他人のチョコは秘密の味。
※ちょっと際どいシーンがあるので、また消されないか少し不安ですね。
2022/02/19にキハ様から頂戴したイラストを追加しました。
2022/03/14に波多様から頂戴したイラストを追加しました。
2022/03/20に山口実徳様から頂戴したイラストを追加しました。
――私、及川宏子は荻原優香が大嫌いだ。
荻原優香はスクールカースト最上位の人間で、クラスで一番の美少女。
目鼻立ちは整っており、切れ長の目と天然の長い睫毛が特徴的だ。薄い茶色に彩られたきめ細かな長髪は、お洒落なアクセサリでポニーテールにまとめられている。
そして、校則ギリギリの短いスカートから伸びる細くて長い脚。その素肌は、シミひとつなく、雪のように真っ白だ。同性の私から見ても、本当に羨ましい。
スタイルだって抜群だ。私よりも背が高いし、実際モデルでも通用しそうなプロポーションを誇っている。立った時の姿は本当に可憐で、絵本の世界に出てくるお姫様なのではないかと錯覚してしまう。
そんな彼女だから当然友達も多い。彼女の周りには自然と人が集まってくるようだ。いつ見ても、彼女の周りには人垣が形成されている。
それに比べて、私は実に醜い。
お世辞にもお洒落とはいい難い、丸縁眼鏡。黒い髪をショートカットに切り揃え、机に座れば常に猫背。おまけに休み時間には、ひたすらに読書をしている。
胸は同年代と比べて少し大きめかと思うが、顔が可愛らしいとは思わない。去年まで何度も男子から告白されたことはあるが、罰ゲームか何かなのだろうと思い、全て断ってきた。
他人より秀でたところがあるとすれば、多少周りよりも真面目なところだろうか。そういった性分故か、今年から、私はこの高校の風紀委員を務めている。今日も朝の校門検査で、何人か校則違反を摘発した。皆が凄まじい形相で私を睨んできたのは記憶に新しいことだ。
こんな人間だからなのか、私にはほとんど友達がいない。
神様は不平等だ。
私だって彼女のように美人に生まれたかったし、友達もたくさん欲しかった。誰もが羨むような能力を持つ人間として、私という存在を作って欲しかった。
だけどその願いは叶いそうにもない。実際今も、私はただただ本を読んでいるだけなのだから。
「はぁ……」
私は深々とため息を吐き出す。何だか私は、このまま一人で生きていくのではないかという疑問が沸きあがる。
勿論気が早いかもしれない。しかしこの高校を卒業した後、ゆくゆくは大学へ入り、就職し結婚へ至る。時間などあっという間だろう。死の間際まで孤独なのだろうかと思うと少しだけ悲しくなった。
――駄目だ。普段使わない頭を使ったせいか、とてつもなく頭が痛くなってきた。
頭を使うとどうしようもなく糖分が欲しくなる。お昼までまだ時間があるし、外にある自動販売機でジュースでも買うとしよう。
私は何度か頭を左右に振って不安を払拭すると、すくっと立ち上がり、自販機が設置されている場所へと足を運んだ。
◆◆◆◆
「――だから違うんだって」
私が外の自販機まで足を運ぶと、何やらひそひそとした声が聞こえてきた。
私はつい反射的に近くの物陰にじっと身を潜め、声のする方を凝視する。するとそこには、あのクラスの人気者である荻原優香が、非常階段に腰かけていた。それもスマホを使って、誰かに電話をかけていた。
実はこれ、とても芳しくない状況である。この高校は比較的校則が緩めであるが、何故か放課後まで携帯電話で通話禁止という少々面倒な校則があるのだ。
私も風紀委員である以上、彼女の校則違反を見逃すわけにはいかない。
私は覚悟を決めると、再度彼女を観察する。
彼女が使用中のスマホは、真っ黒で比較的大きめだ。恐らく形状からしてAndroidだろう。ただ、そのスマホにはアクセサリの類は何もつけられていない。意外にも簡素なスマホを使っているのだと思った。
