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何でも良いからバズりたい!

「――アスモデュゥゥウウウスゥウ!!」

「バルフェゴォオオオオォオルゥウウウゥウ!!!」


 天地を揺るがす怒号と、ぶつかり合う拳と拳の衝撃が広い大地に響き渡る。

 空には幾重(いくえ)にも魔法陣が浮かび上がり、そこから発する魔法はどれも必殺の一撃。

 天を()がし、地を穿(うが)つ。

 悪魔軍最強戦力二柱の戦いは、終末戦争を体現する正にソレだった。


『怠惰』のバルフェゴール――怠惰を(むさぼ)る為に全ての戦いを圧縮するスピードスター。こと一瞬の火力は悪魔軍最強。


 対する『色欲』のアスモデュース――同格以下を瞬時に魅了するポルノクイーン。非常にピーキーな性能を持つ同格最強。


 激しく争ったのだろう。

 お互い顔を赤らめ、口から血を流している。

 しかし、なぜ二人はこうなってしまったのか?

 バルフェゴールのイタズラにキレた?

 アスモデュースの愛想が尽きた?



 否、この二人ただ酔ってるだけである……昨日の裏垢風騒動から今朝までずっと飲みっぱなし。

 店にある99%のウオッカを飲み尽くしたところで追い出されたのだ。


 それでもアスモデュースの怒りは収まらず、その矛先(ほこさき)をバルフェゴールに向けていた。

 戦いの真実は、所詮(しょせん)そんなものだった。


「「ウオォラァアア――ッ!!」」


 遂に戦いは決着へ。

 お互い叩き込んだ拳が頬に突き刺さり、見事なダブルKO。

 大地に倒れ込んだ二人に、地獄のどんよりとした空が映る。



「ハァハァ……満足かよ、アスモデュース……」

「ハァハァ……すいません、バルフェゴール……でも、気分は晴れましたよ?」

「ったく、あの店は私のお気に入りなんだから迷惑かけないでくれよ?」

「それは、貴女も同じでしょう? 最後なんて、周りに絡みまくってたくせに……で、今日の(ささや)きはどうするんですか? 生憎(あいにく)私は一歩も動けそうにないですよ?」

「同感だぜ……でも、毎日囁かないとルキフゲのジジイのドヤされるんだよな。あぁ~、もうこれで良いだろ。もうちょっとこっちに寄れよ」

「ちょ! ちょっと!? 今の私達を撮る気ですか? 鼻血出てますよ、バルフェゴール? それに、私だって化粧全部落ちてるし……」

「ハハッ! 細かいことは良いんだよ。案外ウケるかもしれないだろ?」

「フフッ、まさか? これでバズったら何でもしますよ?」

「ん? 今何でもするって? じゃー取るぞ。三、二、一……」


 ――パシャリ


 …

 ……

 ………


<<お前も蝋人形にしてやろうか! お前も蝋人形にしてやろうか!






「――あ〜、だり〜。んだよ、確認なんて後で良いや。とりあえず、寝よ寝よ。Zzz……」


<<お前も蝋人形にしてやろうか! お前も蝋人形にしてやろうか!


 部屋に戻ってきたバルフェゴールは、端末を放り投げて居眠りを始めた。

 鳴り響く通知音。

 しかし、彼女にとって確認よりも睡眠が大切であった。



「Zzz……Zzz……」

「起きよ、バルフェゴール。起きろ! 起きんか!!! 様子を見に来てみれば、またサボっておる」


<<お前も蝋人形にしてやろうか! お前も蝋人形にしてやろうか!


「アスモデュースも突然休みおって。これだから最近の若者は……」


<<お前も蝋人形にしてやろうか! お前も蝋人形にしてやろうか!


「えぇい! さっきからうるさいぞ、ディーモン!! ん? しかし、やつは十万と六十年前に消滅したはず」


<<お前も蝋人形にしてやろうか! お前も蝋人形にしてやろうか!


「これは……端末の通知音か? まったく、床に投げ出しおって……どれどれ?」


 スマホを拾い上げるルキフゲ。

 それからは止めどなく通知音が鳴り響き、コメント欄を見て彼は言葉を失った。



『本当に仲良さそう!』『二人とも可愛い』『こう言うので良いんだよこう言うので!』『加工ばっかの天使と違って自然な感じが凄く良い!』『青春って感じ(笑)』『ああ^〜心がぴょんぴょんするんじゃ^〜』『ここにキマシタワーを建てよう』『俺も混ぜてよw』



 大量のコメントはどれも好意的で、『参戦する』や『拡散する』は既に三十万を超えている。

 尚も増え続けるコメントと『参戦する』数。

 正真正銘バズったウィスパに写し出された物とは……


 笑顔。

 そこに写っていたのは、二人の笑顔だ。

 鼻血を出しながら歯を見せて笑うバルフェゴールと、青あざを作りはにかみ笑顔のアスモデュース。


 頭を寄せ合い『#喧嘩した』『#喧嘩仲間募集』と囁き、等身大の彼女達の美しさをそのまま切り取った見事なウィスパであった。






「――おらぁ! アスモデュース、テメー観念してこの服着やがれ! 何でもするって言っただろ!!」

「絶対嫌です――ッ!!!」


 地獄の空に、彼女達の声がこだまする。

 涙目で逃げるアスモデュースを、バルフェゴールが全力で追いかける。

 手にはセーラー服に短いプリーツスカート。

 どこかで見たことあるようなコスプレ衣装に、アスモデュースは全力で拒否反応を示した。


「この衣装は、今人間界で一番流行(はや)ってるゲームの衣装なんだよ。この間のウィスパアップデートで、十五秒だけ動画配信できるようになっただろ? お前がぴょいぴょい踊ればまたバズるって!!」

「い~や~で~す~。それに、ダンスネタはもうガブリエラがやったでしょ! また、パクりですか!?」

「バズれば何だって良いんだよ! おとなしく『レイノプールスタジオ』まで付いて来いやぁあああ!!」

「パワハラです! コンプライアンス違反です! 助けて、ルキフゲ様――ッ!」



 今日も今日とて、ネタ探しに邁進(まいしん)する二人――こちら悪魔軍広報部、今日も兵卒集めに囁きます!!


 ―完―

貴重なお時間頂きありがとうございました。

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