一撃。どんな怪人、ヒーローでもこれを受ければタダでは済まない。
「ぁ……」
全身が焼け焦げるような感覚。意識が白く飛び、変身が解除される。それでもまだ光は降り注ぐ。
*
それはまだ世界が大きくて、まだ狭かった頃の記憶。
当時四つかそこいらだった私は好奇心旺盛なクソガキだった。母に連れられ遊んでいた公園をこっそり抜け出して普段見慣れた街へ探検に出掛けた。誰かの手を引いて。
「こっち行ってみよう!!」
自分の方が年上だったという理由であちこち連れ回した。そうしたら当然公園からは離れていく。そうしてどんどんどんどん暗がりの方へ。そこで、あいつと会った。
「ああ?ガキィ?なんでこんなところにいんだよ」
蝿のような、悍ましい姿をした怪人。吐き気を催す黒い体。その足元にあるのは人の───
「ひっ!」
腰が抜ける。足が震え立つのも退くのも出来はしない。
「騒がれても面倒だなァ。殺すか」
「だめ!!」
立ちふさがる小さな影。私が勝手に連れ回した一つ下の男の子。私より小さいくせに私より勇敢で、私にはできないことをして。
「ナンダァ、纏めてぶっ殺せるってのがわかんねえのかガキ!死ね!!」
「やっ…」
白光が視界を埋め尽くす。これだ。今私が見るべきもの。私は一度“月下大砲”を見ている。
「このバカ娘!帰ったらお仕置きだからね!!」
白光の外側に倒れ込む怪人だった男を背にムーンジャンパーと共に駆け付けた母に叱られ視界がボヤケていく。ああ、ここからだ。ここから私が見たいものなのに───
*
走馬灯。人が死の危険に瀕した時に過去の体験から解決法を探すために見るものだと言われる。
「なんの役にも立ってない……」
辛うじて生きている。いや、辛うじて生きているから走馬灯が途中で終わってしまったのだろうか。
しかし思い出したことが幾つかある。“月下大砲”は昼でも使えること、月の光を纏めているだけなので連発可能であること、そして、あの後母と共に彼女は死んでいること。“トドカヌヒビ”討伐作戦がまさしくこの直後の出来事だった。今まで怪人の恐怖なんて母の死の悲しみで忘れていた。
「コード01」
『星輝降誕』
ところどころ黒ずみ炭化した足を引きずり、それでも姿を変える。
「止める」
こいつをここで止める。死してなお動く母親をあいつと戦わせるわけにはいかない。
再び右手を上げるムーンジャンパー。気合いを入れろ私。
「っ、あああああああああ!!!!!!」
再び白光が身を焼く。意識が消えかかるのを無理矢理奮い起こす。
見つけろ。記憶の中から。一回側で見て、一回食らってるんだから気付けるだろ私!!思い出せ、“月下大砲”の攻略法を!!!
「ッ、コード03!!!」
『星輝噴炎』
炎が揺らめく。全身を焼く光熱とは異なる我が身を燃やす炎。踏み込みに一個、攻撃に一個使う。倒れるなよ私。復活に使える炎はないんだから。
「コメット───」
一歩、踏み出した瞬間に爆炎を上げる。文字通り爆発的な加速。直線上のムーンジャンパーと交錯するのは一回きり。外すな、外さない。
「フレーズ!!!」
なぜ全身を焼かれた私が足しか炭化してないのか、それは走馬灯で見た男と同じく外側に倒れたから。つまり、月下大砲は対象指定ではなく座標指定!そして、月の光を束ねるのに集中してか本体は全く動かない!!!今この速度なら反応できないはず!!!
「─────」
振り抜いた足は寸分違わず相手の腹を蹴り飛ばし、ボールのように二、三回地面を跳ねさせた。そして、その死体は黒いヘドロが落ちるように変身が解除される。
怪人、ヒーローの変身が解除されるのは自分の意思か、あるいは気を失うか死んだ時。そして死体に意思はない…はず。
「勝っ…た?」
いや、まだ終わりじゃない。これからトドカヌヒビを───
ダメだ。もう体が動かない。向こうがどうなっているのかも分からない。もう、出来ることは───
「コ、コード…01…」
託すこと。それが今私に出来る精一杯のこと。