「――そう。今日バレンタインでしょ? チョコあげたい人がいるから作ったんだって。うん。うん。そう。家に帰ったらお母さんにもあげるから、拗ねないでって。じゃあまたね」
耳を澄ますと、聞こえてくるのは、どこか懐かしく心地のよい声色。私は少しだけその音色に聞き惚れてしまったが、自分のほっぺを何度か叩き、自らの使命を果たすことにした。
そういえば、今日はバレンタインデーだった。私とは無縁の、それでいて実におめでたいイベントの日。
しかし今回の件は見逃すわけにはいかない。このまま黙認してしまえば、この学校の風紀が乱れてしまうのだから。
色々なことを思っている内に、私は優香のすぐ近くまで来てしまった。そのまま彼女と対峙するために、私はじっと彼女を見据える。
その視線に気づいたのか、通話を終えた優香が私の方を振り向いた。
私の顔を見るなり、ぎょっとしたような表情を作る我がクラスのアイドルさん。
まるで悪戯がバレた小学生のように、明らかに目が泳ぎ始める。自分が校則違反をしていることを認識している証拠だ。
「えっ……えっと……これはその……!」
しどろもどろになりながら、何とか言葉を紡ぎ出そうとする優香という名の幼い少女。
「ほんとごめん、及川! 悪いんだけど見逃してくれない? ね? 今回だけ! 一生のお願い!」
少女が自身の顔の前で合掌し、片目を瞑りながら、お願いだから見逃してを連発する。
恐らく、男子だったら一発でノックアウトだったことだろう。だが悲しいことに、私は女の子なのだ。それもこの人のことがとても大嫌いな女子。
「荻原優香さん。放課後までスマホでの通話は校則違反であることは知ってますよね? 非常に残念ですが、貴方のスマホは没収します」
私は渋る彼女から手早く黒スマホを奪い取ると、自分のブレザーの外ポケットにしまい込んだ。
「えーっ! そんな! ひどいよー!」
優香が涙目になりながら、悲痛な叫びを訴えてくる。
ハリウッドもびっくりの名演技だ。これで彼女に好意を持つ男ならきっとイチコロだろう。
しかし残念ながら、私にその手は通用しない。何故なら私は貴方のことが嫌いだからだ。
「それがこの学校のルールです。規則を守らないと、この学校の風紀が乱れます」
「ぶー! ふんだ! 及川のイジワル! いいもん! 既成事実を作ってやるんだ!」
私の冷ややかな応答を聞くと、これ以上交渉しても無駄だと悟ったようだ。
口をフグのように膨らませると、優香はそのままぷんすかしながら教室へと帰って行った。遠目から見ると、心なしか、頭から湯気が湧き出ている気がしないでもないようだった。
◆◆◆◆
バレンタインデーだからといって、私の仕事が減るわけではない。
今日は月に一度の風紀委員の定例会議。議事録係である私は、必死になって議論の内容を記録していく。今時パソコンじゃなくて手書きじゃないといけないなんて、なんてアナログなのだろうと逆に感心してしまった。
といっても、特別新しい議題が持ち上がる訳ではない。いつも通りの経過報告が主体だ。新議題が出てくるとかなり手間になるが、それがないのがせめてもの救いといえる。
会議が終わった頃には、もう夕日が半分沈みかけていた。やはりこの季節は日が沈むのが早いみたいだ。私も速やかに下校するとしよう。
黄昏色に染められた廊下をただ一人淡々と歩き続け、私は特に何も考えずに教室へと戻った。
「やっほー! 及川、今日も風紀委員お疲れ様!」
教室の扉を開けるなり、私の双眸に当たり前のように飛び込んでくる光景。
まるで家に帰ってきた家族を労うかのように、私の席に座った優香が私を出迎えてくれた。あまりにも浮世離れしたその一コマを見て、私は思わず二歩後ずさる。
教室を間違えたのではないかと不安になり、一度教室の外にある学年とクラスの番号を確認した。
寸分の狂いもなく自分が所属する学年とクラスであることを確認すると、私は大きなため息を吐きながら教室へと足を踏み入れた。
