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カリネ  作者: あしゅけーね
虚飾
12/17

月明の邂逅


 すっかり日が沈み、麓にバイクを停め荒れた山道を歩くこと二時間ほど。時計は七時を回り小腹が空いてくる。


「ついた」


 忌まわしきトドカヌヒビの居城、旧ヒーロートレーニングセンター。誰も───あの少女でさえ手入れしていないのか建物はあちこちが崩れ草木は伸び放題。あの少女が通る分だけの道は自然と出来てはいるものの俺達には小さすぎるため瓦礫を掻き分けて進むしかない。


「あれだ」


 視線の先には屋根が抜け落ち、月光に晒される泥の繭。こびりついた血のように赤黒い。それが、月光を受け白く輝いている。


「スターレイン」


「わかってる」


 スターレインが一歩近付く。俺じゃ何も反応しなかった繭が開き、中から現れたのは一人の少女。驚くことに背丈は小学生ほどしかない。

 繭が完全に開き、少女の足元に泥が広がる。一糸纏わぬその姿は月下ということも相まって彫刻のように美しく、そしてそれを汚すかのように泥がその肢体を這い回る。やがて泥は全身を覆いその身体を縛り上げ、押し込み、締め上げる。


「ヒーローに合わせたレベルダウン…お前弱いってよ」


 彼女の泥は自身がヒーローに敗北するための枷。どんな弱いヒーローであっても互角の戦いを演出するための檻。彼女を覆う泥が多く分厚く固いほど彼女は弱くなる。逆に言うのならば纏う泥が少ない、すなわち生身に近いほど強いということだが。おかしいだろ。


「じゃ、行くわよ」


スターレインが駆け出す。対するトドカヌヒビは動かない。動けない。その泥は強く固く縛り付け彼女が動く事を許しはしない。


「っ、ぶないわね!!」


 されど彼女はただ殴られるだけでない。怪人“トドカヌヒビ”は敗北の怪人。ある少女があと一歩届かない敗北感から怪人とかした者。その発生から、彼女は激戦の末ヒーローに敗北することで再び怪人となる。だからこそ激戦を演じる為の武器があるのだ。


「この、うっとおしい!!」


 トドカヌヒビの足下……拘束に使われていない泥が固形化し槍となってスターレインへと向かっていく。数は一本。父さんの日記にあったように何本も飛んできているわけではないが、それでも今のスターレインには厳しい速さと威力がある。


「ぐっ、このっ!……っ、見えた!!」


 そう言って槍に吹き飛ばされるスターレイン。


「見えてねーじゃねーか」


「うっさい!!今度は見切ったわよ!!」


 おお、ほんとに避けた。さっきふっ飛ばされたときに何かしらの核心を得たのだろうか。それもしっかり引き付けてから最小の動きで躱している。少し戦っただけでこれだけ成長するのだからヒーローのトレーニングに使われたってのはわかるな。まあその結果が今の怪人域なわけだが。


「そこっ!!」


 ちゃんと避けながら近付き拳で一発入れた。スターレインは蹴りのほうが威力があるはずだから、拳より蹴りが当てられるようになるといいな。ただ蹴りは隙も多いし難しいか?


「はぁっ、はぁ」


 息が上がり目に見えてスターレインの動きが鈍くなる。それに合わせてかそれともあちらも息切れしているのかトドカヌヒビの動きも鈍っていた。ま、前者だろう。少なくとも父さんは今のスターレインより遥かに強いし、制限ありでそれと互角に戦えたトドカヌヒビは父さんより強いはずだ。


「…っ、しまった!!」


 疲労が祟ったのかそれとも別のことを考えていたのか。トドカヌヒビの槍をキレイに食らってしまったスターレイン。そのままぐったりと意識を失う……待て、トドカヌヒビはヒーローには絶対勝てないはず。なのに倒せた?


星輝(star)再燃(reboot)


 右足の炎が燃え上り、スターレインが立ち上がる。この復活があるから負けてはいない。いないが、復活があることを何で知ってやがる。明らかに復活する前提で打ち倒していたぞ今。誰か────マネクアクイが教えた?あるいはヒーローの能力を読み取る能力がある?

 後者だな。力量のみを読み取るのかと思ったが能力まで読み取れんのか。じゃああいつ必殺技込みであの性能まで抑えられてるのかよ。


「こ…こっ!!!」


 あ、ちゃんと見てなかった。でもいい感じにカウンターが決まったようでトドカヌヒビの体が大きくよろめく。


「コード03」


星輝(starly)噴炎(burst)


 左足の炎が大きく燃え上り、そのままスターレインの全身を包み込む。


「コメットフレーズ!!!!!」


 綺麗な半円を描いてスターレインの蹴りがトドカヌヒビへと吸い込まれる。必殺の一撃を受けた怪人はそのまま地面へと倒れ込んだ。


「トドメ」


「はいよ」


 トドカヌヒビはスターレインとの戦いで弱っている。実際は全然余裕なのだろうが、怪人の性質上今この瞬間だけは弱っていなければならない。だから俺の仕事はこいつが敵がスターレインだと認識している間にこいつの頭を潰すこと!!!


 ふと、頭の中を真木さんの顔が過る。今まで育ててきてくれた分、そして出発前の蹲って懇願する姿。


 一瞬だった。一瞬手が止まっただけだった。その一瞬で飛んできた何かがスターレインを吹き飛ばす。


 それは羽衣を纏った兎の怪人。いつか見たヒーローの姿に酷似している。そう、それは───


「母さん…?」


 昔見たヒーロー“ムーンジャンパー”がそのまま黒くなったような見た目で。だけど纏う雰囲気は寒々しく。ヒーローだった彼女が地上に降る月光だとしたら、今の彼女は地上を見下ろす月面。

 違う。母さんは死んだはず。ではこいつは何だ…?


「クソッ」


 しまった。考え事をしている場合じゃなかった。ここにはもう一体怪人がいるだろ。


「…っ!!」


 視線があった。そこにいたのは虚ろな目をした全裸の少女。拘束に使われていた泥は剥がれ落ち、足下に流れ落ちていく。

 最悪だ。こっちを敵として認識しやがった。最強のヒーロー相手にさえ泥を纏って拘束していた最強の怪人の全力。そんなものを相手にしなければならない。

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