第二話・知合い
翌日、同じ作業を繰り返します。花園にて僕は水やりをしながら、ボンヤリと昨日母親から聞いた話を思っています。
「そこには誰もいないじゃないか?まさか、実が幽霊とでもあったのかしら?夏の幻っていうのはこの近辺に昔からよくあるウワサなんだけどよ」母親は意地悪そうな笑みを浮かべて言いました。
どうしてワザワザとそれを教えてくださいましたか?僕は幽霊とかモノノケとかそういうのはとても苦手なんですって母親がよく知っていますのに。幽霊と夏の幻とのことで頭がいっぱいなんですから、水やりに集中できません。
忽然と誰かが僕の右肩に触れ、「オッス」と気軽く声をかけてくれました。振り返ると昨日のあの子がいました。
「き、き、昨日のあのゆ、ゆ、幽霊!お母さん!」そう大声で叫び、すぐさま疾風の如き母親のもとへ飛んでゆき、母親を花園へと力強く引っ張ってきました。あの子を指差して僕は早口で言います。
「お母さん、幽霊が出ました!アリアリとあちらに現れていますので、夏の幻なんかではありません!」そう言った途端、母親に軽く叩かれました。
「知り合いじゃん?夏の幻じゃないに決まってるでしょ!彼女は昔のお隣さんの綾花ちゃんだよね。きちんと挨拶してよ!」僕を叱ってから、母親は池内さんに向かって言います。
「お見苦しいところを見せてごめんね、綾花ちゃん。我が家の息子はおっちょこちょいバカなんだけど、どうぞよろしくね」
おっちょこちょいバカなんて言いすぎではありませんか?ちょっとムカつきますね。ところで、昔のお隣さんって言われたらふと思い出しました。幼稚園の頃やら小学校の頃やらよく一緒に遊んでいましたっけ?顔も雰囲気もずいぶん変わりましたな。別人になったと言っても過言ではないくらいにすごい美人になりました。
「こんにちは、池内さん。今しがた失礼なことをしちゃってどうか許してください」僕は頭を下げて謝ります。
その後、僕たちはリビングに上がりました。母親は台所へ入り、お菓子や飲み物を持ってきて池内さんと楽しそうに話し合っています。
僕は羊羹を食べたりお茶を飲んだりしながら、彼女らの世間話をあっけらかんと聞いています。池内さんはご両親のお仕事のためにしばらくの間ここに来ている予定だそうです。
母親はふとこっちを向いて言いだします。
「そうだ、そうだ。実、綾花ちゃんとどこかへ遊びに行かない?どうせあんたが家にいてもなにもしていないじゃん」
ちゃんと家の手伝いをしていたつもりなんですが。それに、どうして僕が付き合ってあげなければなりませんか?
「そうね、一緒に遊ぼうよ、実」池内さんが寄ってきました。
池内さんまで、しかも下の名前で。なんでこんな羽目になったんですか!
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