「貴方は、私の椅子に座って何をされてるのかしら?」
自分の席へと足を進めながら、私は優香に問いかける。
「バレンタインのチョコ食べてたんだ。及川はチョコ貰った?」
チョコを口に含みながら、彼女が玩具を買ってもらった子供のように語る。
主旨とは明らかに異なる回答だ。彼女には何故私の席に座っているのかという意味で聞いたのだが、どうやら通じなかったらしい。
私は彼女に意図が伝わらなかったことに軽く失望し、本日三回目のため息を吐き出した。
自分の数歩先で、ポニーテールの薄茶髪美少女が私の席を陣取っている。
私は特に理由もなく、ふとその足をとめた。
「私は家族以外からもらったことないわよ。大体、バレンタインのチョコは女性が男性に渡すものでしょう? 違うかしら?」
「おっとっと! これはごめんなさい」
私の席に我が物顔で居座っている少女に対し、ドスの利いた声で返答をする。彼女はそれを聞いて少し焦ったようで、すぐに謝罪の言葉を口にした。
調子に乗り過ぎたと思ったのか、彼女は私の態度を見てシュンとなってしまった。
別に私は悪くないのだが、これでは何だか私が悪者になってしまったようだ。話題を変えた方が良いかもしれない。
「ところで、いつも貴方の周りにいる親衛隊の方々はどうされたのかしら?」
「ん? 今日はもう先に帰ってもらった。アタシは及川、君と少し話がしたかったからね」
想像の遥か斜め上の一言に、同性ながら思わずドキッとしてしまう。
彼女の仕草を見る限りであるが、恐らく計算してやっているわけではないのだろう。将来とんでもない人たらしになりそうだと思った。
「あのね。スマホなら明日まで返せないから、私と話をしても無駄よ」
別に悪意はないのだが、ついつい突き放すような言い方になってしまう。
「えー返してよ! スマホが無いとアタシ生きていけないのよ!」
相変わらずほっぺを膨らませながら、私に対して反抗の意を示すクラス一の美少女様。
仕方がない。こればかりは、規則なのだから私にはどうすることもできない。恨むのであれば、私ではなくこの学校の規則を恨んで欲しいものだ。
「駄目なものは駄目!」
「えーだって……私達友達でしょ?」
唐突に友達という単語が飛び出して来た。まさかそんなフレーズを口にするとは思いもしなかったので、私は呆気にとられる。どこをどうすれば私達が友達になるのだろう。寝言は寝てからいって欲しいものだ。
「貴方と友達になった覚えはないわ」
私は彼女の言葉をバッサリ切り捨てる。
「じゃあ逆に聞くけど、及川にとって――アタシって何?」
私の返しを聞くなり、今まで笑っていた彼女の目がすーっと刃物のように鋭くなった。
今までのおちゃらけていた時とは、明らかに雰囲気が変わった彼女を見て、私は幾分かたじろいでしまう。
しかしここで動揺を悟られるわけにはいかない。私は仮にもこの学校の風紀委員なのだ。
「他人だと思ってるわ」
私は粛然とした態度で彼女の質問に答える。
「ちょっと……それはさすがに傷つくかな」
私の答えに納得がいかなかったのか、彼女の顔に困惑した表情が浮かび上がる。
「だってそうじゃない? 自分以外の人は他の人なんだから、他人以外の何者でもないでしょ?」
私は何も間違っていない。他人とは、本来自分以外の人を指している言葉だ。であれば、今の私の回答は誰が見ても完璧な回答のはず。
「ん~。そうかもしれないけど、さすがに今のは傷ついたかな。今朝の件も含めて、及川には責任を取ってもらいたい」
ニィと悪戯小僧のような笑みを美顔に張り付けると、優香はすくっと立ち上がり、そのまま私のところまでやって来た。
今更気が付いてしまったが、現在この教室には私と優香しかいない。つまりこの開けた空間に、か弱い女子が二人っきりという状況なのだ。文化部の部員は、既にほとんど下校しているような時間だから、ここで何かあっても、人が来ることはないかもしれない。
