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カリネ  作者: あしゅけーね
虚飾
11/17

白磁の夕焼

おかしいな

年内にはトドカヌヒビと対峙してる予定だったんだけど


「止まって!」


「へっ?」


 二時間ほど走り、そろそろ目的地が近づき始め山の中へと入りかかった頃。良い感じに日も傾き伸びた影が視界を覆い始めたその時、聖奈の声でバイクを止める。


「どうした」


「女の子がいる。小学生くらいの」


 聖奈が指差した先、手入れがなされず荒れ放題となった森の中には確かに驚いたような顔をする小学校中学年か、下手したら幼稚園保育園くらいの女の子がいた。それも生身で。


「あいつが……」


「ええ。間違いなく怪人側のヒーローでしょうね」


 あれだけバイクの音響かせといて気付かれないわけがない。その少女が近付いてくる。

 暗がりの中から現れたその少女は、奇妙な風貌だった。真っ白い髪に服。顔も同じかそれ以上に青白い。そして、今まで荒れ放題の森の中にいたにも関わらず汚れ一つない。何よりその顔を何処かで見たことがあるような気がするのだ。間違いなく初対面だというのに。


「ヒーロー……?なんでここに?」


 少女が口を開く。空気に溶け込んでしまうような儚い声。しかしそれでいて聞くものの心に染み込む優しい声。その見た目と相まって神秘的にも思える。


「あ、ああ。マネクアクイって奴に言われて怪人域の外から連れてきたんだ。怪人域をもっと広げられるようにって」


 ハッタリをかます。おそらくマネクアクイは彼女とそう何度も会ってはいない、情報の交換も行っていないだろうと踏んでマネクアクイの名前を出す。


「……お母さんが?」


 お母さん?こいつマネクアクイの子供なのか。まずいな。マネクアクイは赤の他人のヒーローなら自分を殺すこともあり得るから接触は避けるだろうと思っていたがまさか身内だったとは。


「あ、ああそうだ。怪人域の外でマネクアクイと知り合ってな。こいつを怪人域を広げるためにここまで連れてきたんだ」


「よ、よろしくね」


「……ん、だったら仲間。よろしく」


 ……あっさり受け容れられた。ということは普段から何も情報共有がされていないのか?いや、子供という便利な駒に余分な事を教えないだけか。

 差し出された手を握る。怪人の力で生身の子供の手なんか握ったら力の加減が難しいな。握り潰さないようにするのが精一杯。聖奈にやらせたらすぐに握り潰してしまいそう。


「じゃあ皆にも伝えてくる」


「皆?」


 まずいな。他に仲間がいるのか。いや、ヒーローを協力させている時点でその可能性は考えておくべきだった。日記の描写から考えるに単独で事を為したがるタイプだと思っていた。


「大罪の皆。お母さんから聞いてないの?」


「聞いてねえな。あいつは秘密主義だから」


 それっぽい嘘を吐く。聞いてないどころか出会ってすらいない。まあでも秘密主義なのは間違いないだろう。優位に立った相手にはその秘密をペラペラ喋るところまで含めて日記の中のあいつは典型的な秘密主義者だ。


「お母さんの仲間だよ。お母さんも含めて七大罪になぞらえたネガティブオーラを持つから大罪っていうの」


 七大罪……傲慢、嫉妬、怠惰とかのあれか。あれキリスト教だったよな。日本なら十悪五逆とかじゃねえの。日本はどちらかといえば仏教圏だし。いや神道か?その辺あんま詳しくねえや。


「へぇ。お前はなんの罪だ?」


「私は違うよ。怪人じゃないから。私はただあいつを倒すだけ」


 マネクアクイの仲間の怪人が七大罪になぞらえているからと言ってトドカヌヒビを倒すだけのヒーローであるこいつがそうである必要はないもんな。


「もうすぐ日が暮れちゃう。それまでには帰らないといけないから。バイバイ、お兄ちゃん」


 手を振り、駆け出して行く。幼い少女とは思えないほどの速さで。変身後ならともかく生身であの速さ、それも転がる瓦礫や伸び放題の木の枝をあんな機敏に避けながら動くなんて人じゃねえ。なんて言うんだったかな。あれだ、バグってやつだ。


「ねえ、今襲えば厄介なヒーロー潰せるし有利になれるんじゃない?」


「お前それは…さすがに………」


 言うに事欠いてあんな小さな女の子を後ろから襲って殺しましょう、はどんな悪逆非道の怪人だよって話だぞ。それに、あの速さで動いてるとこっそり着いていって襲うなんて無理だ。俺らがあの速さで走ろうとしたら絶対音で気付かれるし、バイク使って強襲しようにもおそらく避けられる。


「冗談よ。多分生身でも負けるでしょうし」


 スターレインの実力はお世辞にも高くはない。あの身のこなしの少女であれば変身しなくても互角、あるいは勝ってしまうかもしれない。正直俺も厳しい。


「とりあえず、今がチャンスだ」


「奇襲の?だったらもうあんな遠くまで行ってしまったわよ」


 冗談だったんじゃねえのかよ。


「とりあえず今はマネクアクイがいない、あるいはマネクアクイとあの子はそんなに頻繁に連絡を取ってないことがわかった。勢いに任せて飛び出してきたけど今が最適なタイミングだったのかもしれない」


「他にも仲間がいるみたいなこと言ってなかった?」


「実の娘にあの態度なら他の仲間にも同じだと思う。だから大罪って連中は怪人が集まっただけの烏合の衆……のはず。少なくとも気付かれてすぐ動けるとは思えない」


 娘すら信じないやつが他人を信じて託すワケ無いだろうからな。日記を見るに父さんの前にはマネクアクイだけが姿を見せてたらしいし。


「じゃあ早く行かないとね」


 そう言ってバイクにまたがる聖奈。邪魔だから俺より先に乗らないでくれねえかな。俺が乗り辛い。


「っていうかさ。さっきから出てるマネクアクイって誰?」


 そういや日記見せてないから知らないのか。怪人一覧にも載ってないしな。


「トドカヌヒビの協力者で、黒幕みてえなやつ」


「ふーん。話の流れ的にあの子のお母さんなわけよね。顔とか見たことある?」


 顔?マネクアクイの生身の顔のことか?


「ねえな。そもそも変身後の姿すら見たことねえ」


「だよね。でもあの子の顔なんか見覚えあるっていうか……」


「父親の方が知り合いなんじゃねえの。その面影があるって感じで」


 まあ性別が異なるわけだし父親と面識があっても誰かまでは分からないと思うけど。

 ………父親が怪人かどうかまでは分からないけど聖奈身近に黒幕の仲間がいるってことになるな。聖奈や、裕司さんはその気がなくとも操られている可能性もあるわけか。一応警戒しておこう。

「happy new year!!!!!!三が日はギリギリ新年を祝う資格があるであろう!!!」

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