唐突な彼女の行動と嫌な予感が頭を過り、私は身を縮こませる。そんな私の挙動を知ってか知らずか、彼女はやたら慣れた手つきで、あっという間に私の眼鏡を外してしまった。
突然眼鏡を失ったことで、若干だが視界がぼやけてしまう。
「ちょ、ちょっと! 返しな――!」
私が文句を言い終える前に、私の口元に何か柔らかいものが押し当てられる。それが優香の唇であると認識するまで、十数秒もの時間を要してしまった。結果――それは私にとって、完全な命取りとなってしまった。
真珠のような双瞳を閉じ、私の唇を甘噛みながら、全身を優しく抱きしめてくる優香。彼女の技術に翻弄され、魔法にかけられたように、私の口が僅かに開く。
優香はその隙を見逃さず、私の口の中に舌を滑り込ませてきた。彼女の小さな舌がうねり、私の口腔内が容赦なく蹂躙される。
それだけに留まらず、彼女は私のシャツの隙間から内側に向かって、右腕を蛇のように潜り込ませてくる。そしてそのまま、私の胸部をまさぐってきた。彼女の細い指先が、私の胸に歯痒い刺激を与える。
我に返った私は、彼女から離れようと、必死に彼女の胸元を両腕で叩く。しかし私からの微かな抗議をものともせず、彼女の左手は、私の頭部をしっかり押さえて離さない。
糖分たっぷりの甘ったるいチョコの味が、口内で緩やかに広がっていく。彼女の舌先が私の舌を捕え、絶対に逃がさないとばかりに舌を絡ませてくる。意図せずにお互いの淫らな音が、閑散とした教室内に静かにこだました。
クラスで一番美しい少女の猛攻を受け、私は膝から崩れ落ちそうになる。糸の切れた操り人形のようになった私の体を、優香は穏やかに受け止めた。
目の前にいる少女と口付けをしていたのは、ほんの十数分、もしかしたら数分だったのかもしれない。だが私にとってそれは、途方もなく長い悠久の時間のように感じられた。
やがて彼女は、私を抱きしめていた力を緩めると、私からほんの少しだけ距離を取った。
少し名残惜しそうに、お互いの唾液がつーっと糸を引く。窓から入り込む沈みかけの夕日に照らされ、微かに煌めいたそれは、私にはとても扇情的に見えた。
夢見心地とでもいうのだろうか。惚けている私を見て、彼女が意地の悪い微笑みを浮かべた。
「ふふふ。どう? 他人から渡されたチョコのご感想は?」
口周りに付着した残骸をぺろりと舐めながら、挑発的に述べる優香。そのまま彼女の右手の人差し指が、私の下唇を粛々となぞる。理解が追い付かない私は、彼女の様子をただ茫然と眺めるだけだ。
「ん~。感想なしですか。やっぱり傷つくなあ。……まぁでもこれだけは一ついえるね。これでアタシと及川は、人にはいえない関係を持ったってこと」
いつの間にかブレザーの内ポケットに入れられていた私の眼鏡を取り出し、彼女が私に眼鏡を差し出してくる。
私はそれをゆったりとした動きで受け取ると、ぎこちない手つきで自分の顔にかけ直した。
「眼鏡ない方がずっと――」
聞こえるか聞こえないかのような囁き声で、ぼそりと優香が呟く。はっきりと聞こえなかったが、どうせたいしたことではないのだろう。
「あ、そうそう。悪いけど、これは返してもらうよ」
「あっ――!」
没収していたはずのAndroidの端末機。それが今は彼女の手に握られている。
先程さりげなく外ポケットから抜き取られていたことに気が付き、私は慌てて身を乗り出す。しかし体がトロトロにふやけてしまった私は、一歩足を踏み出したところで体勢を崩し、床に尻餅をついてしまった。
「もう無理しちゃって。ほら、立てる?」
身を屈め、私に右手を差し伸べてくる優香。私は彼女の厚意に甘え、右手を差し出し、ゆっくりと立ち上がった。
「あ、ありが――」
感謝の台詞を言い終わる前に、優香が私に近づき、さも当然のように私の唇を奪う。先程とはまるで違う、貪るような荒々しく強引なキス。目が閉じられていても、彼女の顔は彫刻のように華麗だった。
しかし、さすがに我慢の限界がきた私は、圧し掛かる彼女を、渾身の力を振り絞って押しのけた。
「ふふふ。ほんとに及川って可愛いなぁ」
優香は歌うように、それでいてとても楽しそうに無邪気な科白を並べている。
私のささやかな抵抗に対して、一切意に介した様子が窺えない。現に今の彼女は、憎たらしい程に清々しい笑顔だ。まるでこれまでできなかったことを、ようやく成し遂げたかのようにも感じられる。
「本当は君と一緒に帰りたいけど、この後どうしても外せない用事があるから、先に帰るね。じゃあまた明日~」
目の前にいる悪魔のような美少女が、私に対して子供っぽいウインクを送る。そして鼻歌交じりに私に手を振りながら、優雅な足取りで教室を去って行った――。
◆◆◆◆
一人ぽつんと残された私は、過度の混乱で眩暈を覚えた。取り合えず、一旦自分の席に座った方が良さそうだ。
今日のことを整理すると、まず優香のスマホを私が没収した。そしたら私を待ち伏せしていた優香が逆上し、私にキスしてきた。しかもあろうことか、ナチュラルに私の胸まで触ってきた。こんなところだろうか。
うん。全くわけが分からないというのが、正直な結論だ。
私の初めてのキスが、女性というのはかなりの衝撃だ。それもこのクラスで最上級の美少女に、唇を奪われる日がくるなんて、夢にも思わなかった。
あの時は、私も頭がぼーっとしていたせいか、かなり深いキスをしてしまった。今思い返すと、彼女ととてつもなく耽美なことをした気がする。舌を絡ませるなんて、漫画の中だけの話だと思っていた。
彼女との出来事を改めて思い出すと、かあっと自分の頬が熱くなった。一人の女子高生と一緒に、とてつもなく破廉恥なことをしてしまったと今になって実感した。
――落ち着こう。一旦冷静になろう。私は気が動転しているんだ。優香もスマホを返さなかった私に苛立ち、つい趣味の悪い悪戯をしてきたに違いない。明日何もなかったように接すれば、全てが元通りだ。
いくらか冷静さを取り戻した私は、ふと、自分の机の方に目をやる。机の上には、つい先程まで優香が食べていた一口サイズのチョコが置いてあった。メモ書きには、『及川へ。高校生なんだから残さず食べること。荻原優香より』と書いてある。
メモ書きにまでふざけたことが記載されていた。彼女の悪ふざけのせいで、今日はどっと疲れたというのに。お陰様でだいぶお腹がすいてしまった。不本意だが、チョコを食べさせてもらうしかなさそうだ。
よくよく見ると、チョコは形が整っておらず、かなり歪だった。もしかしたら、販売品ではなく、彼女の手作りなのかもしれない。色々な意味で、彼女の意外な一面を見た気がした。
そんなことをぼんやりと頭に浮かべながら、一口目のチョコを頬張る。
チョコが口の中で溶け、甘美な香りとともに、私の食欲を満たしてくれた。形は変だけれど、思ったよりずっとおいしい。
気が付くと、私は無我夢中でチョコを味わっていた。一口サイズだが、美味だし、何より私のお腹を満たしてくれる。
六つほどチョコを頬張ったところで、優香からのあの質問が、頭の中でリピートされた。
『他人から渡されたチョコのご感想は?』
彼女との接吻で口の中に広がった、あのチョコの味を思い出す。私が今食べてるチョコと同じ味。だけどこのチョコとは、決定的に何かが違う気がする。
何がどう違うかは、上手く言葉にできない。なんかこう感覚的なもののような気がする。ただ、これだけは言えると思った。
彼女と一緒に食べたチョコは――どこか秘密の味がした、と。
※キハ様がイラストを作成してくださいました。
※山口 実徳様がイラストを作成してくださいました。
※波多様がイラストを作成してくださいました。
ご意見、ご感想、ご評価等々何卒宜しくお願い申し上げます。
ご感想等々ございましたら、続編も作成致します。
→続編作成は行います。今しばらくお待ちくださいませ。